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童話「スーパーヒーローレボリューション」/#010

カヴ、不思議な話をする


10

 2030年に世界を変えるような大きな出来事があった。戦争だ。地球の全人口の半分が失われるような悲惨な戦争だった。
 軍事兵器を開発し戦争の作戦を考えていた管理官や科学者たちは、最初から戦後の世界についてもシミュレーションをしていた。
 人類が半分死滅してしまうことも、ある意味想定内のことだった。
 
 2030年の世界の総人口は80億人だった。それが半分の40億人になる。
 規模が縮小することで世の中は管理しやすくなる。全てをぶち壊して世界を一から作り直そうとしたのさ。もしかしたら戦争自体も人口を減らすためにあえて仕組まれたことだったのかも知れない。
 スクラップ&ビルドっていう考え方だ。
 
 戦争の始まる前からテクノロジーの進歩は目覚ましく、人工知能はもはや人智を超えた計算をしていた。
 
 我々は地球にそして太陽系に住んでいる。宇宙のどこかに別の太陽系が誕生して、そして生命体が誕生するのが180万年後であるという数字を人工知能ははじき出した。
 人類は物事を考えるようになって以来、ずっと生きることの意味を考え続けてきたけれど、AIはいとも簡単に人間が生きることの意味を計算ではじき出してしまったんだ。
 次の太陽系が生まれて生命体の存在が確認できるまでの180万年の間を絶滅しないで存続すること、それがAIの出した答え、人類の使命だ。
 
 そのために適正な人口が何十億人なのか、エネルギー資源の活用の適正量がどのくらいなのか、それを守るために人類はどうしたら良いのか、すべての事柄に対してルールをカッチリと決めた。計算ではじき出されたデータを基に整備をして、コンピュータとロボットに管理させたのである。
 
 政府の考え方では、大切なのは人間一人ひとりの幸福なんかではなかった。人類全体としてどうあるべきかが最も重要なことであった。
 
 だから、まるで顕微鏡で細胞を観察するかのように人間の行動を上から観察して、全体の動きをコントロールし、そしてトラブルを生みそうな危険な細胞を一つずつ取り除いていった。
 
 永い永い永遠のような時間を人類が存続できるように、必要とあらばとても冷酷に人口の調整も行った。それはときには災害や、ときにはテロリズムや、ときには病気の流行や、ときには戦争の姿をしていた。
 
 まさに今はそんな時代なのだ。
 
 こうしたことを仕組んだのは決してAIなどではない。私たちと同じ人間だ。
 永い時間を持続してくために緻密な計算が行われ、それを実行していくためのプログラムが作られた。しかし何事にも完全なんてことはありえない。
 未来の予測ができたとしても、それが100%正しいことだなんて誰が言えるだろうか。
 
 管理官と科学者は自分たちの仕組んだプログラムの中に保険を掛けた。シンギュラリティ※1が起こって、ディープラーニング※2をはじめたAIの行き過ぎた計算を、直感や感情を活用して、あえて人間らしく抑制するための装置を仕掛けておいた。

※1 技術的特異点。人工知能が人類の能力を超えた時に起こること
※2 コンピュータが人間の操作によらず、自ら学習していうこと

 それが過去から未来に送り込まれた人間たち、
 そう、ここにいる少年たちなのだ。

 それはとても不思議な話だった。
 
 話が一区切りしたタイミングでリーがカヴの耳元で囁きました。
 カヴの顔色がにわかに曇り、そして眉をしかめて少し厳しい口調になってこう言った。
 
 「ソラ、君たちがここに来たことは問題ではない。私たちは君たちを信用する。しかし、車を使用したということには少しばかり問題がある。車を使うと移動のログが残る。車の動きは監視されている。やがて政府管理局にこの場所は知られるところとなるだろう。」
 
 「ごめんなさい。」
口調のキツさにソラは思わずそう言いました。
 
 「いや、君のせいじゃないさ。いずれ早かれ遅かれここも見つかってしまう。次の隠れ家を探さないといけないと思っていたんだ。」
とカヴは言いました。
 
 「僕たちはカヴの説明にあったように過去から来たものだ。過去から目覚めた人間がいると街中に設置されている監視カメラがその情報を政府管理局にメッセージを送る。管理局は目覚めた人間たちも、この時代の人たちと同様に番号で管理するために、今回のように使いを出すのです。僕らは管理局よりも先に、目覚めた人たちを保護して、そしてそのログを政府の管理するコンピュータにハッキングして侵入し消去する作業をしているんです。」
とリーが説明しました。
 
 「ジャンの生活ログは一旦は消去したんだけど、ソラたちが車を使って追跡して来たことで、不審な情報を残してしまった。しかもGPSが使用されている。」
 
 「ごめんなさい。」
また、ソラが申し訳なさそうに言いました。
 
 「いや、いいさ。それも運命だろう、きっと。それに、そろそろ彼と話す必要があるとも思っていたし。」
 
 「彼?」
 僕が質問をすると、それには答えずにカヴは指を一本唇の前に立てて、耳を澄ましました。
 
 カヴは広間に行くとそこにいる少年少女たちに向かってよく通る声で言いました。
 
 「もうすぐ政府から使いがやってくる。みんなはいつものように地下の部屋に集まって息を潜めていてくれ。」
 
 すると、談笑していたり、ゲームをしていたりしていた少年少女たちは、みんなすぐに片付けを始めて、カヴに言われた通りに隠し扉の向こうにある階段を使って地下に降りて行きました。
 
 「君たちもだよ。」
 ソラたちを部屋に案内して来た少年が背後から僕の肩に手を乗せました。
そして少年に促されて、僕もソラもトムもチッチもリーも秘密の階段を降りて行ったのでした。
 
 階段を降りて行くと階段のどん突きのところに大人ならば屈まなければ通れない高さのドアがありました。ノブを回して中に入ると、防音の設備なのかドアが二重になっていました。そして足を一歩踏み入れるとそこには、地上にあった広間よりも広いかと思われる空間が広がっていたのです。
 
 広間の中央には薄くて巨大なモニターが設置されていて、オリンピックの競技である3人制のバスケットの試合が行われているところでした。

 その頃、地上の階にいたカヴは、玄関のチャイムに対応して、モニター越しに訪問者と会話をしていました。
 
 もちろん訪問者は政府管理局からの使いのロボットで、質問したいことがあるので一緒に管理局まで来て欲しいという依頼でした。


#010を最後までお読みいただきありがとうございます。
#011は3/29(水)に配信します。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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