送り火
本当は母を手放したくなくて
台風のせいにしていた
電車も行き着くか分からない
魂までも還ってしまう
台風の雲間から
ゆっくりと電車は進む
いずれにしても母は還って行く
どんなに行かないでとこころの中で喚いても
母はもう娘時代に戻ったように
若くなり
恐らくお茶のお稽古をしていた頃みたいに楽しげに笑っている
そんな姿が浮かんでくる
そう親様が言われていたように
わたしが生まれる前の若い頃の母に戻って
天の国で微笑んでいる
母と並んで電車に乗って
送り火の元まで送って行く
母と一緒にお参りをして
親元で過ごす
夕祭りの後に
御先祖供養をし
送り火をする
西の空には金色の雲の龍が現れる
神様ごとは心配しなくても
ちゃんとうまくゆく
それは心を込めて行うから
送り火のあとはもう
母は極楽浄土に還ってゆく
いえいえ、またすぐに戻ってくる
台風は跡形もなく消えていた
どこからか黒アゲハがやって来る
あゝ母だ
一瞬で消えて行く
「お母さんも還って行ったのね」
お社さんにも言われたが
母はまたすぐ降りて来るに違いない
雲の流れの中にある極楽浄土を感じられ
ずっと見たかった送り火を
母を送る
送り火は一瞬になくなったけど
わたしを清々しい気持ちにさせてくれた
母のお仕事を見せてもらえた
彼方の世界におかえりになる御魂様たちをお連れする
そしてまたすぐ降りてくる
行ったり来たりを繰り返す
身体のない魂だけの世界で生き続けてる母のお仕事を
この世での修行を終えて還って行った母の魂は生き続けている
彼の世とこの世を繋いでいる
不思議な不思議な送り火だった
わたしもまた母に負けないように
生きないと
身体はクタクタになり
わたしは直ぐに眠りにつく
わたしも少し母に連れられて彼方の世界に行っているのだろうか
魂だけの世界へ
不思議な世界の入り口に繋がっている送り火よ
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