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母の帛紗

わたしは母がお茶をやっていたことを知らない

ただ家にお茶に使う道具があっただけ

母がお茶を習っていたのは伯母から聞いていた
伯母は母の内緒話をしてくれた
それはわたしが独りで伯母の家にいった時のこと

母とはそんな話しをしなかった
母の娘時代の話しは御法度だった
母は封印していたようである

だからわたしも知らんぷり

ところが五月にお茶会がひらかれる

昨年の夏に初めてお茶を飲む機会があった
母の新盆の時である

わたし以外はみんな作法を知っていた
懐紙(かえし)にお扇子を持っている

ちょっと困った
わたしだけ
わたしだけが何にも持っていない

左右をキョロキョロ
見よう見まね
恥ずかしながら何にも知らない
わからない

興味がなかった
 

そうしたら…そばにお茶の先生のすずさんが寄せられた
そんな都合のよいことがあっていいのか
と思うほど

「いつでもおいで」と言ってくれる

付け焼き刃でも知っていた方がいいに決まっている

「分かりました」と手始めにランチの後にさわりのお稽古をしてもらう

翌日に母の持っていた懐紙入れと帛紗(ふくさ)入れを見つけてしまう

懐紙入れは居間にある目の前の飾り棚にちょこんと置いてある
以前はそこに茶杓も茶筅もあったはず
でも今はない

森下典子氏の「日日是好日」も見つけてる
わたしが買って母に上げた本

もう一度読み直そうと引っ張り出した

まるでお茶をやりなさいと母に言われているようだ

母の帛紗を写真にとり
すずさんに送る

帛紗は古く汚れもあり

「どうせ帛紗は汚れるから、最初はお母さんの形見の帛紗にお仕事をしてもらいましょう」
とすずさんから返事がくる

姿はない
でも母と一緒にお茶を習うことになる

いつの間にか母に
はめられた感じがする

どうしてここでタイミングよく母の帛紗が出てくるかな

いつもは開けない茶箪笥から





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