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准看護師ハイハイ

昨年の夏、私は骨折して入院。
手術をして、病院併設のリハビリ病棟に移った。
最初の部屋はお年寄りばかりの4人部屋。
少し認知症の入った2人と頭のはっきりした一番年配の人、そして私だった。
私は車椅子、バルーンの入った身体で、便秘。お通じが出ない苦痛から、人の少ない夜中に看護師を呼んだが、やはり出ない。人手不足の病棟では露骨に嫌な顔をされた。
仕方がないことと感じた。

私の前のベッドの認知症のあるPさんも、夜中によく看護師さんを呼んだというか、自分でベッドの横にあるポータブルトイレに行こうとしてベッドから落ちて、頭のしっかりしているYさんがPさんの代わりにナースコールを押していた。
リハビリ病棟はお年寄りの住み処。

次に移った部屋はナースステーションから一番遠い部屋、しかも1つしかない車椅子用のトイレからも一番遠い。車椅子の私には不便極まりない。
でも他の部屋より少し広い。

やはりそこでも、私は一番年下の新参者。

過ごしながら様子を伺う。
すると、違う部屋の患者さんが病棟の看護師さんのことを「あの人は頼むと何でもやってくれる人、ハイハイと口では言うけど絶対にいうことを聞かない人」等と教えてくれるようになった。
同室の患者同士でも上手くコミュニケーションが取れないで、部屋を移されることがあると知った。
ここも人間関係、難しいのね。

新しい部屋は前の部屋よりも少し年齢が低いようで、少しずつ先輩患者さんから話掛けられるようになった。
半月ほどするとその人たちは次々に退院して行かれた。

私は骨折から骨粗鬆症と分かり、毎日自己注射をすることになった。
ある時、例の先輩患者さんから教わったハイハイ准看護師が私の注射器を持って部屋までやって来た。
「もうすぐリハビリの時間だから、あとからにして」というと、
「今、注射をして」と言い張る。

他の看護師さんならば、そんな無理強いはしない。
私の前のベッドの91歳の可愛らしいおばあさんも、私と同じ骨粗鬆症の注射をしていたが、いつも優しい看護師さんたちに「今は注射をしたくないから、後からにして欲しい」とお願いして、持って返ってもらっているのを良く見ていた。

何かへん。何?患者は看護師の言うことを聞けと…。看護師によって態度が違い過ぎる。

間もなく、若いリハビリ担当のスタッフが来て、私とハイハイのやり取りを困った顔をして見つめていた。私はプンプン。

もうリハさんが来てしまったので、注射はあとからにして、その注射は冷蔵保存なので、ナースステーションに持って返って欲しいとお願いした。最初はここに注射は置いて行くと耳を貸さないハイハイ。
「あんたね、それでも医療従事者?その注射は冷蔵保存、ここには冷蔵庫ないのよ」という分かり切った言葉を飲み込んだが、私の態度には十二分に出ていた。

ちょうどその日に退院をする人の薬の説明に来ていた薬剤師さんがいた。
ハイハイは渡りに船とばかりに冷蔵保存の注射をそのまま置いて行ってもいいでしょ…と薬剤師さんに詰めよっていた。
あくまでも持論は曲げない。

しかしそこは薬のプロ、薬剤師。ハイハイも打ち負かされようであった。

ハイハイは渋々薬剤師さんの指示に従い、私の言う通り注射を持って返った。
しかし私は納得が出来なかったというか、腹の虫が納まらなかった。

その直後、隣の部屋の私と同年代の患者仲間から、ハイハイが私以外にもリハビリの時間なのにも関わらず骨粗鬆症の自己注射を打てと無理やりさせていると聞いた。
その人たちはリハビリがサボれるから、ハイハイとハイハイの言うことを聞いていたらしい。

看護師の方がリハビリスタッフよりも序列が上なのだ。
後からリハビリスタッフがこっそり教えてくれた。

好き勝手をしているハイハイに我慢ならない私は、どうしたものか?と思いあぐねた。
師長に言うことも考えたが、ハイハイはいつも師長の腰巾着のようにしている。ちょっと無理かな?

他の看護師さんたちに言っても、まあ交わされるわな。

いきり立っている私をどうにか落ち着かせるために、隣の部屋の同年代の患者仲間は、一緒にどうしたらいいかを考えてくれた。

「主治医の院長に言うのはどう?それがいいよ、様子を見に来る時に言ってみるのも手だよ」

そうか、その手があったか…。

後日、毎日様子を見に来る主治医の院長に「看護師によって注射の対応が違うので、困ります」と苦情を言う。

「分かりました、僕から看護師たちに伝えておくから」
これで私の問題は一件落着した。

以後ハイハイは私を怖がるようになったが、相変わらず患者いじめを止めない。

今度は同室年配の癌患者さんがターゲットにされた。
別の病院からリハビリ病棟に転院して来て、手術の後の傷痕の処置をお願いしたら、
「自分でやれば」と…ハイハイは冷たく言い放ったらしい。
えぇ~、どういうこと?。娘さんに手鏡を持って来てもらって、彼女はナースステーションからホットタオルをもらい、自分で処置をしているという。
「私は泣いた」と訴えられた。
別の年配看護師さんは「一緒にやるから、呼んでね」といってくれたらしい。
ただ、いつもその看護師さんに当たるとは限らない。

同室の私たちは、年上の彼女を守るように努めた。

私は彼女に自分の経験を話した。そしてリハビリスタッフから聞いた家族が病院にクレームを入れたらいいと教えて、退院をした。

後日、私はハイハイを外来で一度見かけた。
あぁ、あの人まだ働いているのか…。コロナ禍で余程、人手不足なのね。

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