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何にもしないつもりの日【雷鳥沢2021夏 4日目】

2日目に剱岳に近づきすぎて(そのうち2日目のことを書きたいが、書く時間があるようでないのでまだ書けない)脱水を起こし、体調不良により寝込みまくっていた3日目の夜から、突然体調が絶好調になったので、夜遅くまでタブレットで映画を見続けた。

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映画のお供にこれ。
オランダの友達のところに居候させてもらった時に、エイファとエリナに教えてもらったお菓子、ストロープワッフル。
薄いワッフルというかゴーフルみたいなやつにキャラメルが挟まっていて、それを温かいコーヒーカップの上に乗せて少し置いておくと、中のキャラメルがとけて、とろーりして美味しいのだと、2人に実践してもらった思い出。
テントの中で何となくアムステルダムの思い出に浸りつつ、ゲバラマグのはちみつ紅茶の上に乗せて少し待つと、テントの中でキャラメルと微かにシナモンの香りが広がった。

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ワッフルもしなっとしていて、中のキャラメルもとろーり。
こんな風に、旅で過去の旅の要素を取り入れて楽しむのが私は好きだ。家でやるより特別感があるし、思い出が更新される気がして良い。

この夜に見た映画は「ミッドナイトスワン」と、アマゾンプライムにあった「朝食、昼食、そして夕食」と「レヴェナント」
「朝食、昼食、そして夕食」はスペインのカミーノのゴール地点であるサンティアゴ・デ・コンポステーラの町で起こる普通の人々の何気ない食事を通した群像劇。
個人的に思い出深い町が舞台だったのも良かったし、スペインのご飯が美味しそうだったし、かつての最愛の人との昼食や、ゲイを兄に隠しているカップルの夕食など、どのストーリーも面白かった。
それは良かったとして。


なぜ私は「レヴェナント」などというイカれた映画(映画館で2回見た、好きです)を、真夜中の山の中で、一人で再び見てしまったのだろうと後悔している。
熊の恐ろしさたるや。ディカプリオみたいに戦えないし、生肉をかじれない。
バックパックの底に仕舞い込んでいた熊よけの鈴を出してきて、常に熊よけの鈴と食料と水を持ち歩くことを再確認した。

物音がすると熊かな、と思うようになってしまったから、耳栓を装着して眠ることにした。

夜更かしした後の4日目の遅い朝も天気は悪く、雨が凄かった。
ぼーっと横になって雨の音を聞いていて、今日も何もせずごろごろしてようと決めた。
ダウンジャケットを脱いでレインジャケットに着替え、トイレへと向かう。歯を磨いて戻り、テントの前室でお湯を沸かして昨日の焼き小籠包の残りを温め直してホットドッグとともに食べた。

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焼き小籠包も、上海の旅で命を救われた思い出があるから、今日も命を救ってもらえるようにありがたく味わう。

さて、もう一眠りするか、何か映画でも見ようかなとテントに入ると、衝撃の事態。
テントの通気口みたいなところを開けたままにしていたので、その真下に脱ぎ散らかしたダウンジャケットに水たまりができていた。
ギャー!
私の命のダウンジャケット。なんてこと。
寝袋とダウンパンツとダウンシューズは無事だった。
だがしかし、これがないと、私、凍死しちゃう…。
助けて…。
急いで水を拭き、軽く絞り、手ぬぐいでパンパン叩き、まだ朝だから夜までに乾くに違いない、と信じてテント内で干した。
やはり、油断せず、常に片付けることは大切だ。 


防水のスタッフバッグをいくつも持ってきているんだから、ダウンジャケットをそれに入れれば濡れずに済んだのに。
そしてテントのあの三角形の通気口!
暴風雨の日は開けないのだな。しかと学んだ。
2度と開けっぱなしで呑気に雨の音を楽しんだりしない。
インナーテントはほぼメッシュなのも誤算であった。
通気口を閉めても、もうずっと滴り落ちてきやがる。
ディカプリオよ、君ならどうする?
レヴェナントの世界に入り、問いかける。
君ならきっと熊の毛皮を被れば雪山でもOKだよな。
私の濡れたダウンジャケットもよく見れば熊の色をしている。濡れてても大丈夫かも知れない。いや、そんなわけない。どうするよ。

とかなんとか、テント内で一人でバタバタやってたら、急に晴れてきた。
「山の天気は変わりやすい」はほんまやで、と呟く。
白のテントは標高2450mの太陽の攻撃を全く防いでくれず、あっという間に蒸し風呂状態となり、何もしないでテントでごろごろ計画は、暑くて暑くてとてもじゃないが叶えられそうになかった。
それでもいつ雨がまた降るかは分からないので、通気口を閉じ、ダウンジャケットをテント内で干しつつ、山には登らずに室堂散策をすることにした。
帰ったら乾いててくれよ、私の熊の毛皮よ。
祈りを込めて、そして濡れたくないもの全てを防水バッグに入れて出発。
雨が降るかもと油断してハットを被ってくるのを忘れたが、雨が降るどころか灼熱の暑さがやってきた。
これはまたも誤算だ。
顔丸出しの上に、日焼け止めも朝起きて塗っただけでテントに置いてきてしまった。全く何やってんだ。
戻る気力もないくらい20分登ってきてしまったので(雷鳥沢キャンプ場はえぐいほどくぼんだ位置にある)、戻らずに進むことにした。(なお、山に登った時などは全然大丈夫だったが、この時を機にものすごく顔が焼けた…)

みくりが池がこれまでにないくらい青い。
空の色によって色が変わるのが面白くて、みくりが池温泉でソフトクリームを買って食べながら、しばらく見ていた。

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逆さ立山。

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やはり、立山を見るたび、私はあの山を右から左へと歩き通したのだという嘘みたいな本当の出来事を思い出して遠くの稜線を指でなぞってしまう。お腹が痛くなったのはあの辺りだろうか、などといつもそれを確認したくなる。

それから、室堂ターミナルに向かい、今日は土用の丑の日だし、立山ホテルのレストランでウナギでも食べるか、と意気込んでやってきたのだが、たった今、お食事のラストオーダーが終わったところであった。
まったく、もう。
色々と誤算続きだ。
仕方ないのでカフェメニューの黒部ダムシフォンケーキを注文。

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雷鳥が乗っている。生クリームがダムの放水を表現しているのだろうか。
キャンプ場からここまで、アップダウンを繰り返して徒歩60分。汗だくになってしまったが、巨大なシフォンにキャラメルソースと生クリームでむちゃくちゃ生き返った。
それから湧水をたくさん飲んで、売店でレトルトのアルペンビーフカレーを買った。おいおい、まだまだ食料が余っているというのになぜカレーを買い足す必要があるのか。帰り道、自問自答を繰り返したが、食べたくなったから仕方ない、というのが答えであった。

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40分歩いて、雷鳥荘に寄り、日も暮れてきたのでカフェで夕日を見ながらホットココアタイム。
昨年に引き続き今年もこっそりマシュマロを持ってきていたので浮かべて飲んだ。


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それから、カフェにいた人たちが何やらぶつくさ言いながら外に出ていったので、釣られてちょっと出てみるとこの景色。

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美しい空。
夕焼けで赤く染まる山のことをアーベンロートと言うらしい。隣のうんちく山おじさんがそう言っていた。時々いいことを教えてくれるよね、うんちく山おじさん。でも時々で良い。
遠くに小さく私のテントも見えた。
そうだ、温泉に入りながらこの空を見よう!と思って大急ぎで雷鳥荘の温泉に入った。展望風呂から大日岳の向こうに広がる夕焼けをずっと見ていたら、少しのぼせた。

それからアクエリアスを一気飲みして、20分かけて下り、テントへ戻ったら、私の熊の毛皮は無事乾いて蘇っていた。
助かった。命拾いした。
そして、さっきまで、カレーを食べようと思っていたのに、おでんを食べたい気持ちになり、おでんを食べることにした。

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トイレに行くと、星空がすごく綺麗だったので慌ててカメラを取りにテントに戻り、星空の撮影に夢中になった。

今日は何もしないつもりだったし、現に山に登ったりなどしていないのだけど、とても充実した一日だったような気もするし、のんびりできたような気もするし、忙しかったような気もする。とにかく気まぐれに過ごした気はする。
そんな4日目が終わった。

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私のテントが異常なくらい輝きを放つ仕上がりになった。
星空撮影は難しい。







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