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狂伝 佐藤泰志 ー無垢と修羅

文学に依存して、あげく自ら命を絶った。
膨大な記録と取材から編まれた力作からうけた
「佐藤泰志」の印象だ。
41歳で縊死した佐藤泰志は若いうちに認められ、そこから文学に取り憑かれた。
認められたから取り憑かれたのだと思う。
亡くなるころはアルコール中毒だったようだけれど、彼が本当に依存していたのは「文学」じゃなかろうか。
次々と女性に手を出すことも、お金もないのにアル中になるほど飲むことも、最後に首を括ったことも、「文学」を手に入れるための手段だったのではないかと思えてくる。

実は佐藤泰志の小説を読んだことがない。
映画「海炭市叙景」が話題になり、図書館で原作を借りようと思ったら
予約待ちが何人かいて、それじゃあそのうちと思っているうちに忘れてしまった。
読んでもいない作家の評伝を手に取ったのは、あの時代に自分の才能を拠り所にもがきながら生きていた人に興味があったからだ。
あの時代、酒や縺れた男女関係、そして暴力は文学の必須アイテムだった気がする。(今ならさしずめ、孤独だろうか。)

彼の感性と想像力をもってすれば、それは手に入れることができたように思うけれど、なかなか賞がとれないことで焦ったのだろうか。
精進できなくて、手っ取り早くそれを手に入れようとしたのだとしたら、それはもうタイトルにある通り「狂気」でしかない。

ディスっているようだけど、「狂気」を持って文学にのぞむ彼はとても魅力的だっただろう。

気になったのは、妻の喜美子さんだ。
小説に集中するため仕事は長く続かないし、結婚してからも他の女性にラブレターを出したり、交際したりする。暴力もひどかったようだ。
時代が違うから、離婚はそう簡単にできることではなかったのかもしれない。
それでも別れなかったのは、「狂気の人」の魅力から離れられなかったのではないか。
彼女もまた、何かに取り憑かれていたのかな。

彼女から見た「佐藤泰志」を読んでみたいと思う。

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