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劇「空夢」を見た感想

ひそかに楽しみにしていた演劇を見てきた。「劇団papercraft」の新作公演である『空夢』。今まで本劇団の作品を二つ見て感じたことは、独創的な世界観を広げつつ、散りばめられた断片的な情報から解釈の幅を持たせる作品が多いこと。本劇団を見に行くときは、事前にぐっすり寝て頭を空っぽにして、何でも取り込める万全の体制で臨むようにしている。過去作の『世界が朝を知ろうとも』と『檸檬』の感想はこちら。


あらすじ

同級生の街。同級生みんな、この街で育ちました。ずっと、今も。そして同級生の私達二人は、これから夫婦になるのです。ただそんなある日、同級生が一人、多かったことに、誰かが気づいたのです。いつ誰が、どうして多かったのかは、誰にも分かりません。ただでもだから、一人多いので一人減らさないといけないのです。この危機を共々、乗り越えよう。そんな気持ちでは、いた日々でした。

引用元:劇団papercraft  ポスター

これからネタバレ注意

感想

同級生の街に住む婚約したての夫婦に舞い込んでくる謎のうわさ。“同級生が一人多い”。同級生の街を統括する先生から、夫の調査を委任された妻は戸惑いつつも調査を進める。ついに審判の時“同窓会”を迎えた妻は果たして夫を守れるのか。

枝葉を落とした説明だと夫婦のどちらかに言えない秘密があって、その秘密が反逆として捉えられようとも夫婦で乗り越えていく逃避行、または駆け落ち的なストーリーのように見える。しかし、実際は夫婦の愛よりも、彼らが存在する同級生の街に焦点を当てた話だった。同級生の街は恐ろしい集落を想起させる。謎の決まり事や過干渉的な関わり合い。不可解な風習を盲目的に信じ込む同級生の街は、奇妙にリアルな気持ち悪さを醸し出していた。決まり事を守らないと...という語り口は、小さい頃の「早く寝ないとお化けが来るよ」「そんな悪い子は鬼が連れて行っちゃうよ」というホラー的な強制力を持っていた。

そして、観客が迷わないように最初から北極星を立ておく、つまり話のオチを決めておく設定にも脱帽した。同窓会で同級生を一人排除しなくてはならないということ。人狼的なゲーム性があることで、最後まで飽きずに見ることができた。

伝えたいメッセージとは

前回作品『檸檬』は「向き合うべき課題を運命/社会のせいにする人間の弱さ」がメッセージだと記述した。一方で、今回『空夢』は「運命/社会で、もがき苦しむ人間の辛さ」をメッセージとして受け取った。不可解なルールの中でどう自己表現してコミュニティーに馴染んでいくのか。それは、現代でも少なからずあるように感じる。本音と建前で、相手のためにならないけど、その場の雰囲気を悪くしないためについウソをついてしまう。これは、冒頭で家族が家政婦に対して料理がまずいと言えないことと同じだ。その不条理な現代で生きていくのはつらい、だけれども少なくとも受け入れていかなくてはならない。

最後に

演劇の魅力は、目の前で生身の人間が架空な世界を演じることで、観客を連れて行ってくれること。しかし、架空の世界といっても観客は人生と照らし合わせた追体験をしたいとひそかに思っている。SFは現実とかけ離れた世界観を楽しめる一方で、説明に時間や装置を要する(観客も理解に体力を使う)し、追体験しづらいという難しさがある。脚本を担当される海路さんは、主にSFをテーマにされることが多い中で、今後の作品をどう広げていくのか引き続き楽しみである。観客側に降りてきて身近な作品(人間関係や愛など)を作るのか、それともSFの世界を突き進むのか、はたまたSFと現実(身近)を共存する作品を作っていくのか。いつか機会があったら、海路さんともお話してみたい。

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