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さぼてんの写真

さぼてんの写真がある
50mm, f1.8のレンズで撮ったのだろう
一点にだけピントが合って
まわりはぼけぼけだ

硬い棘が
柔らかい坊主頭のように
かすんだ光を
突き刺している
それは誰が撮ったのか

私が撮ったのか
覚えがない

私の姉が撮ったのか
私の恋人が撮ったのか
まさか私の母が撮ったのか

この人たちには無意味なものだ
記念日と内輪の人々
せいぜい美しい草花のために
この人たちのカメラは存在を許される

私は思い出した
これは友人が撮ったのだ、と
私が友人の部屋に遊びに行ったときに
私のカメラでこっそり撮ったものだ、と
なぜならこのような写真の撮り方は
私の友人が得意とするものだからだ

しかし
私はその時間を忘れてしまっていた

その後も次々と、忘れた頃に
さぼてんの写真は見つかった

その度に私は
その写真が撮られていたはずの時間を
思い出した

撮影時間は日の当たり具合と光の色からわかる
絞りと露出はだいたいこれくらい
場所はたぶん友人の部屋

そしてとうとう最後に
重大なことを思い出した

その友人の写真が
一枚もないことを

写真は撮られる側ではなく
撮る側の魂を奪うらしい

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