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【短編小説】全てがタカラモノに見えていた

あの頃は全てがタカラモノに見えていた

いつからだろうか…
キラキラした雑貨のショーウィンドウを見つめて俺は考える。

幼い頃や貧乏で1日を過ごすことだけが精一杯だった。あの一人暮らしの大学生時代

あの頃に見ていた並んだ雑貨はもっとキラキラに見えていた。

全てが宝物に見えていたのに

もう一家の大黒柱として家族をしっかりと養うことができるくらい稼げるようになった

この宝物だったはずのキラキラした者たちが何でもないただのぬいぐるみやおもちゃに見えてしまう。
そんな俺がすごく情けなく感じる。
今ではもうすっかり娯楽や趣味。
ゴルフやワインを楽しむことだって易々とできてしまう。

お金を使うことへの抵抗がなくなってしまっている。

そんな自分に嫌気がさす。


もうすぐクリスマスだから、妻と娘へのプレゼント探しに来た。

前から目に付けていたくまのぬいぐるみ。
前見た時と違うクリスマス限定の高級バージョンが出ていた。
値段は通常版より5000円も高い。

少しためらう

プレゼントは値段じゃないとわかっている。けれどでもせっかくだから高いほうがいいのかな…なんて思ってしまって、結局俺は限定バージョンのくまのぬいぐるみを手に取った


電車に揺られながら包みを見て、
これでよかったんだろうかと。

もう買ってしまって、どうしようもないのに繰り返し考えてしまう俺がいる

でも2人の喜ぶ笑顔が見たいから、俺は後悔なんてしてないと自分に言い聞かせる

値段じゃない。と言い聞かせる


家帰って玄関の扉を開ける。

勢い良く抱きついてきたのは娘だ。
そして目の前にいるのは優しい笑顔向けたエプロン姿の端の姿。

出張から久々に帰ってやっと見れた2人の姿は今まで何度も見た事あるはずなのにとても特別なものに感じた。

クリスマスだから…と言うのもあるのか?


娘が俺の持っていたプレゼントに気づいた娘が早速飛びついて包を開ける


「そんなに急いだってプレゼントは逃げないぞ」

と笑いながらスーツのジャケット優しく取ってくれる妻の横顔を見る
その姿が本当に美しくて

俺は娘の見えないところでぎゅっと妻を寄せる

やっぱり変わらない華奢な肩の柔らかさ

「…かわいい!!くまさん!」

と突然娘が振り返るものだから、はっとしてすぐに距離を置く

でもまんざらでもない妻のほころぶ顔見てやっぱり結婚して良かったな、としみじみ思う。

振り返って笑顔の娘のに抱かれた
限定のくまのぬいぐるみ。

娘は、3つのクマを

「これはパパの、これはママの…」

と言って俺らの分も渡してくれる。

やっぱりくまにして良かった
3人分買ってよかった


…そう思っているものの、やっぱり高いから選んでその方が愛が深いのではないかと言う邪念。

そんなふうに後悔のうに思ってしまう

心の悪魔がいることにチクリと心が痛む

「夕飯の用意をするわね」

と言う妻に俺は

「ありがとう」

と言い部屋着に着替えようとする。


すると、俺の下の方から

「ねぇ、パパ」

可愛らしい娘の声

「どうしたんだ」
との娘方を見る。

持っていたのは1枚の画用紙

俺がしゃがんで、受け取り

「これどうしたんだ?」と聞く


すると、娘は少し照れ臭そうに。
でも少しなんだか自慢げに

「…クリスマスプレゼント!」

そして渡してきた画用紙の上に描かれたじゃがいもみたいな、3人の似顔絵

そこに描かれた俺たち、3人の姿はキラキラしていて、これ以上のない素敵な幸せそうな家族の姿だった


やっぱり値段じゃないよな…
プレゼントってのは

高級だから限定だからいいとか、高い方が愛が深いだとかそんなふうに思ってしまう大人になってしまった
俺が情けなく感じた。

やっぱり気持ちがこもっていれば
これ以上嬉しいものはない。


「ありがとう!」
そう言って俺は娘を抱きしめる

「くすぐったいよー」
と言ってエヘヘと笑う娘の姿に
俺は帰ってきて良かったと思った

正直、高い方を選んで、その方が愛が深いなんて思ってしまう自分の嫌なところだ。

それで自責の念にかられていたけれど違った


気持ちを込めていることにはやっぱり変わりがなかった。

愛を込めて選んだプレゼントである事は変わりがなかった。

だから俺は後悔なんてしない

よかったんだ。これで。

愛している気持ちが込めているプレゼントである事は変わりがないのだから

そして俺はもう一度2人の顔。
娘と妻の目を見て言う

「ありがとう。愛しているよ
ハッピークリスマス。」

あとがき
もうすぐクリスマスのなので書きました

損得勘定や値段で考えてしまう悪い癖を治したいと思い、やっぱり気持ちが大事だとプレゼントを選ぶたびに思います

最後まで読んでくださりありがとうございました

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