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「あれもこれも」は伝わらない

「この商品の一番のポイントはここです。それと、ここ。それからここも重要で、もっとも大事なのがここ」

以前、広告にまつわるライター業で生計を立てていたとき、クライアントから「ウリをしっかり紹介してくれ」という依頼をよく受けていました。

先方が用意する資料をもとにオリエンを行って、その商品ないしサービスのどこがポイントなのかを事前に共有するのですが、そのポイントが一点に集中していることは一度もなかったです。

原稿を書く側からすれば「あれも書かなきゃ、これも盛り込まなきゃ」と配慮をすればするほど焦点の定まらない凡庸な記事になってしまうため、「この一点にしぼった広告にしませんか」と提案することも少なくありませんでした。

だって、あれもこれも書けるわけがないですし、書いたところでそんな原稿だれも最後まで読みません。だれにも響かず、だれにも伝わらず、だれも得しない原稿になることは書く前から見えていました。

「あれこれ盛り込みたがるなあ、クライアントってやつは」

そう嘆く一介のフリーライターだった僕はしかし、衝撃の事実を知ることになります。

自分自身が「あちら側」にまわったら、ウリを一点にしぼることが相当むずかしいということを。



かつて広告業に携わるライターだった僕が文房具の企画・販売をするメーカー業を興したとき、とくに意識したのは「商品説明を一文で書くこと」でした。

たとえば「パソコンのキーボードの隙間に挟んで立てかけられる伝言メモ」だとか「忘れちゃいけない用件をメモして腕に装着する紙製リストバンド」といった感じで、ひと息で言い切れる一文をかならずつけていました。

それが奏功したのか、プレスリリースに書かれた一文をそのまま見出しにしたようなメディアの記事がたくさん生まれて、認知がぐっと高まりました。

とくに創業時は「商品自体がキャッチーであること」を一番に心がけていたこともあり、商品名も説明文も、とてもわかりやすくなっていました。


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▲創業時に発表した動物型の伝言メモ


ただ、現在の看板商品である WORKERS'BOX という収納ボックスは、自社史上で初となる「キャッチーじゃない商品」。

変にバズらず、ひっそりと、しかし確実に売れ続け、じわじわとみなさんの生活に浸透していくことをあえて意識した商品です。

だから商品の特長をじっくりと説明していく必要があります。

多面的に紹介することで、すこしでも多くのひとに「使ってみたいかも」と思ってもらえるよう、発売から4年が経つ今でもウェブサイトやSNS、noteを通じて語り続けています。


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すると、どうでしょう。自分たちのウェブサイトがあまりにも「足し算」で構成されているではないですか。

とくに「1ページで購入に至るランディングページ」としての役割を課しているトップページに至っては、伝えたい情報がモリモリになっています。

インターネットに「紙幅の限り」がないのをいいことに、たくさん書けば書くほど「どれかは響くだろう」と信じて、あれもこれもと情報を重ねてしまっていたのです。

「あれこれ盛り込みたがるなあ、クライアントってやつは」

かつて天に向かって吐いた言葉が、そのまま自分の頭に降ってきました。

正確には自分たちはクライアントではないですが、商品を作って販売している立場である点では同じ。

いっぱい伝えたいことがある立場が災いし、自分自身も「あれもこれも病」に罹患してしまっていたのです。

ライター時代はあんなに嫌がってたのに、いざ自分たちが当事者になると、同じことをしてしまうものですね。おそろしい。



というわけで、まずはウェブサイトのトップページから「情報を間引く」ことにしました。

初めてアクセスした方が最初に触れるページですから、「あれもこれも」の圧がかかりすぎないように引き算しました。


【1】全体的に文字数を減らした

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書いた文字のすべてを読んでもらえるはずだと思いこむのは、伝える側のエゴ。

「そこまで気乗りしてないひと」が「たまたまアクセスした状態」であってもストレスを感じずに読み進めてもらえるよう、全体的に文字数を減らしました。

テキストが途中で改行されず、なるべく一文で表示されることも心がけました。もちろんデバイスやブラウザにもよるのですが。


【2】説明写真を厳選した

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写真もテキストと同じく「減るもんじゃないし」と増やしがち。

Detailと題して説明カットを12枚も並べていたのですが、3分の1を削って8枚にしました。

また、パソコンのブラウザで見たときにひとめで目に入るよう、4枚×2行のレイアウトに組み直しました。かつては2枚ずつが縦にずらずら並んでいて、スクロールするのも大変でした。


【3】要素を1画面に収めた

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スマホで見るとき、指でスクロールし続けるのは大きなストレス。その蓄積が「離脱」につながらないよう、なるべく同じ要素を1画面に収めることにしました。

上記は「こんなときにおすすめ」という商品の使用例を並べた個所ですが、iPhone 12 mini の小さいサイズでも1画面に収まっています。ついでに「Example」という見出しはなくても伝わると判断して外しました。


【4】レビューを1つにしぼった

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参考になるユーザーのレビューから2つ選んでトップページに並べていたのですが、2つも要らないのではと思い、1つにしぼりました。

それも文字数が少なくて、的確に「魅力的だ」と感じてもらえるレビューを厳選しました。

もっと他のレビューを読みたいと思ってもらえたら「レビューを読む」のボタンから飛んでもらえればいいわけで、まずは「興味の入口」をシンプルに設けることにしました。


【5】シェアボタンをカットした

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トップページにだけ「SNSへのシェアボタン」をつけていたのですが、これは要らないのではと思って外しました。

商品のことを「誰かに伝えたい」と思ってもらえたなら、たとえボタンがなくても投稿してもらえます。あれば確かに便利ですが「なくてもいい」と判断して、バッサリなくすことにしました。


【6】新着情報をバナー風に

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トップページの冒頭に「New」の見出しで新着情報のテキストリンクを載せていたのですが、見出しを削り、テキストに背景色をつけて画面の端から端まで広がるバナー風にしました。

トップページ冒頭にバナーがあれば新着情報であると暗に伝わりますから、そもそも「New」と書かなくても見出しは不要なはずです。

なお、背景色はサイト全体になじむグレーにしていますが、溶け込みすぎているかもしれず、もうすこし目を引く色を探しています。あまり悪目立ちするのも微妙ではありますが。


【7】全体的に余白を増やした

以前のレイアウトは全体的に情報がぎゅぎゅっとつまっていて、かなり息苦しい印象を与えていたかもしれません。

そこで要素ごとに独立して見えるよう、各要素のあいだにある余白を2倍ほど広げました。

ほとんど改行されていない長文は読む前からしんどく感じるのと同じように、サイトも見た目がスッキリしていることが読み手のストレス軽減につながるのではと思います。

一度サイトにアクセスして体感してみてください。


というわけで、今回やったことをまとめます。

・全体的に文字数を減らした
・説明写真を厳選した
・要素を1画面に収めた
・レビューを1つにしぼった
・シェアボタンをカットした
・新着情報をバナー風に
・全体的に余白を増やした


こうして情報を間引くことで全体的にスリムになりましたが、まだまだできるところがある気がしています。

引き続き「この情報は要らないのでは」と感じたところを間引いていきたいと思います。

はやく「あれもこれも」の呪縛から解き放たれますように。


【松岡厚志 PROFILE】

ハイモジモジ代表。書類収納の決定版「WORKERS'BOX」ほか、思わず膝を打つアイデア・プロダクトを発信している。フリーライター、ネーム・デザイナー(ネーミングの専門家)、モノづくりするラジオ局「Quest FM」のDJ Atsushi、御茶の水美術専門学校非常勤講師(-2020)などの顔を持つ。

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