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イラストレーターの起用も戦略!?

 いうまでもなく書籍の<命>はその中身です。あらかじめ書評や広告、あるいは知人・友人や図書館司書の紹介などで、その書籍のことを事前に知っている場合は別として、書店などで初めてその書籍のことを知った人たちに手にしてもらうには、タイトルや装丁が鍵になる、と思っています。

そこで今回は、フィンランドの児童書で、戦略的に挿絵を使っているに違いない、と思われるティモ・パルヴェラ(フィンランディア・ジュニア賞なども受賞している、フィンランドの代表的な現代児童文学者)の作品『エッラと友だち』シリーズをご紹介します。

 パルヴェラが『エッラと友だち』シリーズの第一作を出したのは1995年のこと。そのとき、主人公エッラは、まだ小学一年生でした。それから25年の歳月を経た2020年に、やっと三年生に上がりました。そのときのタイトルは、そのものずばりの Ella ja kaverit vihdoin kolmannella『エッラと友だち やっと三年生』(仮邦題)です。この間、出版された作品数は、27冊(特別編を除く)を数えます。(以下、仮邦題は(仮)とします。)
新型コロナ騒ぎに世界中が揺れた昨2020年、その波はフィンランドにも当然のごとく押し寄せ、学校も一斉にオンライン授業に移行した時期があり、それに歩調を合わせるように Ellä ja etäkaverit etäkoulussa 『エッラとオンライン友だち オンライン授業で』(仮)が緊急に発刊されたりもしました。また、エッラのクラスメートの一人で、人気者の男の子パテ君が主人公のスピンアウト物語も7冊を数えるなど、その人気ぶりがよく分ります。
このシリーズが出版されたころの初期の読者には、今や次世代が誕生し、その子どもたちがエッラたちの年齢にまで成長している可能性すらある、それほど長い年月、愛され続けているシリーズ作品だといえます。

トップバッターは、Markus Majaluoma (マルクス・マヤルオマ)
 
 1961年生まれの、絵本の装丁・挿画の他に自らも絵本を出している、フィンランドを代表する人気イラストレーターです。下の写真でご紹介しているのは、同第1作 Ella ja kiristäjä 『エッラときびしい先生』(仮)の挿絵と Ella luokkaretkellä『エッラ遠足へ行く』(仮)の表紙です。

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 このイラストから分るように、大人と子どもの身の丈が極端に違っていたり、ちょっとヨレヨレしたラインが特徴的。人生、いつも笑って過ごせるわけではないし、わが身を振り返れば分かるように、洋服だって常にスッキリ・シャッキリばかりではないよね、ということを気づかせてくれるイラストです。“オトナ・カワユイ”、あるいは“不気味・カワユイ”とでも表現してもよいのではないかと思っています。なお、マヤルオマは、主にエッラたちが一年生の頃の物語を担当しています。

 先にも簡単に触れたように、マヤルオマには、自身がテキストを手掛けた作品がありますが、その中にはお父さんと子ども(たち)を主人公にした2つの絵本シリーズ作品もあります。どの作品も大人目線で読むと、お父さんの必死さが伝わってくるスッタモンダぶりが、つい頑張れと応援したくなるような、「それで大丈夫」と言ってあげたくなるような、ほっとさせてくれる作品です。子ども目線であれば、きっとこんな風にお父さんと過ごす時間って楽しいんだよね、と感じる作品のように思います。
また、『麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッス』シリーズ(シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ作 講談社青い鳥文庫刊)の原作イラストも手がけています。

次にバトンを引き継いだのは、Mervi Lindman (メルヴィ・リンドマン)

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 1971年生まれのリンドマンもフィンランドで大人気のイラストレーターであり絵本作家です。上の写真で紹介したのは、Ella ja seitsemän törppöä『エッラとそわそわ7人組』(仮)(写真左下)と Ella ja kaverit hiilijalan jäljellä『エッラと友だち7人組 炭素の足跡 追跡中』(仮)(写真右下)の表紙と各本に差し込まれている登場人物紹介のページです。

 メルヴィ・リンドマンが描く『エッラ』は、その仲間たちも含め、極めて個性豊かな表情が前面に押しだされているように思えます。
私たちは皆、成長するにつれ服装の好みや性格がより色濃く表れてくるのと同じように、リンドマンの挿画で『エッラ』とその仲間たちの成長を如実に伺い知ることができます。まだ、保育園や幼稚園に通っていた頃とさほど変わらない表情をしていた頃から、一気に大人っぽい発言をするようになる時期の、“かわいらしさ”や“あどけなさ”の残る、ちょうどその頃の子ども年代の表情がよく表れているように感じられます。

 なお、メルヴィ・リンドマンにはこの『エッラと友だち』シリーズの他に、ティーナ・ノポラ作の絵本『シーリちゃん』シリーズのイラストレーターとしても有名で、この作品も16冊を数える息の長い作品に成長しています。ちなみに、この作品の登場人物たちは長谷川町子の『サザエさん一家』同様、永遠に歳をとらず同じ年齢のまま、さまざまな物語が生まれています(今のところ)。

三年生になった『エッラ』たちを描くのは、Anni Nykänen(アンニ・ニュカネン)

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 文頭にも記したように、一作目から25年経った昨2020年に三年生に上がった『エッラ』の生活ぶりを描いた Ella ja kaverit vihdoin kolmannella『エッラと友だち やっと三年生』(仮)(上の写真左の表紙)が出版されましたが、そのイラスト担当になったのがコミックス作家としてキャリアをスタートさせていたアンニ・ニュカネンです。当然といえば当然ですが、ここでは三年生になってぐっと大人びてきた『エッラ』たちに会うことができます。上の写真右は、Ellä ja etäkaverit etäkoulussa 『エッラとオンライン友だち オンライン授業で』(仮)は先生がコンピュータの前で何か困っている様子を描いた場面です。


 このように、画法の異なる三名のイラストレーターたちが関わっているこのシリーズ。エッラたちの成長ぶりを、このようにイラストに大きな変化を加えることで表そうとしているのか、あるいは、それによって新たな読者層に働きかけようとしているのか、興味が尽きることはありません。
表現の違いはあくまでも作家、つまり彼らイラストレーターの個性だと思いますが、三名のイラストレーターたちには、それぞれほぼ10歳ずつの年齢差があります。だから、彼らの個性の違いは、世代の違いからも来ているのか、それとも時代が求めているものの受けとめ方が違うのか、と考えるのも面白いです。

 物語の中で出会うイラストや挿絵、あるいは装丁から受ける印象、皆さんの心へはどのように響いていますか。

【ティモ・パルヴェラ作品メモ】
日本語訳が出ている作品:
○「シーソー」(絵ヴィルピ・タルヴィティエ ランダムハウス講談社刊)(シリーズ3冊中1冊)
○「マウとバウ」シリーズより3冊 (絵ヴィルピ・タルヴィティエ 文研じゅべにーる刊 日本語版の絵は、原作とは別)

(文責 上山 美保子)

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