スウェーデン児童文学プロモーションチームが来日しました
新しい年が始まりました。
各地で続く内戦や戦争、攻撃などは、よい見通しがまったくないままに年が明けてしまった、と思っていたら、元日には非常に大きな地震が能登半島で起こりました。今も大きな余震が続いているようで、本当に心配です。一刻も早く状況が落ち着き、救助活動などが進むことを祈るばかりです。
少しでもよい年になりますようにと願いつつ、よい年にするべく、何ができるのかを考え続けねばと思います。
TOKYO ART BOOK FAIRにて
もう2ヶ月近く前のことになってしまいましたが、11月下旬には東京では出版関連のイベントが多数開催されました。
恒例となったEU文芸フェスティバルには、本会からは枇谷玲子さんと上山美保子さんが23日と25日のイベントに登壇しました。
ほぼ同じ日程で、東京都現代美術館で開かれたTOKYO ART BOOK FAIR(TABF)では、北欧5ヶ国が今回のゲストカントリーでした。北欧各地にあるリトルプレスが出展していたほか、北欧関連のセミナーや展示などがありました。また、近くの映画館では北欧映画祭も開かれるなど、ちょっとした北欧祭りになっていました。
この機会を逃してはいけない、とわたし(よこの)も上京しましたが、アートイベントにこんなに人が集まるのか、と驚きました。フェアの会場である東京都立美術館の館内はどこもすごい人だかり、入場制限がかかっていたときもあると耳にしました。必死に移動するので精一杯、気がつけば写真は一枚も撮っていませんでした。写真を撮るどころではなかったのです……。というわけで、ここから先の写真は、本会の中村冬美さん撮影のものです。
Kulturrådetとプロモーションチーム
今回、Kulturrådet(Swedish Art Council)とスウェーデン大使館のはからいで、TABFにあわせて、児童文学者や出版社の児童部門担当などで構成された、スウェーデン児童文学プロモーションチームが来日していました。
Kulturrådetは、このnoteでは「文化庁」という書き方で過去記事でも取りあげられている、スウェーデンの文化振興のための公的機関です。本会も書評集作成のための助成金をもらいましたし、個々の翻訳書への制作助成などでお世話になっている人も多いはずです。編集者や翻訳者を対象にしたヨーテボリブックフェアへの参加プログラム助成も毎年行われています(現時点でのリンク先の情報は23年度のものです)。今回は、文学を他国・多言語へ広める活動への助成に重点を置く「Swedish Literature Exchange」というプロジェクトの一環としての来日だったようです。
ALMA受賞作家エヴァ・リンドストロームさん
今回、作家として来日していたのは、エヴァ・リンドストローム(Eva Lindström、既刊ではエーヴァ・リンドストロム表記)と、ヨンス・メルグレン(Jöns Mellgren)さんです。
エヴァさんは、2022年にアストリッド・リンドグレーン記念文学賞(ALMA)を受賞した絵本作家、イラストレーターです。23日には、TABFで、日本の作家、荒井良二さんとのトークイベントが開催されました。荒井さんもまた2005年にALMAを受賞しています。ふたりのALMA受賞者のトークを聞ける貴重な機会とあり、会場は満席でした。
独特の作風を持つベテランのおふたりは、作品への取り組み方などで共通するところが多い、この作品が大好きだ、と大いに盛り上がっていました。
エヴァさんの最近の作品に「Bron(橋)」という絵本があります。これがとても不思議な内容で、「え、これってどういうこと???」「どう評価すればいいの???」と実は思っていました。何度読んでも、ストーリーのオチがよくわからない、不条理ギャグといってしまってもいいような、衝撃的、かつ脱力感があり、でも、読み返すたびに発見があります。じわじわとくせになるような味わいを持つ作品です。
荒井さんとの対談でもこの作品が紹介され、会場には不思議な空気が漂いましたが、エヴァさん自身は、よくわからなくてもいいんだ、というようなことをおっしゃっていたのが印象的でした。
スウェーデン絵本作家対談
翌日24日は、東京藝術大学で開かれたセミナーで、ふたたびエヴァさんのお話を聞くことができました。
この日は会場が芸術大学であることもあってか、一緒に来日していたヨンス・メルグレンさんの進行で、絵本作りについてさらに踏み込んだ、具体的な話がされました。ヨンスさんは、自身の創作に加えて、大学で絵本制作も指導しています。彼からエヴァさんへの最初の質問は「絵を描く環境と画材(紙、絵具)を教えて」というものでした。エヴァさんとヨンスさんそれぞれの仕事場と画材がスライドで紹介されました。絵を描く紙については、エヴァさんは紙の品名と厚さに言及、ヨンスさんの方は紙についてこだわっている点をコメント。非常に具体的ですが、他ではなかなか聞けない話から始まり、一気に引き込まれました。
その後、エヴァさんのこれまでの作品の中から転機となったであろうものをヨンスさんが選び、自身の見解をふまえながらエヴァさんに質問をしていきました。また、ヨンスさん自身の作品や創作との比較などもあり、作品をさまざまな視点から見ることができました。前日の荒井さんとの対談とは対照的に、作風の違うふたりの作家による対話もまた興味深いものでした。
TABFの会場では、エヴァさんのトークイベント以外にも、スウェーデンの出版社がおすすめ作品を紹介する編集者向けの催しもあり、わたしたち翻訳者も参加させてもらいました。このプレゼン会は、北欧風の大きなテントの中で行われました。ヨンスさんが教えた学生が作った絵本の紹介もありましたが、木で作られた絵本、一枚の布からなる絵本など、「絵本」のかたちや、読み方・楽しみ方そのものを問うような挑戦的な作品もあり、学生たちの自由な発想に驚きました。
二日間を通して、出版社や文化庁、スウェーデン大使館の方々とは、児童書や出版、翻訳、おすすめの作品など、さまざまな話をすることができました。とても貴重な機会を与えてくださったスウェーデン大使館と文化庁のみなさんに感謝です。
イベント参加のために上京して(感想)
東京に行くといつも感じるのは、さまざまなモノや人、文化が集まる都会の強み、そして地方との機会の差です。今回もまたその差に圧倒されていたとき、「European Festival of the Night」というイベントを知り、とても力づけられました。
これは、スウェーデンの北極圏の小さな村で20年近く続けられている文化フェスです。いちばん暗い時期である12月上旬の2週間弱の期間に、幅広いジャンルの朗読会や講演会、舞台、上映会など、さまざまなイベントが開かれるそうです。
この催しの原動力となってきた三姉妹に対して、スウェーデン政府芸術助成委員会(Konstnärsnämnden、The Swedish Arts Grants Committee、こちらも芸術・文化支援のための大きな公的機関です)がその功績を称え大きな助成金を授与することにした、というお知らせを読んだのでした。
観光のためではなく、地元の人たちが自分たちのために立ちあげる文化イベントがあり、そのイベントがずっと続けられている、それは簡単なことではないはずですが、地方に住む人間としては大きなヒントをもらえた気がしました。
(文責:よこのなな)