10周年

書籍翻訳の仕事を始めて、おかげさまで10年が経とうとしています。

2010年1月に、2歳直前の娘を連れて家族でスウェーデンに移住し、異国で失業者としての人生が始まりました。就職活動中から保育園に預ける権利があるスウェーデンの制度にはとても助けられましたが、地方都市ということもあって就職活動は簡単にはいきませんでした。(当時の奮闘については、著書『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』をご参照ください)

そんな中、ある感動的な本に出合ってどうしても日本に紹介したいと思い、スウェーデンの老舗作家エージェントのドアを叩きました。そこで勧められたとおりにフランクフルトのブックフェアへ行くと、日本から来ていた大手出版社さんが10社近く会ってくださいました。その中の一社、主婦の友社さんから「この本、出しましょう! 翻訳お願いします」というご連絡をいただいたのが、2011年の年明け。『生き抜いた私 サダム・フセインに蹂躙され続けた30年間の告白』というタイトルで刊行され、初の訳書となりました。

それから10年。ありがたいことに途切れることなく翻訳のお仕事をいただいてきました。そして今年は次の10年に備えて、今までとはちがったジャンルの翻訳にもチャレンジしました。

『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン、新潮新書)

画像1

11月18日に刊行され、なんと1週間で2万部、2週間でさらに3万部の重版が決定!
各書店さんのご尽力が半端ないと伺っています。私も店頭でのキャンペーンの様子をTwitterで拝見し、感涙しておりました。本当にありがとうございます。
数年前まで体調不良や精神的なストレスに悩まされていた私ですが、この本に出合った翌日からウォーキングに出るようになり、おかげさまでとても元気になりました。この本がなかったら今頃、廃人同然だったかも……と本気で怖くなります。そんなわたしの人生のバイブルを、日本の方々にも読んでいただけることになって本当に嬉しいです。みんなで心も身体も元気に暮らしましょう!
わたし自身は初めてのノンフィクション翻訳ということでドキドキだったのですが、内容が面白かったのでリズムよく訳せたと思います。こちらのお仕事をいただいたきっかけは、10年前にフランクフルトに行く前に出したメールでした。10年後にお返事が来て「『スマホ脳』のリーディングしませんか」とお誘いいただきました。編集者の北本さんにも大変お世話になりました。あんなにお忙しいのに、常に「1訊いたら10教えてくださる」方で、翻訳のこと、業界のこと、非常に勉強になりました。

なお、一次訳はこの北欧語書籍翻訳者の会の仲間、よこのななさんにお願いしました。よこのさんは以前会のプロジェクトでご一緒したときに、大量の作業を期限内に緻密に仕上げてくださり、その優秀さと根性に目を見張りました。そういうわけで、今回どなたかに一次訳をお願いしたいと思ったときに、まっさきに頭に浮かんだのがよこのさんでした。そして期待どおり、きっちり一次訳を仕上げてくださり、本当に助かりました。けっこうきつい締切でお願いしてしまったのに、ありがとうございました。しかも校正時にもいくつも指摘をくださって、文章のクオリティーもアップしました。二人で訳すとクオリティーも倍になるのだという、嬉しい発見です。よこのさんとの出会いをくださったこの会にも感謝しています!

今日はスウェーデン大使館のフェースブックライブでもこちらの本の話をさせていただきました。動画はこちら

『北欧式インテリア・スタイリングの法則』(フリーダ・ラムステッド、フィルムアート社)

表紙_帯あり

中ページ画像2

12月10日にはこちらが刊行になります。
先ほどの『スマホ脳』が私の健康のバイブルなら、こちらはインテリアのバイブル。あらゆるテクニックを網羅した素晴らしい教科書です。フルリフォーム考え中の方にも、部屋のひと隅だけ雰囲気を変えたい方にもぴったりのマルチな一冊。わたしもさっそく家のあちこちにテクニックを取り入れ、将来的にはキッチンや壁紙のリフォームも計画中です。クリスマスプレゼントにもぴったりの本ですよ。

エッセイストの松浦弥太郎さまから推薦文をいただいています。
「インテリアについて知りたかったのはセンスではなく、〈何をどのように置き、どうやって心地よい空間をつくるのか〉というアイデア、すなわち豊かな暮らしのメソッドでした。本書ははじめてそれを叶えてくれた──。」
なおこちらは、一次訳をスウェーデン在住家具デザイナーの机宏典さんにお願いしました。デザインのプロの机さんに入っていただくことで、本当に安心できました。

インテリア系の翻訳も今回が初めて。普段小説を訳しているときの日本語とはがらっと変えて、インテリア雑誌の記事を書いている気分で訳してみました。編集者の臼田さんは以前、建築インテリア雑誌の編集部にいらした方で、日本語訳のブラッシュアップを全面的に助けてくださいました。

三人で提案・相談しながらチームで作りあげた日本語訳という感じです。お二人とも、学びの多い、そして楽しい時間を本当にありがとうございました。

こちらは会の枇谷玲子さんからご紹介いただいたお仕事でした。枇谷さん、ありがとうございました。おかげさまでフィルムアート社さんとは、来年にもビッグな一冊(小説)を刊行予定です。

画像5

画像5


『きわめて平凡な犠牲者』(レイフ・GW・ペーション、創元推理文庫)

その次は1月に刊行が決まっているミステリ、あの『許されざる者』の著者です。ベックストレームのシリーズ『見習い警官殺し』の2作目になります。まだ書影が出ていませんので、著者の写真を載せてみました。上が著者本人(雑誌で見かけたセクシーショット!)で、下が著者と同姓同名のわが家の仔猫です。捨て猫ホームさんから譲り受けた猫なのですが、6月6日スウェーデンのナショナルデー生まれということで、スウェーデンでもっとも愛されている有名人の名前をつけたそうです。レイフ・GW・ペーションがいかにスウェーデンで愛されているのかよくわかるエピソードですね。

東京創元社さんからは駆け出しのころからお仕事をいただき、編集者の小林さんに辛抱強く育てていただいています。一緒にお仕事をさせていただくのは『きわめて平凡な犠牲者』で11冊目。まさにわたしにとって育ての親のような存在です。東京創元社では編集者の桑野さんとも『海岸の女たち』でご一緒させていただき、さらには著書『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』を書く機会までいただきました。お二人とも、いつも本当にありがとうございます。


さてミステリといえば、先週フォレスト出版のベテラン編集者稲川さんが、北欧ミステリの面白さを分析するブログを書いてくださいました。魅力を余すことなく伝えてくださっているので、ぜひ読んでみてください→こちら

この会のメンバーが訳した本を何冊もご紹介くださっています。北欧ミステリへの愛を感じる‼ 『海岸の女たち』(トーヴェ・アルステルダール、東京創元社)を取り上げてくださったのも、さすが! 先日は人気ライターで北欧ミステリファンの長田杏奈さんも雑誌でこの作品を勧めてくれてました。北欧ミステリ通に人気の作品ということすね。お二人とも本当にお目が高い! つい先日発表された、スウェーデン推理小説アカデミーによる今年の最優秀賞は、このトーヴェ・アルステルダールの最新作だったんです。

稲川さんはお仕事はまったくミステリとは関係ないながら、愛読者として昔から北欧ミステリを応援くださっていて、訳者として本当に励みになっています。何年も前に、いきなり「仕事とは関係ないけど、北欧ミステリが大好きなんです‼」というファンレター(メール)をくださったんです。そういうの、本当に嬉しいですよね。それ以来、日本に帰省するさいにはお会いして情報交換などさせていただいています。いつもたくさんのインスピレーションを本当にありがとうございます。

こうやって皆様のご支援に支えられつつ、わたしの10年が終わろうとしています。次の10年もさらに色々なことにチャレンジしていきたいと思っています。編集者や校正者の方々、スウェーデンのエージェント・日本のサブエージェントの皆様、共に切磋琢磨できる優秀な翻訳者仲間たち、この場を借りて改めてお礼を申し上げます。
(文責:久山葉子

*このブログは、にほんブログ村の
海外文学」と「翻訳(英語以外)」に参加しています。*

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?