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スウェーデン語になった日本語

前回スウェーデン語の新語について投稿しましたが、Språktidningen(言語マガジン)の2020/4号(2020年4月29日発売)に、それに関連した面白い記事が載っていました。

Institutet för språk och folkminnen(言語および民間伝承機関)では1986年以来、その年に新しく使われるようになった言葉を選定し発表しているのですが、これまでに1700語近くが登録されたそうです。その中には外来語もあって、やはり英語から来たものがもっとも多いそうです。

例えば Skype することを、Skypa(スカイパ)という動詞の原形にして日常でもよく使われています。あれ、でも Skype って英語なのかな。スウェーデン人が開発したけど……別にスウェーデン語というわけでもありません。

英語の Swipe は日本語でもそのまま“スワイプする”と言いますが、スウェーデン語では Swipa(スヴァイパ)という動詞原型になります。元は英語ですが、あえてスウェーデン風にワではなくヴァ発音するのが、なんかいかにもダサくてかえってイケてるみたいな?(自分で言っててよくわからなくなってきました……)

さて、面白い記事というのは、全然別のことでした。ここからが本題です。

スウェーデン語の外来語でいちばん多いのは英語と書きましたが、なんと2位は日本語なんだそうです! 普通ならラテン語とかフランス語かな?と推測するところですが、あくまで1986年以降の集計なので、このような結果になっています。
1位 英語
2位 日本語
3位 フランス語
4位 ハワイ語
4位 中国語
6位 ロシア語
6位 スペイン語
8位 イディッシュ語
9位 韓国語
9位 ラテン語 

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近年、日本の食べ物や日本のアニメや漫画・映画などの文化の影響が強いからでしょうか。Institutet för språk och folkminnen のHPに掲載されている新語リストを、1986年のものからすべて確認してみました。すると、日本語由来のものは14個みつかりました。

2019年に Animoji(アニ文字)と Ikigai(生きがい)が入ったことは前回の投稿ですでに書きましたね。この年は全体的に環境に関する新語が多かったとも説明しましたが、その前年、2018年の日本語由来の新語もやはり環境や自然に関係のある単語でした。例えば、Skogsbad(森林浴)。遥か昔、わたしが高校三年生のときにスウェーデンの田舎のとても小さな町に留学したときに、ホストマザーに「趣味はなんですか?」と訊くと、「散歩」という答えが返ってきて驚きました。当時の日本では“山歩き”や“ウォーキング”もまだ一般的ではなく、若いわたしは「散歩って趣味でするものなの⁉」とたまげてしまったのですが、確かにホストファミリーは天気がいいと季節を問わず一、二時間森に散歩に行っていました。なので、スウェーデンでも昔から森林浴のようなことは日常的に行われていたと推測しますが、それに名前がついたのは今回初めてなのでしょうね。

2018年には、これも環境問題と切っても切れない新語 Bokashi も登場。これはむしろ日本人のほうが知らないのではないかと思うのですが、日本語では“ぼかし肥料”と呼ばれるようです。スウェーデンでは Bokashi というブランド名で生ごみを入れるための特製のバケツが売られていて、特別な Bokashi の粉をふりかけることで発酵が早まります。恥ずかしながらわたしは“ぼかし”という単語自体知らなかったのですが、スウェーデンでは多分、「日本人は皆、昔からこれをやっている」と思われてしまっています。

Omakase(レストランのメニューの“おまかせ”)という単語もスウェーデン語になりました。ヒップでおしゃれなレストランのメニューに採用されているイメージです。最近では Umami(旨味)という味付け(?)もメニューで見かけるようになりました。

Tsunami が新語に登録されたのは、2004年でした。年末にスマトラ島沖地震が起き、クリスマス休暇で旅行に来ていたスウェーデン人が543人も亡くなり、国中が大きなショックに包まれました。

古いものだと1997年の新語に Tamagotchi(たまごっち)がありました。スウェーデン語の文法に基づき、単数定型は tamagotchin(たまごっちん)、複数形は tamagotchier(たまごっちえる)になります。
Emoji(絵文字)、Cosplay(コスプレ)、Manga(漫画)、Hikikomori(引きこもり)、Mobilroman(ケータイ小説)なども、スウェーデンだけでなく世界中で知られていますね。Anime(アニメ)については、1995年にスウェーデンの大手朝刊紙にこのように説明されていました。“アニメは絵で描いた大人用の映画で、暴力的で細かい描写のアドベンチャー映画。ヒロインとして強い女性が据えられることも珍しくない”前半部分は今ではかなり認識が変わってきているはずですが、昔はそんなふうに見られていたんですね。
Kawaii の定義も、日本とは少し変わっています。“子供っぽい可愛らしいファッションスタイル”と定義されていて、あくまでファッションの一種なんですね。

実際にはこれ以外にも、多くの日本語が浸透しています。特に食べ物の名前(Sushi、Sashimi、Gari、Wasabi、Tempura、Teriyaki、Sukiyaki, Panko、Matcha など)、日本の武術の名前(Karate、Kyudo、Kendo、Aikido、Jujutsu、Judo など)、古い世代の人でも Ninja、Bonsai、Karaoke、Kimono、Kaizen、Shogun、Harakiri、Kamikaze などは通じると思います。ただし、どれも日本から直接スウェーデンに入ってきたというよりは、まずは英語圏で注目を浴びて、そこからスウェーデンに入ったのかなと推測します。

わたしは高校で日本語を教えているのですが、生徒たちは“執事カフェ”や“ツンデレ”なんかも普通に知っているので面白いです。スウェーデン生活が長くなるにつれて、そのうち若い生徒たちから最新の日本語を習う日が来るかもしれないという気もします。

(文責:久山葉子

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