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スウェーデン出身のアニメーション監督:ニキ・リンドロス・フォン・バール

 今回は、スウェーデン出身のアニメーション監督、ニキ・リンドロス・フォン・バール(Niki Lindroth von Bahr)をご紹介したいと思います。

NORDISK PANORAMA 2020 などのインタビューでご本人が語っている内容を元に構成しています。Stop Motion Geekのブログ記事()は、話の内容もさることながら、キャラクター考案時の資料や制作過程の写真が載っていたりして、とても興味深いです。他にも参考にした動画や記事のURLを末尾に掲載していますので、さらに詳しく知りたい方はぜひご参照ください。
トールとトール【※上記動画は予告編】
Tord and Tord (Tord och Tord) 2010年 11分

 彼女は彫刻や衣装デザインなどを手がけるアーティストとして活動するかたわら、ストップモーションアニメを制作し、これまでに4つの作品を世に送り出しています。小道具やセットの制作を学ぶために映像美術の学校に通っていた際、課題で作った映像がスウェーデン国内の映画祭で評価されたことをきっかけに、映画制作の道へ進むことを意識し始めたそうです。最初からアニメ監督を志していたわけではなく、この時の作品もアニメではなかったのですが、「手を動かしてものを作ることと映画を作ることを掛け合わせたら、ストップモーションアニメに行き着いた」と話しています。

 ストップモーションアニメとは、パペット(人形)を動かして作るアニメーションです。セット(背景)の中で、パペットを少しずつ動かして写真(静止画)を撮り、それをつなげて映像にします。1秒間の映像を作るのに25コマ必要なのですが、順調に進めば(進んでも?)1日に3~5秒くらいの撮影ができるそうです。そして、それぞれの作品が出来上がるまでには、およそ2年半もの歳月がかかっています。

 いずれの作品も、登場するキャラクターは擬人化された動物たちです。2作目の『屋内プール(Bath House)』では、絶滅した動物をモチーフとしており、主役のキャラクターは一見、普通のシマウマのように見えますが、ヒラコテリウムという馬の最古の祖先がモデルとなっています。作品全体の雰囲気は「もの悲しい」とか「うら寂しい」といった言葉が似合いますが、決して悲観的すぎることはなく、そこで繰り広げられる出来事やキャラクターが見せる仕草には、どこかユーモアを感じます。
(※英語字幕ではありますが、Vimeoで本編を視聴することができます。)

屋内プール
Bath House (Simhall) 2014 年 15分

 ニキ・リンドロス・フォン・バール監督は、映画の構想を練り始める時、ストーリーやキャラクターから考えるのではなく、まず最初に環境や場所を決めるのだと言います。どんな場所を舞台とするかが、大きな意味を持つのだそうです。自分が苦手意識を持っている場所やあまり好きではない場所(例えば大きなショッピングセンターや病院など)をあえて選び、そこにとことん向き合って制作することで、ある種のセラピーをしているような感覚にもなるという話もしています。

 監督の作品は細部へのこだわりが特長です。セットや小物を作る前に入念に下調べをして、実際の寸法をそのままの比率でミニチュアにして再現し、リアリティを追求しています。プールの受付脇に置いてある菓子や電車内の乗客が読んでいる新聞など、背景の一部でしかない小物まで、きっちり作り込まれています。よく見ると、『トールとトール』の部屋にはIKEAの紙袋が置いてあったり、『屋内プール』に出てくる電車の内装がストックホルムの地下鉄のそれであったり(動画の02:20あたりに出てくるので下記画像と見比べてみてください!)するところにも、心がくすぐられるでしょう。

Subway Cart

 3作目の『私の重荷(The Burden)』は、終末ものをミュージカル調に描いた作品で、世界各国の映画祭で高く評価されました。作品のカギを握る音楽は、前2作品でも音響を担当していたハンス・アッペルクヴィスト(Hans Appelqvist)が作曲し、作詞はコメディアンのマッティン・ルーク(Martin Luuk)に依頼して作ったというオリジナルの曲です。各シーンのダンスも見ごたえがあり、とくにファストフード店で2匹のネズミが踊るタップダンスは、なめらかな足の動きに感嘆すること必至です。これは振付師の方に踊ってもらった動画を参考にして、パペットの動きを決めていったそうです。

私の重荷【※上記動画は予告編】
The Burden (Min Börda) 2017 年 14分

 短編作品は、基本的に劇場での一般公開がないため商業ベースで稼ぐことが難しく、さらに、スウェーデンではアニメは子どもが見るものという意識が強いため、ごく限られた予算しかとれなかった(その点、フランスなどでは大人が楽しむための娯楽として認識されているので、それなりの予算がつく)と、監督は語っています。『私の重荷』では、初期の段階で音楽にオーケストラの演奏を使うことを決めたそうですが、その時点で当初の予算を軽く突破してしまったとのことです。この作品は“スウェーデンのアカデミー賞”と呼ばれるゴールデン・ビートル賞でも短編映画賞を受賞しているので、スウェーデン国内でアニメがまったく理解されないというわけではないと思いますが、資金面ではかなりの苦労があったようです。

2018年に『Variety』の10 Animators to Watchに選ばれた監督。『私の重荷』の魚の被り物を!?と思いきや、これはフォトショップしたものだそうです(もともとはゴールデン・ビートルの授賞式の時の写真ですね)。

 現在、彼女はロンドンにある制作会社Nexus Studiosに所属し、Netflixオリジナルのアニメシリーズ『The House』の制作に携わっています。インタビューでは、2021年中に配信されるんじゃないかという話も出ていましたが、6月にキャスト(声優)が発表されたところなので、まだもう少し先のようです。諸事情に鑑みると、たぶん言語も英語だと思われますし、これまでの作品に比べてスウェーデン的要素は薄いかもしれませんが、どんな作品になるのかとても楽しみにしています(日本でも配信されるよう願っています!!)。

【参考】
(対談/セミナー動画)NORDISK PANORAMA 2020 CreativeMornings Stockholm Berlinale alents 2020
(インタビュー記事)Vimeo Staff Pick Premiere  Stop Motion Geek (Bath House) Stop Motion Geek (The Burden) Skwigly Online Animation Magazine 

(文責:藤野玲充)

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