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デンマークオリジナル版VSハリウッドリメイク版:映画『THE GUILTY/ギルティ』

 ジェイク・ジレンホール主演の映画『THE GUILTY/ギルティ』が9月24日より劇場公開、10月1日よりNetflixで配信開始となりました。同名のデンマーク映画をハリウッドでリメイクした作品です。画面に映るのは緊急通報センターの内部のみ(というか、ほぼ主人公の顔)、電話越しの声と音だけで誘拐事件を解決するという設定の面白さから、2019年のデンマーク版公開時にも話題となっていましたが、ハリウッド版は人気と実力を兼ね備えたジェイク・ジレンホールが主演ということで、さらに注目を集めているようです。

 さっそくNetflixで視聴しましたので、オリジナルのデンマーク版と比較しながら感想を記していきたいと思います。デンマーク版は一度劇場で鑑賞していましたが、こちらも現在huluで配信されているので、記憶喚起のために再鑑賞しました。

 全般的には、「緊急通報センターのオペレーターを務める主人公が、誘拐された女性が車中からかけてきた電話を受け、救出しようと奮闘する」という、おおまかな展開が同じなのはもちろんのこと、かなりオリジナルに忠実な作りとなっています。本筋の事件以外の通報内容がほぼ同じ(薬物摂取、売春婦による強盗、"バラクーダ"、自転車でコケて膝負傷)だったり、誘拐された女性の留守電の応答メッセージに途中で邪魔が入るところまで踏襲されています。

 ハリウッドっぽい演出だなと感じるのは、舞台であるロサンゼルスで山火事が起きている最中に、事件が発生するところです。センターの大画面モニターに燃え盛る炎が映し出され、緊迫感をあおります。山火事の対応で忙しい交通警察に救助の応援をしぶられたり、煙のせいで追跡する車の色が判別できなかったり(オリジナルの原因は雨)と、うまくストーリーにも絡めてきていると思いました。車が走行する方角を確かめるために、山火事がどちら側に見えるかと聞いたりもしていました。山火事は終盤にはほぼ鎮圧され、最後はわずかに煙がくすぶる山と街が朝日に照らされています(が、実際の山火事であれだけ燃えていたら、おそらく1日では消し止められないのではないでしょうか)。

 リメイク版でオリジナルから変更されているのは、主人公に小さな娘がいる点です。かなり早い段階で、スマホの待ち受けに娘の画像が映し出され、妻へのメッセージで娘とは長らく会っていないことが分かります。また、中盤の電話で妻の対応がかなり冷たく、二人が半年間別居している状況だということも明かされます。自分の子供への思いを誘拐された女性の子供に投影させ、主人公がこの事件に執着する理由を与えたといったところでしょう。

 実はデンマーク版でも、主人公は妻と別居しています。しかし、そのことが分かるのは、元上司との電話を切った後に「出てったんで」と一言こぼすシーンがあるからで、妻との直接の対立は描かれていません。リメイク版は元上司との会話はほとんど同じなのですが、ここで別居の事実を明かす必要がないため、さらっと通り過ぎてしまいます。あの一言の重みと「出てったんで」という字幕がすごく印象に残っていたので、少しもったいない気がしました。

 あともう1つ大きく設定が変わっていることがあるのですが、けっこうなネタバレになるので控えておきます。個人的には突っ込みどころなのですが、たぶん最後の大逆転感を出したかったのだろうと思います。物語の締めも、解釈の余地と余韻を残すデンマーク版に対して、リメイク版はすっきりと分かりやすいラストとなっています。

 いろんな北欧映画がハリウッドでリメイクされていますが、実を言うと、今まであまりリメイク版を見ることがありませんでした。こうやって見比べてみると面白いものですね。オリジナルとリメイクで何が変わって、何が変わらないのか? どんな演出が加えられているのか? 皆さんもぜひ、北欧とハリウッド、両方の映画をご覧になって楽しんでくださいね!

(文責:藤野玲充

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