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ヘルシンキの書店でミステリー巡りを

トップの画像はヘルシンキのアカテミア書店です。アルヴァ・アアルト設計の天窓のある建物が素敵です。

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2階にはカフェ・アールトがあって、お茶だけでなくランチもできます。

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カフェ・アールトのサーモンサンドイッチ。サーモンもアボカドもたっぷりでパンが見えません。美味しかった。

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腹ごしらえして、ミステリーの棚に臨みます。書店に行くとほとんどの時間ミステリーのペーパーバックのあたりで過ごすのですが、ここのミステリーのペーパーバックは、フィンランド語、スウェーデン語、英語がそれぞれ充実しています。写真はスウェーデン語の棚ですが、実際はスウェーデン語だけでこの倍はあります。英語、フィンランド語はさらにその倍はあります。国内国外問わず作家名のアルファベット順で並んでいます。

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アカテミア書店のありがたいところは、シリーズ物がそろっていることです。たいていの書店では新刊しか置いていないんですね。

フィンランド語のミステリーの棚です。一番目立っているのはフィンランドの人気作家、レーナ・レヘトライネンの作品です。邦訳は『雪の女』、『要塞島の死』、『氷の娘』が古市真由美訳で創元推理文庫から出ています。

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ヘニング・マンケルのフィンランド語訳もありました。スウェーデンの作家、マンケルの作品は柳沢由実子訳で創元推理文庫から出版されています。ヴァランダー警部シリーズの(時系列で)最後の作品『苦悩する男』がついに出てしまいましたね(私はこの終わり方はいかにもマンケルらしいと思うのですが)。

その下の段はアメリカの作家スジャータ・マッシーの日系人探偵レイ・シムラシリーズ。マッシーは日本で1年間英語を教えていたこともあって、日本の伝統および現代文化、習慣の描写は(多少の誇張はあっても)正確です(着物、生け花、マンガ、デパートなど)。ヒロインの探偵レイも行動的で魅力的です。『雪殺人事件』、『月殺人事件』が矢沢聖子訳で講談社文庫から出ていますが、フィンランドでこれだけ訳されているんだから、日本でももっと翻訳されてもいいんじゃない?

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英語のミステリーの棚には、アメリカ在住の中国人作家ジョー・シャーロンが揃っています。並べると色がきれい。文学修士で、詩を書いたりミステリーを翻訳したりする心優しい陳警部が、中国共産党の腐敗の中で正義を追求します。アメリカミステリーのノリで読みやすく、それでいて日本人がきっと共感できるしっとりとした感覚もあります。『上海の紅い死』が田中昌太郎訳でハヤカワ・ミステリ文庫から出ています。シャーロンの作品もぜひもっと翻訳されてほしいです。

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スウェーデン語のミステリーの棚には、ルースルンド&ヘルストレムの本が揃っています。『制裁』、『ボックス21』、『地下道の少女』、『死刑囚』、『二人の兵士』、『三秒間の死角』、『三分間の空隙』。『二人の兵士』以外はヘレンハルメ美穂訳で出ています。角川文庫の『三秒間の死角』以外はハヤカワ・ミステリ文庫です。『三秒間の死角』はすごかったー。
隣には、ルースルンドとトゥンベリの『熊と踊れ』も見えます。ヘレンハルメ美穂・羽根由訳でハヤカワ・ミステリ文庫から出ています。

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日本のように、国内作家と海外作家に分類されていないので、どれがフィンランド作家かを見分けるのは容易ではありません。書店の方に聞いたら、フィンランド作家の外国語翻訳版コーナーに案内してくれました。英語、スウェーデン語だけでなく、ドイツ語、フランス語、スペイン語などもありました。日本語も置いてくれればきっと売れるのにね。

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この中にあるソフィ・オクサネンの『粛清』(上野元美訳 早川書房)は、エストニアを舞台に第二次大戦の激動の時代を生きた女性と、若い女性の運命的出会いを描いています。読んだ後、しばらくどっぷり余韻に浸ってしまう作品です。フィンランド作家がまだあまり日本に紹介されていないのは残念です。

書店の方に、この棚の中からミステリーをいくつか教えてもらって検討。

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このソファに座ってゆっくり選べます。後ろに飾られているのはホーカン・ネッセルの『悪意』(Intrigo)のフィンランド語版。クッションと合っておしゃれです。『悪意』は久山葉子訳で東京創元社から出ています。表紙デザインは同じ感じです。珠玉の中編集と呼ぶにふさわしく、特に「親愛なるアグネスへ」は読み応えあります。

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フィンランドにはスウェーデン語を母語とする地域があります。ムーミンで知られるトーベ・ヤンソンもスウェーデン語作家のひとりです。書店の方に、スウェーデン語で書くフィンランド人ミステリー作家を教えてもらいました。下の2冊がそうです。一冊は大学教授が書いた、大学のどろどろした内部事情の話ですって。このほかに出版されたばかりで話題のEva Frantzの『8番目の付き人』(題は仮訳)もハードカバーで買いました。舞台がスウェーデン語の地域だから慣習もスウェーデン的なのか、ルシア祭にかかわるミステリーです。最近英訳が出たそうなので、邦訳の出る日も近い?
いちばん上にあるリザ・マークルンドはスウェーデンの作家で、久山葉子訳『ノーベルの遺志』が創元推理文庫から、柳沢由実子訳『爆殺魔』が講談社文庫から出ています。

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エストニアのミステリー作家インドレク・ハルグラの、中世のハンザ都市タリンを舞台にした、薬屋のおやじメルヒオル・シリーズのフィンランド語訳が平積みされていました。メルヒオルが、物的証拠や、人々のうわさを集めて謎を解きます。英訳は出ているので、ぜひ邦訳も出てほしいです。絶対面白い!

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スウェーデン語の料理本のコーナーで。真ん中の本は昆虫食?

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出るときには、アアルトの署名ともいえる特徴ある取手を握って扉を開けます。

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文責 服部久美子 
(文中で翻訳者の方々の敬称は略させていただきました。)

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