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ノルディックトークスジャパン「ジェンダー平等とメディア-報道と編集室における女性」

報道における男女不平等 - 女性の声、地位、専門性の欠如 - はいまだ課題として残っています。ニュースに女性が登場する頻度やその立場、メディアに描写されるロールモデルは、社会全体に影響を与えるため男女平等な社会を形成する上で非常に重要です。言論の自由も、男女両方が声を上げる機会が同等でなければ達成されません。またニュース編集室における男女平等も大切な観点になります。

報道における平等の欠如は、ジャーナリズム、さらにニュースを消費する私たちにとって何を意味するのでしょうか?この問題をメディア自身が認識し、性別による固定観念を乗り越えるためには何が必要なのでしょうか?

このテーマについてさらに議論を深めるため、2023年2月1日、北欧5カ国の駐日大使館、フィンランドセンター、それにノルディックイノベーションハウス東京の共催での「Nordic Talks Japan」を開催しました。会場は東京・赤坂BizタワーのUNIVERSITY of CREATIVITY。約50名の会場参加者に加え、200名以上の方にオンライン視聴いただきました。


数値的なアプローチは出発点に過ぎない

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY 

まず、開会の挨拶として駐日フィンランド大使のタンヤ・ヤースケライネン氏が登壇。「メディアにおける平等な表現の欠如は、世界的な課題。例えば、多くの場合、私たちがメディアで目にするのは、金融の専門家は男性で、子育ての専門家は女性。北欧では、メディアに登場する人物の男女比に注目することで、メディアにおけるジェンダー平等を実現しようとしてきました。この数値的なアプローチは出発点としては評価できますが、それぞれの性別がメディアでどのように紹介されているかという点にも関心を持つべきです。女性は専門家として、または被害者として登場しているのでしょうか?」また、女性がメディア企業の指導的地位に就くことの大変性にも言及。なぜなら、最終的に何を伝えるかを決めるのは指導者だからです。大使は、「私たちは全員、この課題に対して役割があるはず」として、私たち一人ひとりがどのように行動できるかを考えるよう、呼びかけました。

ジェンダー平等達成には、メディアと社会のサポートが不可欠


モデレーターの古田大輔氏(ジャーナリスト/media-collab創設者)は、まず北欧のスピーカーに、なぜ北欧諸国はジェンダー平等に成功しているのか、そのためにメディアはどのような役割を担っているのかを尋ねました。

ソーラ・アルノルスドッティル氏(アイスランド国営放送(RÚV)編集長):「アイスランドでは、女性が自分たちの権利のために戦い始めたとき、最初にしたことのひとつが新聞を作ることでした。自分たちの主張を広めるために、自分たちのメディアが必要だったのです。ジェンダー平等は少しずつ進み、最終的には忍耐力の戦いでした。その過程で、大きな分岐点が2回ありました。一つ目は、1980年代から90年代にかけて、アイスランドでのジェンダー平等の進展が国際的に認められ、国民がそのことを誇りに思うようになった時期です。2つ目は、2000年にアイスランドの育児休暇が施行されたことです(9ヶ月の育児休暇のうち3ヶ月を母親が、3ヶ月を父親が、そして残りの3ヶ月は両親の判断に委ねていずれかまたは両者に分割して取得することを制定)。これにより、女性も男性も出産時に休暇を取る責任が同じになったので、企業は女性を雇うことが男性を雇うことより離職や休職のリスクが高いという考えをやめました。」

「メディアの役割は大きい非常に大きいです。私がメディアで働いてきた25年の間に、多くのことが変わりました。ニュースルームに平等な表現があることは非常に重要ですが、経営レベルでもジェンダー平等であることが重要です。必要な変化を起こすためには、ボトムアップの圧力とトップダウンのリーダーシップの両方が必要なのです。」

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アヌ・ウバウド氏(ユナイテッド・イマジネーションズCOO、ヘルシンギン・サノマット(北欧最大の購読紙)元編集長):「メディアの重要性を強調しすぎることはありません。ジェンダー平等を実現するためには、育児休暇などの社会的支援が非常に重要なのですが、メディアが、これらの社会的支援について常に議論していくことが一つの鍵となるからです。」

山本恵子氏(NHK解説委員(ジェンダー・男女共同参画担当)、NHK名古屋拠点放送局コンテンツセンター副部長):「日本では、国会での女性議員の割合が9.7%しかないことがネックになっています。政治現場におけるジェンダー平等の欠如が、その他の分野でのジェンダー平等の達成を難しくしています。」

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キャリアと家庭の二者択一は”システム欠陥”

アルノルスドッティル:「女性がキャリアと家庭のどちらか一つを選ばなければならない状況は、社会システムの欠陥です。これを解決するための課題は3つあります。1つ目は、職場が長時間労働を要求していること。2つ目は、女性が家事の主役であること。3つ目は、妥当な価格で利用しやすい託児所がないことです。1つ目の課題は非常に重要です。職場環境を多様な働き方を許容しなければ、若い社員を惹きつけることはできません。」

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY 

ウバウド:「日本と北欧では、根本的に労働文化に大きな違いがあると感じています。北欧では、長時間働くこと非効率とされ、評価されない文化があります。子供を迎えに行くために午後5時に会社を出るのは普通のことです。特にパンデミック以降、より総合的な幸福度を追求する議論が活発です。」

編集室に女性リーダーがいることのインパクト

山本:「私は管理職になったことで、変化を起こす力が強くなりました。職場の若い女性たちに「とにかく辞めないで。そうすれば一歩一歩、一緒に変わっていける」と言い続けています。例えば、私は夕方のニュース番組の編集長になったので、どのニュースをトップニュースとして放送するかを決定できるようになりました。男性の意思決定者ばかりだと、政治や経済ニュースをトップに持っていきますが、私の場合、育児やハラスメントの問題が社会にとって重要だと思うので、トップに持っていきます。」

ウバウド:「 北欧が今のジェンダー平等を達成するまでには150年かかりましたが、日本や、今取り組んでいる国々も同じ時間がかかるとは思いません。メディアの影響力が大きくなり、メディアが変化を加速させる力を持っているからです。」

アルノルスドッティル :「本来、人間は変化を好まないものです。何かを変えようと思ったら、それが”普通”になるまで変化をやり続けなければならないのです。」

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30%の壁

ウバウド:「フィンランドの統計を見ると、会社役員やメディアへの登場頻度など、様々な場面において女性比率が30%前後にとどまっていることが多いのです。30%という数字は、社会に「これで十分」「よくやっている」と思わせる数字です。しかし、50%でなければ良いとは言えません。北欧はこのギャップを埋めるために、まだまだやることがたくさんあると認識しており、とても大切な姿勢だと思っています。」

男性の役割も大きいーより幸せな社会への変革

パネルディスカッションの後、会場参加者から質問を受け付けました。まず、4月から放送局に就職する学生から質問がありました。「今日の会場を見ても、男性は3分の1程度しかいない。メディアはどうすれば男性、特に年配の方々の意識を変え、この問題を認識してもらえると考えますか?」

アルノルスドッティル:「良い労働者は幸せな労働者です。これを達成するためには、全体的なアプローチが必要です。アイスランドの育児休暇に関連した調査によると、育児休暇があると、父親はより幸せになり、家事は母親と父親の間で平等に分担され、離婚は減り、親子関係も良くなるそうです。つまり、私たち(女性)だけの戦いではなく、あなたたち(男性)の戦いでもあるのです。家族や子供と過ごす時間や、生活の質を高めるために楽しめることに、きちんと時間を割く権利を得ることです。つまり、選択肢を持つことが大切なのです。若い世代がより変化に向かって行動し、物事が普通になれば、上の世代も徐々にその価値を受け入れてくれるでしょう。」

ウバウド:「変化を起こすには、既存の人たちだけを見ていてはダメです。社内の若い世代にも目を向けて、変革への道筋を示す必要があります。私は女性リーダーとして常に心がけていることです。また、人によって見えるものが違うので、さまざまなバックグランドを持った人が入社する必要があります。多様なリーダーがいることは、変化を起こすために非常に重要です。」

古田は、朝日新聞からバズフィードに移ったときの経験を披露した。「日本人がメディアにおけるジェンダー平等の欠如を認識する最も簡単な方法は、海外に出て、そこで何が起こっているかを見ることです。私の場合、バズフィードに入社した際に完全に価値観を覆されました。ニューヨークでのオンボードミーティングの際に、最初の話題がダイバーシティだったのです。その時初めて、この問題の重要性と日本の意識の低さを理解したと同時に、ダイバーシティの力を感じました。」

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY 

多様性に乏しい企業は淘汰される

次に、女子大学生からの質問がありました。「企業はジェンダー平等に向けて、受動的な行動しかしていないように見受けられます。どうしたら企業はもっと能動的に取り組めるのか、そのためにメディアができることは何だと考えますか?」

山本:「罰則や、クオーター制は時には有効だと思っています。」

アルノルスドッティル :「私たちメディアは、典型的なステレオタイプの専門家にインタビューしないように常に意識していなければなりません。多様な人を取り上げることを念頭に置かなければならない。私たちの会社は、英国のBBCに倣い、女性の専門家にメディアでコメントするためのトレーニングコースを実施しました。その結果、(アイスランドのような小さな国でも)私たちが知らない女性の専門家がたくさんいることが分かりました。若い世代は多様性のない企業やメディアには魅力を感じていないため、表現に多様性を持たせるように変化できない企業は淘汰されると思います。」

ウバウド:「女性の専門家がいないと言われるのは間違いです。探せば必ずいます。女性の専門家がいないと言う企業は、探す努力を怠っている企業です。」

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY 

年配者の意識を変える

もうひとつ、大学生からの質問がありました「どうすれば、年配者を怒らせることなく、年配者の意識を変えることができますか?」

ウバウド:「変化や発展が起これば起こるほど、それに反対する声が大きくなるのは当然のことです。変化を望まない人たちはいつも必ずいます。変化が必要であることを説明するのはメディアの役割ですが、こうした反対層がいても変化は起こり得ると思います。また、彼らの世代の歴史を理解し、彼らを理解しようとすることもとても重要です。」

アルノルスドッティル :「社会が変われば、彼らも変わる。彼らが変わるのを待っていてはいけません。」

「波風を立て」、「破壊する」ことを恐れないで!

閉会の言葉では、駐日アイスランド大使のステファン・ホイクル・ヨハネソン氏が、若い世代に向けた強いメッセージを発しました。「メディアの役割は、社会を映し出すだけでなく、社会を形成するものであり、非常に重要です。私はグレースーツに身を包んだ60歳代の年老いた官僚ですが、ジェンダー平等における男性の役割について話をしたいと思います。ジェンダー平等が進むと、社会は必ず幸せになります。 私は1999年に末娘が生まれましたが、これはアイスランドで父親休暇法が施行される1年前でした。今、息子や婿を見ていると、子供と過ごす時間が増えてうらやましいです。ジェンダー平等を達成するということは、誰かを怒らせることではなく、すべての人にとってより良い社会を作るということなのです。男性は問題の一部であるばかりでなく、解決策の一部でもあるのです。男性に参加してもらう必要があります。ジェンダー平等が経済成長に大きく寄与することを示す確固たるデータは出ています。日本には多くの高学歴の女性という人的資本があり、人口減少に伴う労働力不足に大きく貢献することができます。北欧では、善意だけでは十分でない場合があることがよく理解されています。法律が必要であり、良い政策を実施する方法が必要です。クォータ制や罰金制は有効です。若い世代の皆さん”へ、ぜひ波風をたて、破壊することを恐れないで!」

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最後までお読みいただきありがとうございました。下記より当日の録画もご覧いただけます。Please visit here for an event summary in English.

https://youtu.be/6SIXmxaLSEg


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