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淀を中心に活動。馬事文化を愛し、馬が紡ぐ物語を丁寧に読み進め、小さな魅力を見つけて育む…

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淀を中心に活動。馬事文化を愛し、馬が紡ぐ物語を丁寧に読み進め、小さな魅力を見つけて育む言葉を紡ぎたい。

最近の記事

真っすぐに受け止めて|2021年有馬記念回顧

日本列島が記録的寒波に見舞われる中でも、天候に祟られることなく無事に挙行された第66回有馬記念。 23歳の若武者・横山武史騎手が駆るエフフォーリアが力強く抜け出し、現役最強を証明した。 その勝利騎手インタビューの場で、横山武史騎手は喜びを爆発させるでもなく、開口一番、前日の大きなミス、すなわちヴァンガーズハートでの御法について謝罪の言を述べた。 神妙な面持ちで自らを未熟と猛省するその姿に、私は彼の矜持と精神性の高さを感じ、競馬界を背負うジョッキーとして更なる活躍を果たしてい

    • 夏に萌える|2021年 夏競馬回顧1(カレンモエ、ザダル、ハイアムズビーチ、ハギノ×藤懸)

      北海道のファンファーレが鳴り響き、新緑の洋芝が画面いっぱいに映し出されると、北国の涼やかな空気が流れ込んできたような錯覚を覚える。 宝塚記念を残すが、上半期の競馬はほぼ一段落。夏競馬がやってきた。 G1シーズンの華やかさも良いが、夏競馬独特の、特定の場所にフォーカスが定まらないこその緊張感が好きだ。 午前中のレースもメインレースも等しく熱気を帯びていて、トリッキーなコースは見どころに溢れ、いろいろなところに宝物が落ちている。 ジョッキーは日本各地に散らばって当地のリーディン

      • 王位奪取|2021年 安田記念回顧

        雌伏の時から解き放たれ、これまで味わった苦い思いを力に変えたかのような快走で、ダノンキングリーが春のマイル王を奪取した。 ダノンキングリーはもともと皐月賞3着、ダービー2着、古馬G2を二つ制して大阪杯でも1番人気に支持された馬。 昨秋の失速から人気こそ落としていたが、このメンバーを相手にしても突き抜ける実力を秘めている点には誰も異論がないだろうが、天皇賞での糸が切れたような殿大敗後とあっては強気になれないのが常識。 時間をかけて立て直した(聞けば3月から在厩で調整を続けてき

        • 泣くな横山武史、胸を張れエフフォーリア|2021年日本ダービー回顧

          勝負というのはかくも残酷なものなのか。 レース後、放心状態で地下馬道へ消えていく横山武史騎手に姿に胸が詰まる思いを抱いた。 エフフォーリアの横山武史騎手はダービー1番人気の重圧にも負けず、積極的なレース運びであった。 結果から見てもほぼ満点の騎乗で、エフフォーリアはそれに応えて最大限の力を発揮した。 レースの転換点となったのは残り1000m地点。 レースの流れがハロン12.8まで緩んだ瞬間にアドマイヤハダルとディープモンスターが押し上げ、呼応するようにサトノレイナスが進出

        真っすぐに受け止めて|2021年有馬記念回顧

        • 夏に萌える|2021年 夏競馬回顧1(カレンモエ、ザダル、ハイアムズビーチ、ハギノ×藤懸)

        • 王位奪取|2021年 安田記念回顧

        • 泣くな横山武史、胸を張れエフフォーリア|2021年日本ダービー回顧

          宝箱を開けるように|2021年日本ダービー展望

          ダービーだけは結果を知りたくない、と毎年のように思っている。 皐月賞は各路線を勝ち抜いてきた戦績の汚れていない馬たちの争いになるから。 各路線を勝ち抜いてきた雄を独自の物差しで比較し、幾つものレースパターンを想像し、まだ見ぬ未来を想像する作業は胸が高鳴る。 そして訪れる現実は、自らの好奇心が導き出した想像をいつも上回る魅力的な走りを見せてくれる。 その点、ダービーは一度は力比べしてしまったメンバーに、何らかの理由で少し遅れをとった別路線組が合流する構図となる。未知のページ

          宝箱を開けるように|2021年日本ダービー展望

          魂は生き残る|2021年オークス回顧、あるいは岡田総帥への追悼

          岡田総帥と直接お目にかかったことはないが、ラフィアン会員の肉親に連れられてBRFには何度も訪れたことがある。 洗練されたゲストハウスにはリヤドロ製の調度品が並び、水回りの細部に至るまで清掃が行き届いていた。 大切な競走馬が滞在しているにも関わらず厩舎と放牧地はオープンを貫いており、心行くまで愛馬との時間を堪能し、リラックスした姿に一層の愛情を深めることができた。 朝のトレーニングでは愛馬同士をマッチングした調教メニューを組み、豪華な併せ馬に胸を熱くしつつ、その息遣いを感じなが

          魂は生き残る|2021年オークス回顧、あるいは岡田総帥への追悼

          高みへ突き抜けて|第16回 ヴィクトリアマイル回顧

          至近の牝馬重賞の勝ち馬が一堂に会し、牡馬に交じって短距離戦線で結果を残したレシステンシアやダノンファンタジー、テルツェットらも顔を揃え、勢いのある充実のメンバー構成となった今年のヴィクトリアマイル。 だが、終わってみれば大横綱グランアレグリアの独壇場だった。 単勝1.3倍が示す通りの一強評価だったが、向こう正面で早々に馬群の外目の進路を確保する超安全運転にも拘わらず、直線半ばで持ったままで前を飲み込むのだから、他の馬はノーチャンスだった。 やや雨を含んだ府中の馬場だったが、

          高みへ突き抜けて|第16回 ヴィクトリアマイル回顧

          ほんの少しのご褒美|三津谷騎手引退に寄せて

          三津谷隼人騎手の渾身のラストライドだった。 初試行となった中京3900mを舞台に繰り広げられた今年の京都ハイジャンプは、現地に入れた僅かなファンと、テレビの向こうで見守る大勢のファンの暖かな拍手に包まれた決着となった。 勝負が動いたのは二週目3コーナー。 これまで3000m級の障害競走を主戦場にしてきたマーニにとって未知の距離に差し掛かる局面で、三津谷騎手は迷いなくアクセルを踏み込み、内ラチ沿いから先頭を奪い取った。 実績と経験では一日の長があるトラストとスマートアペック

          ほんの少しのご褒美|三津谷騎手引退に寄せて

          ドイツの血脈|第26回NHKマイルC回顧

          バスラットレオンの不運な落馬で幕を開けた3歳マイル王決定戦。 展開面の鍵を握る有力馬の落馬が各騎手がどれだけ検知していたかはわからないが、ピクシーナイトが前がかりに進め、グレナディアガーズが早め進出する厳しい競馬をモノにしたのがドイツの名マイラーKingmanを父に持つシュネルマイスターだった。 シュネルマイスターは道中、早いペースで追走に苦労する素振りを見せたが、これは脚を削がれていたのではなく、ただ戸惑っていただけ。 平均的に長く脚を使い続ける展開は、ドイツ由来の頑強な

          ドイツの血脈|第26回NHKマイルC回顧

          桶狭間からダービー・そして菊の舞台へ|第69回京都新聞杯回顧

          川田騎手の手腕に舌を巻くレースだった。 川田騎手が様々な面で高い技量を有することは疑う余地もないが、他の騎手と一線を画すのは、待ちではなく勝負になる展開に自力で騎乗馬を導く点だと思う。 今日のレッドジェネシスのレース運びは、そんな川田騎手の強みが凝縮された競馬だった。 勝負のポイントは、インに拘り、人気馬二頭(ルペルカーリア・マカオンドール)に対し終始アドバンテージを稼ぎつづけたことだろう。 外枠から流れの中でスムーズに中団インを確保するソツの無さ、その過程でマカオンドー

          桶狭間からダービー・そして菊の舞台へ|第69回京都新聞杯回顧

          地方だからこそ育てられる|ジンギの快走

          GW最終日に行われた兵庫大賞典で、昨年の園田年度代表馬であるジンギが見事優勝。 生え抜きとしては破格の獲得賞金一億円の大台に5歳にして到達した。 彼自身が稀有な才能を有していたことはもちろん疑うべくもないが、彼が大台に到達できた背景には、地方競馬の賞金体形が急速に改善していることが挙げられる。 例えば兵庫大賞典の一着賞金は、一時は500万円程度まで引き下げられていたが、この三年で800万円→1000万円→2000万円と大幅改善し、今や中央のオープン特別に匹敵する高額賞金とな

          地方だからこそ育てられる|ジンギの快走

          カジノドライヴの痕跡|第33回かしわ記念回顧

          GWの最終日、南関東のカジノフォンテンが中央の強豪を退けてG1級競走二勝目を挙げた。 地方所属馬によるG1級競走2勝以上はアジュディミツオーやフリオーソといった、歴代の名馬たちに肩を並べる大記録となった。 カジノフォンテンの血統表や戦績を紐解くと、二つの事実にたまらない気持ちになる。 一つ目は父カジノドライヴの存在。 私はカジノドライヴのデビュー戦を幸運にも京都競馬場のスタンドで観戦することができたのだが、眩しい朝の光の中、しなやかに体を躍動して、初めての競馬場を存分に楽

          カジノドライヴの痕跡|第33回かしわ記念回顧

          空前絶後|アグネスデジタル種牡馬引退に寄せて

          アグネスデジタルの種牡馬引退が発表された。 https://news.netkeiba.com/?pid=column_view&cid=48800 芝/ダートも中央/地方/海外も関係なく、2歳から6歳まで長きにわたり第一線で活躍しつづけでG1を6勝。 G1最多勝を更新する馬は現れても、多様性で彼を超える馬は二度と現れないだろう。 栗色の馬体がぎゅっと収縮し、次の刹那はじけるように目一杯に体を伸す姿がとても好きだった。 豪脚を繰り出したマイルチャンピオンシップ、テイエムオ

          空前絶後|アグネスデジタル種牡馬引退に寄せて

          だからステイヤーには価値がある|第163回天皇賞回顧

          ステイヤーの価値長距離路線の凋落が著しいと言われて久しい。 私見だが、これは日本競馬のレベルが底上げされ、各路線のスペシャリストが高いレベルで拮抗するようになったが故の現象と考えている。 ピュアステイヤーは日本競馬の競走体系上、中距離路線への挑戦を避けられない。一部の特例を除き、成績表が汚れてしまうことは致し方ない(※1) ※1 考えてみてほしい。ピュアスプリンタ-がマイルに挑戦して大敗したとして、「スプリント路線は低レベル」と揶揄するだろうか。 400mの差でも適性の差は

          だからステイヤーには価値がある|第163回天皇賞回顧