見出し画像

ドイツの血脈|第26回NHKマイルC回顧

バスラットレオンの不運な落馬で幕を開けた3歳マイル王決定戦。
展開面の鍵を握る有力馬の落馬が各騎手がどれだけ検知していたかはわからないが、ピクシーナイトが前がかりに進め、グレナディアガーズが早め進出する厳しい競馬をモノにしたのがドイツの名マイラーKingmanを父に持つシュネルマイスターだった。

シュネルマイスターは道中、早いペースで追走に苦労する素振りを見せたが、これは脚を削がれていたのではなく、ただ戸惑っていただけ。
平均的に長く脚を使い続ける展開は、ドイツ由来の頑強なスピードとスタミナを持つ彼への大きな追い風であった。

昨日の京都新聞杯の回顧では川田騎手の「待ちではなく勝負になる展開に自力で騎乗馬を導く技量」を評したが、今日はルメール騎手の「ラスト1ハロンまで脚を伸ばし切る技量」が最大限に活きていた。

ルメール騎手の騎乗馬はいつもゴール前にもうひと伸びするが、これは道中での様々な負担、例えばギアの上げ下げや体がぶつかり合うようなポジション争いをストレスを最小化しながら運んでいるからに他ならない。
今日も、追走に苦労する相棒のリズムを丁寧に整え、広い東京コースを利して冷静に駆けていた。期せずして前かかりの競馬となる中で、グレナディアガーズとソングラインを目標にできるポジションはベストであった。
蓄えた力を解き放ち、四肢を存分に伸ばして駆け抜ける東京の直線は、シュネルマイスターにとっても心地よい時間だったであろう。
ゴールの瞬間も余力を残していたようにも見え、大変な奥深さを感じさせた。

Kingman産駒にとっても本邦発G1勝利。エリザベスタワー共々日本競馬へ高い適正を示しており、今後産駒を輸入する動きは加速するだろう。
少し気が早いが、本馬を通じInvincible SpiritからKingmanへと続く血統が日本に根付くことも期待したい。
また母セリエンホルデは独オークス馬だが、同じく独オークス馬の仔は、ナイトマジック(グレートマジシャン他)やサロミナ(サリオス・サラキア)、ターフドンナ(エリザベスタワー)等、近年活躍馬を多数輩出している。ディープインパクトとキングカメハメハを喪って血の勢力図が大きく書き換わろうとする転換点において、重要なキーを握ってくるかもしれない。


池添騎手のソングラインもまた、グレナディアガーズを目標にできるベストポジションで運んでおり、池添騎手の勝負強さを改めて感じさせるレース運びだった。
有力先行馬の中で最も信頼でき、前を一掃できるG1馬の背後を取れた意義は大きかったが、全周パトロールでは各馬の様子を伺いながらも殆ど左右に動くことなくくポジションを確保しており、様々なプランを想定した緻密な戦略性を感じさせた。
グレナディアガーズが想定より早く脱落してしまったことは誤算であり、目標を失い苦しくなってモタれた分が明暗を分けてしまったが、ゴールの瞬間も身体は前に出ており、勝ち馬はこちらであってもおかしくなかった
桜花賞ではメイケイエールの煽りを受ける不運に見舞われたが能力の高さは十分に示したし、キズナ×シンボリクリスエスという頑健かつ骨太な血統で3歳春が完成ということもあるまい。本馬の未来も明るい。

グレナディアガーズは馬がやる気になりすぎて、ツーテンポ早くギアが上がってしまった。
それでも3着に残ったのはフィジカルの強さの賜物だが、Frankel産駒特融の精神面の危うさを解消しなければトップクラスで結果を出すのは難しい。
前哨戦で7F戦を選んだことも裏目だったかもしれない。危うさは能力の裏返しでもあるため悩ましいが、彼の激情を走る方向だけに向けることができるか、陣営の手腕に注目していきたい。


先行したピクシーナイトやホウオウアマゾンにとっては、ラストスパートに向けて脚を貯めるタイミングでグレナディアガーズに捲られたのは不本意だったであろう。
そんな中で飲まれずにファイトしなおしたランドオブリバティや、大幅馬体減ながらも大きな失速をせずに踏ん張ったホウオウアマゾンは、着順・着差以上に価値の有る競馬であった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?