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通勤が海外旅行みたい【嵯峨野ぐらし40】

 近頃の京都は「オーバーツーリズム」なんだそうです。嵯峨から東山へ、京都の市街地を横断してバイトへ通勤している私。行き帰りの電車やバスは乗客の7~8割が外国人観光客で、日本人らしき人(マスクをしている東洋人)も半分以上は観光客で冷静に考えてみると「これじゃあ、海外旅行先でバスに乗っているのと変わらないじゃん!」
 市バスはいつも満員で(それでも赤字らしい)、常に遅れ気味なので時刻表はあってないようなものだし(コロナ前は、バスがいつも遅れるのは時刻表の設定にムリがあるのでは? と思っていましたが、コロナで観光客がいなくなると、バス停に止まるたびに、「時間調整のため、〇〇分まで停車します」となかなか出発せず、嵐電もほとんど加速しないまま惰性走行をして時間つぶしをしながら定時運行を維持しているような感じで、時刻表はこんなにも余裕をもって設定されていたんだと驚かされたものです)市民生活はけっこう面倒なことになっています。
 特にコロナ前と違うのは、外国人観光客がラーメン屋や吉本新喜劇に出てきそうな食堂へもやってくることで、時間をずらせて昼飯を食べに行かないと店に入ることもできません。彼らはスマホの翻訳アプリでメニューを翻訳して注文しているのですが・・・・・・ うどん屋で壁に貼ってある「志っぽく」とか「きつね」と筆文字で書かれたメニューがどのように翻訳されているのか、とても興味があります。「きつね」を「fox」なんて訳されたら、うどんだなんて思わないですよね。さて、昨日のこと、丼&うどん&甘味の店(京都ではどこの街にも1軒ぐらいはある昔ながらの食堂)で、うどんを食べたあと、壁に貼ってある「ぜんざい」の写真を見て注文している欧米人ファミリーがいたのですが、ぜんざいに添えられている「塩昆布」を見て、「これは何だ?(英語)」と店のおねえちゃんに聞いており、おねえちゃんが一生懸命、昆布を英訳している横で、おかみさんが「ぜんざいのように甘い物を食べるときに、塩辛い昆布を食べることで、ぜんざいの甘味がいっそう引き立つのだ」ということを伝えようとしているのですが、とても説明しきれませんよね(笑)それより、おねえちゃんもそんなことは知らなかったようで、あとからおかみさんと塩昆布談義が盛り上がっていました。

けいらんうどん(京都方言?)

 ここからが本題です。先日、私がバイト先で店番をしていると、大きなキャリーバックを引いた欧米人のおねえちゃん(一人旅)がやって来て、
「このホテルに行きたいが、どこにあるかわからん! 教えてくれ!(英語)」と言い、スマホの地図を見せてきました。たしかに「Kyoto 〇〇 Hotel △△House」と書いてるのですが、その地図を何回見ても、その場所はお向かいの京町屋のウラあたりで、お向かいさんの玄関脇にある「ろうじ(京都の方言)」を入っていったあたりですが、そんなところにホテルがあるはずもなく、私は「???」でした。

お向かいさんの玄関脇の「ろうじ」

 ちなみに、京都でよく見かける、このような「ろうじ」は以下のような経緯でできたものです。平安京は道路が碁盤の目になるように設計されて作られましたが、碁盤の目が粗く、通り沿いに建物が並んでいても、その裏側には広大な空き地があるような感じになり、土地を有効活用できていませんでした。まずそれに目を付けたのが豊臣秀吉で、通りと通りの間に新しく道を作るなどして碁盤の目を細かくし、新たに家を建てられるようにしました。さらに近代になって、京都が西陣織などの当時の輸出産業の一大拠点になると、地方からやってきた職人や工員を住まわせるために、通り沿いに昔からある家のウラに長屋を建て、上写真のような通路を設けて住めるようにしました。なので、一見お向かいさんの勝手口のように見えるこの「ろうじ」も向こう側の通りまで続く一般道路なのです。

 閑話休題、私はおねえちゃんのスマホにあるホテルがほんまにあるのか、疑問に思いながらも、道の真ん中でひなたぼっこをしている猫を蹴散らしながら、この「ろうじ」を入って行きますと・・・・・・

「ろうじ」の奥

 ありました!! 長屋のぼろい町屋に「Kyoto 〇〇 Hotel △△House」の看板がかかっています。いや、どこがホテルやねん!
「ここや! ここにホテルがありまっせ。こんなところにホテルがあるやなんて知らんかったわ!(TOEIC 565点英語)」とおねえちゃんを案内し、これにて一件落着と信じて、私は店番に戻りました。
 が、しかし、but、しばらくすると、おねえちゃんが再び私のところへやってきました。
「ホテルから送られてきたガイダンスにある『白いキーボックス』が見当たらないし、違う場所にある『黒いキーボックス』をガイダンスされているパスコードに合わせても開かない。ガイダンスの電話番号にかけてもつながらない。あんたの電話でここにかけてみてくれないか?(英語)」と、私にガイダンス文(英語)を見せます。TOEIC 565点の読解力で読んでみると、「通常は事務所へ行けば鍵をもらえるけど、今日は定休日なので白いキーボックスを開けてキーを受け取りなはれ。パスコードはこれじゃ。連絡先の電話番号はこれじゃ」と書いてあるのですが、電話番号は「国番号81(日本)」から始まっているものの、どうも桁数が多すぎておかしいし、困ったもんだと思っていると・・・・・・
 ホテルの看板の下に小さい字で「緊急連絡先」として携帯番号が書いてあるじゃないか! さっそく私の携帯でその番号にかけるとオーナー(日本人)が出て、状況を説明すると、『黒いキーボックス』のパスコードを教えてくれ、無事おねえちゃんは「ホテル」に入ることができました。
このとき、私はオーナーに「お客さんと電話代わりましょか?」と言ったのですが、オーナーは英語のできない人なのか、「代わらなくてもいい」という回答だったので、そのまま彼女はホテルへ入り、私も再び店番へ戻りました。いや、私はこのときに何かおかしいと気付くべきでした。

トイレの掲示 中国語は3文字って、簡略化しすぎとちゃうの??

 いやぁ、今日はいいことをしたなあ。と思い、仕事を終え、20時過ぎに夕飯を食べていると、オーナーさんから電話が!
「いやぁぁぁ、実はさっき、今夜泊まらはる『ほんまもん』のお客さんがチェックインしはりまして、ちょっと騒動になってるんですわ。あの夕方の人はニセモノというか、何か大きな勘違いをしてる人みたいなんですわ」
「ええっ!」
いきなり「Kyoto 〇〇 Hotel △△House」の場所を尋ねてきたのだから、私はまったく疑わなかったけど、彼女が見ていたあのガイダンスは明らかにおかしいし、オーナーも私ももっと早く気付くべきでしたね。
「それで、夕方の彼女と連絡を取りたいんですが、連絡先とか聞いてはりませんか?」
いやいや、もし私が彼女の連絡先を知ってたら、仕事中にナンパしてるんやんかぁ(笑)
結局、彼女はどうなったのでしょうか?
このようなことが繰り返されて、はじめは親切だった京都市民も、だんだんと観光客にイケズになっていくのかもしれませんね。ではまた。

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