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嵯峨野ぐらし34 しっぽくとのっぺい

 コロナ禍で観光客が少ない間ずっとバイトの昼休みにたっぷり1時間の休憩をさせてもらっていたうどん屋さんが観光客で行列ができる店になり、この店がいっぱいのときでも空いていたカレー屋さんもなぜか欧米人観光客ばっかりで満席になりと、観光客が増えるにつれて昼休み難民になっている今日この頃、晴れた日は鴨川の河原でホームレスのような昼休みを過ごしている京都市在住の守山もりおです。
 さて、関東の食堂で「たぬき」といえば「天かす入り蕎麦」、関西の食堂で「たぬき」といえば「油揚げ入りの蕎麦(きつねうどんのうどんを蕎麦にしたもの)」という「地方により同じ名前でも別の料理だネタ」は有名ですが、困ったことに、京都で「たぬき」というと大阪など他の関西とは別のものが出てきます。京都で「たぬき」「刻み油揚げ入りあんかけうどん」のことで、ついでに京都では「きつね」「刻み油揚げが入っているうどん」のことなので、「きつねのあんかけ=たぬき」という方程式が成り立ちます。じゃあ、一般的に「きつねうどん」と呼ばれる「甘く味付けした油揚げが刻まれることなく乗っているうどん」は何と呼ばれるのかというと、「甘ぎつね」です。ついでに「甘ぎつねの卵とじ」「きぬがさ」です。
というように、関西の中でもややこしい名前が付けられがちな「京都のうどん」事情について今回は語りたいと思います。
 京都のローカル食堂(丸亀やはなまるうどんのような全国チェーンではなく、どこの町内にも1軒はある「うどんと丼物がメインだけど中華そばやカレーもやっている食堂」にはたいてい「しっぽく」「のっぺい」(「のっぺ」と書いている店もあり)というメニューがあります。しかも、うどんとか蕎麦とか書かれておらず、単に「しっぽく」「のっぺい」と書いてあり・・・・・・ 「しっぽくって何?」と標準語で会話している声をよく聞きます。これだけは言っておきますが、間違っても長崎名物「卓袱(しっぽく)料理」のフルコースは出てきません。京都で「しっぽく」といえばこれだ!!

しっぽくうどん

 写真のように、かまぼこ・麩・椎茸・三つ葉(orほうれん草)・海苔・湯葉・甘きつね(小)が入っているのが基本形です。
 長崎の「卓袱料理」のひとつに、うどんに多種多様な具をのせた料理があるらしく、これを真似て京都風にアレンジしたのが「しっぽくうどん」だと言われています。東京には「しっぽく蕎麦」があるそうですが、京都のしっぽくうどんをアレンジしたもので、長崎→京都→東京とアレンジを加えながら伝わっていった料理の典型例だという説もあります。ちなみにうどんの本場讃岐の郷土料理にも「しっぽくうどん」があるようですが、これは大根や人参、里芋、ごぼうなどの根菜類と椎茸、鶏肉、油揚げが入った「けんちん汁うどん」のような料理で京都の「しっぽく」とは別の料理のようです。いろいろと複雑ですね。
 さて、京都にはこの「しっぽく」の進化系のうどんも存在します。それはこいつ。「のっぺい」だ!!

のっぺいうどん

見てのとおり、「しっぽく」をあんかけにして、おろし生姜をのっけたものが「のっぺい」です。ついでに、別の店の「のっぺい」も見ていただきましょう。思いっきり「あんかけ」、生姜の量もハンパないなあ。

別の店ののっぺい

 一説には、滋賀県長浜のうどん屋さんが、京都の「しっぽく」と大阪の「あんかけうどん」を合体させて発明したともいわれています。ただ、全国で地方ごとに広まっている「根菜を主材料にした、具材を油炒めせずに、とろみを付けた汁物」である「のっぺい汁」とは別物のようです。(具材を油炒めした汁物は「けんちん汁」と呼ばれることが多いようです)
 「のっぺい」の語源については、「しっぽくうどん」は全国的には「おかめうどん」と呼ばれることから、「おかめをあんかけにしたら『のっぺら坊』だから『のっぺい』だ」というように名付けられたという説もあれば、あんかけでのっぺりしているからだという説もあったり、そもそも「おかめうどん」と「しっぽくうどん」は別物だという説もあり(私は同じような料理だと思う) よくわかりません。
 ただ言えることは、
「しっぽく:のっぺい=中華そば:あんかけ中華」という式が成り立つということです。
ちなみに、某店で外国人観光客のために用意されている「英語メニュー」によると、「しっぽくうどん=Udon soup with seasoned mushrooms」「のっぺいうどん=Udon soup with yuba in thickened starchy soup だそうです。これやったら、「しっぽく」は椎茸メイン、「のっぺい」は湯葉メインやないかい! うまく英訳するのは難しいですよね。

英語メニュー


 「のっぺい」って何? とうどん屋で言っているあなた! ぜひ、今度京都へ来られたときは「のっぺい」を注文してみましょう。特に寒い時季は、この大量の生姜で身体が暖まりますよ。私は個人的に甘辛く味付けされた椎茸が大好きです。ではまた。

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