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“科捜研の女”がドラッグにはまっていたら、その検査結果に信憑性はあるのか…… 『化学者の麻薬スキャンダル』【NETFLIX】

 アメリカのマサチューセッツ州で起こった“麻薬スキャンダル”を追ったドキュメンタリー・シリーズ。

 NETFLIXのサイトの〈あらすじ〉では――

薬物を分析する2人の化学者による、司法制度をゆがませた衝撃的な犯罪。渦中の弁護士、司法当局、そして数千人もの受刑者に問う。一体、正義とは何なのか。

予告編はこちらで観られます➡オフィシャルサイト

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 麻薬にまつわる事件において、司法の判断は所持していたドラッグの分析結果がすべてといっていい。では、その検査官がドラッグ漬けだったとしたら? その検査結果に信憑性はあるのか? 本作は、検査官の女性がいかにしてドラッグにはまっていったか。さらには検察による事件の隠蔽にまでふみこんでいく。

 アマーストにある薬品研究所に勤めるソニヤ・ファラクは、ふとした興味から研究所にサンプルとして保管されているドラッグに手を出してしまう。最初はアンフェタミンを数滴たしなむ程度だったのが、だんだん度を越していき、より強いドラッグへと手を出すようになる。サンプルが減ってきてやばいと思った彼女は、今度は分析のために送られてきたドラッグにまで手を出すようになる。
 ファラクは、高校では女性として初のフットボールのメンバーとして活躍したり、総代をつとめるなど優等生だった。大学に進み化学を専攻、卒業後はボストンの科学研究所に就職。化学分野での受賞歴もあり、周囲からの評判は好奇心旺盛、寡黙、運動が得意で努力家――とても依存症になるような、ましてや証拠品に手を出す人物ではない、とのこと。ではなぜ彼女はこんな事件を起こしたのか?
 化学捜査官というと『CSI』や『科捜研の女』を思い浮かべるが、ドラッグの分析というのは、それはそれは単調で地味、にもかかわらず仕事の量は膨大なものだそうだ。その退屈で毎日がデジャヴのような日常が彼女を追いこんでいく。ドラッグによってハイになることで仕事ははかどり、人の4倍こなしていたとのこと。だが、それはあくまで使用している間だけで、切れた時の反動の大きさは、それは大変なもののようだ。こうしてより刺激の強いものを求めるようになっていった。
 問題は、証拠のドラッグを分析官が流用したというだけに終わらない。ドラッグ漬けの検査官が分析した証拠に果たして信憑性はあるのか? 二人の弁護士が、ファラクが担当した事件の検査結果無効を提示、それにともなって有罪とされた人々の保釈を求める裁判を起こす。
 実はマサチューセッツ州では以前にも同じような事件が起こっていた。アニー・ドゥーカンという州立研究所の職員が逮捕されている。彼女もまた模範的な職員だったそうだ。この時には当時のマサチューセッツ州の司法長官が「徹底的な見直しをはかり、二度とこういう事態は起こさない」と宣言。だが再び起こってしまった。そのため、司法長官はファラクの事件はなんとか穏便にそれほどの被害はない、と見せかけるよう検察や警察に圧力をかけていた……。
 参考まにで、アンソニー・ドゥーカンの事件についての詳細はこちらのサイトに詳しくあります。➡ネカト・ブログ

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 ファラクはいったいいつからドラッグにはまっていたのか? それによってどれが冤罪事件となりうるのか? 弁護士は権力からの圧力を受けながらも、徹底的に粘って、ついに真実へとたどり着く――
 マサチューセッツ州というとボストンが有名だが、事件の舞台となったアマーストは西部に位置し、3つの大学を抱えるリベラルな街とのこと。しかし、大学と同じ土地内にある研究所には予算が割かれておらず、老朽化&人手も足りてない。だが仕事だけは多い。それが事件のひとつの要因であり、これは行政の問題であることを浮かびあがらせる。さらに司法長官がメンツを保つために隠蔽工作を指示。現行の司法制度では冤罪を覆すのは難しいことなど、事件を通じて、行政や司法の問題にも踏み込んでいく。裁判記録、それをもとにした再現シーン、当事者のインタビューによって、事件の過程を4話をかけて丁寧に追っていきます。
 医薬品に関わるものは善人である――そう思いたいものだが、製薬会社がいかに利益優先でそれを使用する病気の人々のことなど考えていないかは、『汚れた真実』のシーズン1・第3話『製薬会社の疑惑』で描かれている。このエピソードを監督したエリン・リー・カーが、本作のシリーズ・ディレクターを務めている。
 4話は若干長さを感じさせるところもなくはないですが、丁寧に事件を追っており、最後まで興味深く見ました。

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『化学者の麻薬スキャンダル』【NETFLIX】
How to Fix a Drug Scandal
2020年/アメリカ/[4epi](48~60min)/
配信会社:NETFLIX
オフィシャルサイト
 Photo Copyright by © 2020 - Netflix
【STAFF & CAST】
シリーズ監督:エリン・リー・カー
プロデューサー:ウィル・コーエン
出演:スコット・アレン(ジャーナリスト/ボストン・グローブ紙)、ダニエル・マックス(弁護士)、リンダ・ファラク(ソーニャ・ファラクの母親)、ショーン・マスグレイヴ(調査記者)、マット・シーゲル(アメリカ自由人権協会マサチューセッツ州、法務部長)、デイヴィッド・サリヴァン(弁護士)、シャノン・オニール(裁判再現シーンのソーニャ・ファラク役)

◆エピソードリスト(サブタイトルなし)
第1話 エピソード1
第2話 エピソード2
第3話 エピソード3
第4話 エピソード4

★参考までに海外の映画&ドラマ サイトの評価は以下です​
IMDB
RottenTomatoes
metacritic


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