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読んでない本の書評35「一人の男が飛行機から飛び降りる」

222グラム。どこで切ってもキリがいい。

一人の男が飛行機から飛び降りる。さめざめと涙を流しながら、男は靴箱いっぱいのラブレターを、風が吹き荒れる空中に投げ捨てる。

 最高のセンテンスだなあ、と思う。表紙もかわいい。タイトルもいい。重さもいい。柴田元幸さんもいい。まったくもって何の文句もない本なのだ。ただ、中を読んでもあまり興味がわかないことだけが少し困る。
 数ページほどのリアルでユーモラスな悪夢を次々と。たしかに面白いのもあるのだけど、どちらかといえばあまりピンとこない。解説でもちょっと引き合いにだされているが、モンティ・パイソンを見たときも、なるほどこういう感じになる。面白いところはすごく面白いんだけど、苦笑いがぴたっと口角に張り付いたままぼんやりせざるを得ないところが結構長い。
 しかし、一冊の本たるもの素敵なところが二行もあれば十分ともいえる。元気を出していこう。

 ユアグローの夢は、しかし私の夢ではないから、どうしても私にとって、飛行機から飛び降りた夢の主人公は男性ではないのだ。空に飛びだして、涙を流しながらラブレターをぶん巻いているのは、私の中では中森明菜である。あの人は、いい青空の中を、いい風を吹かせて、いいラブレターをぶん撒いていった。夢は、琴線に触れて、場違いで、のっぴきならぬことになる前に目覚められるのがいい。
 「乙女」という短編もよかった。

中に書いてあることはいまいち判断できないが、手に持った感じが大変いい本である。心もとなくて申し訳ない。

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