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美大生のための就活本(2021年版)

はじめに

就活を控えた、すべての美大生・専門学生のために書きます。

ぼくは武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科を09年に卒業し、総合広告代理店のアートディレクター採用で社会人になりました。いわゆる「クリエイティブ枠採用」です。その後、7年くらい会社員をやった後紆余曲折あり、現在は当時の記憶を元に広告代理店のクリエイターを描く漫画「左ききのエレン」を少年ジャンプ+で連載しています。

ぼくは周りと比べて、明らかに才能がありませんでした。これを誰よりも自覚していたお陰で、必死になって美大生の就活というものを考え、研究し、トライアンドエラーを繰り返しました。

ぼくは行きたい会社に行けましたが、ぼくよりも明らかに才能があるのに結局どこからも内定が出ずにフリーターになった人もいました。

結論から言うと、美大生は就活の対策をしなさ過ぎます。

確かに「美大生の就活」とか「クリエイティブ採用対策」とか、世の中にまとめられていないので、対策の取っ掛かりが無い。

だから広告代理店でしばらく働いた後に「凡人のためのクリエイティブ就活」という本を書こうと決意し、出版社の方と打合せしてた事もあります。

しかし、書籍化は実現しなかった。なぜなら、全国の主要美大生を全員足しても1万人いないくらいのマーケット。書籍だと赤字になってしまう。電子書籍だってスケールしない。

そんな理由で書籍化をあきらめて数年が経ちましたが、このnoteという販路が適しているのではと思い立ち、この度改めて「美大生のための就活」について有料記事として販売しようと思います。


就活解禁が3月になりました。

これは今年はじめて就活をはじめる人達にとっては知った事では無いかも知れませんが、昔はもっともっと前から就活をはじめられました。

就活は、企業側が「募集をはじめますよ」と言って、説明会やら面接やらを開始する事ではじまりますが、近年になって遅くなったという事です。これは、美大生の弱点と非常に相性が悪い。

就活解禁が遅くなればなるほど、美大生の弱点が深刻化するのです。


美大生の弱点

ここで美大生の大きな弱点に触れます。最大の弱点と言っても過言でないかも知れません。それは「危機感」を感じ辛いという点です。

一般大の友人も多くいましたが、ぼくらよりも何倍も危機感を持っています。平たくいうと「ちゃんとしないと人生ヤバい」という感情です。

美大生のキャラクターは大きく2種類いると思っているのですが、1つは「超マイペース」です。美大という特殊な進路を選んで好きな事をして生きて行こうとしている人達ですから、ちょっとその辺には居ないくらい超マイペースと言えます。

もう1つは「超自信家」です。自分の才能を信じ続けて美大にくる人達ですから、かなり我が強い。入学の挨拶で「オレは卒業したら電通いきます」って宣言するくらいの自信家。これが特別なケースでもなく、何割かいますから。

この「超マイペース」と「超自信家」は、ベクトルは違えど同じ「楽観主義」なんです。「ちゃんとしないと人生ヤバい」と危機感を持ってビクビクしてる一般大生の対岸にいるのです。

もう死ぬまでそのまま生きて行ければ「超マイペース」でも「超自信家」でもオールオッケーなんですが「ちゃんとしないと人生ヤバい」と、就活の後半で気付くのが一番の悲劇。就活の開始が遅くなるという事は、例年に比べてより後半に気付くという事です。もう取り返しがつかないくらい後半に。


美大生がハマる“ポートフォリオ地獄”

ここからは、実践的な内容になります。

一般大生の就活にはない「ポートフォリオ(作品集)」というものが美大生の就活では最大の関心事になるでしょう。

美大生が陥ってしまう最大の「間違った認識」は、

“就職活動=作品(ポートフォリオ)を作る事”だと思っている点です。

学科の教授、憧れのクリエイター、第一希望に内定した先輩、彼らのアドバイスの多くは、ほとんど「作品(ポートフォリオ)」についてでしたし、学生もそこばかり気になります。

しかし、そもそも就活において、“作品とは、ポートフォリオとは何か”を教えてくれる人は少なかった。

「ポートフォリオのページ数は?」

「プロフィールや、目次は必要?」

「製本は?表紙は凝った方がいい?」

これは実際にOB訪問を受けてよく聞かれる質問ですが、こんな些細な部分的な事は後回しで良いんです。というよりも就活における“作品とは、ポートフォリオとは何か”が分かれば、細かな事はおのずと決まるものです。


就活とは何か?

就活とは何か?

就活とは「自己分析」と「企業研究」です。

一般大と美大の就活も、この根本は変わりません。それなのに「それって一般大の就活の話でしょ?」と斜に構えている美大生が非常に多い。

この「自己分析」と「企業研究」を両輪として第一志望に近づいてゆく活動、それが就職活動という行為です。


美大生は自己分析が得意のはず

しかも、美大生は「自己分析」が得意のはずなんです。

一般大生は、当然ですが就活で初めて自己分析をはじめます。自己分析をして大学生活を振り返り、自分を企業にアピールするための材料を整理します。

ぼくは「自己分析」という言葉が就活以外で使われない限定的な意味である事がいけないと思っています。平たく言えば「自分の知ること」と言い換える事ができます。

では「自分を知ること」を、美大生はやっているでしょうか。受験、課題、展示を経て、もっと良い作品を作るため、他人の意見を聞いてきたはずです。作品について、ああでもないこうでもないと、学食で延々と話したりした事はありませんか。

美大生が作品について悩んできた全ての時間が「自己分析」と言えるのです。つまり、制作活動とは、まるごと「自分を知ること」であり「自己分析」なんです。それも、非常に高度な自己分析です。だって一般大生は自分を探すために世界一周とかしているんですよ。美大生は目の前のキャンバス(PCでも)に向かって、自分を探している。自分を知ろうとしている。こんなに効率が良く深い自己分析が他にあるでしょうか。

まずは、就活において“制作活動=自己分析”であると理解して下さい。


ポートフォリオ(作品集)とは何か

では「作品(づくり)」は「自分を知る行為」で、その集大成である「ポートフォリオ(作品集)」の正体とは何でしょう。

“ポートフォリオ=エントリーシート”なんです。

一般的な就活においても自己分析は、エントリーシートを書くための材料です。エントリーシートに深みが無い、見たことがある内容ばかりの場合、それは自己分析が浅いまままとめてしまっているから。

先ほどの「ポートフォリオの細かな体裁」が、いかに無意味か分かりますね。エントリーシートの文字数とか、既製品じゃなくオリジナルで用意した方がいいかとか、そんなものは企業毎に違います。それは、語るべき内容が用意されていれば勝手に決まるものです。

“ポートフォリオ=エントリーシート”だと気付くと、やるべき事も見えてきます。

例えばエントリーシートだって「私は、居酒屋でバイトしました。あと海外留学もしました。学生団体もやりました。ボランティアもしました…」などと思いつくままに話したら、要点が伝わりませんね。これはエントリーシートの場合は結構分かり易いので気付くことができます。

でも、多くのポートフォリオがこの状態に陥っていて、つくった学生は気付けない。それは、先の「ポートフォリオとはエントリーシートである」と構造的に理解出来ていないためだと思います。

作品を厳選して編集できないと、何も印象に残りません。たまに「とにかく作品の幅があること」を求めている企業が無くは無いのですが、それを狙ってやるのか意図せずなってしまっているのかは雲泥の差。

では、いざ作品を厳選してみようとしても、なかなか上手くいきません。制作活動が単なる自己分析と違って厄介なのは、思い入れが強く、取捨選択がし辛い事です。言葉で理解するのは簡単ですが、可愛い作品を捨てる勇気も必要です。

では、理想的なポートフォリオを作るため、どの作品を残し、どの作品を捨てればいいか。あるいは、どんな作品が足りないか。

それを知るために「企業研究」があります。

なかなかOB訪問に行かない就活生

「企業研究」ばかりは、一般大生とやるべき事は同じです。「企業研究」はどうすれば深まるでしょうか。

美大は実は真面目な学生が多いので、説明会を聞いたり、ホームページを見たりはします。毎年、就活情報通みたいなヤツが学年に数名は必ず現れます。

しかしそんな意識が高い学生も、OB•OG訪問にだけは、なかなか行かないのです。

行かない理由を尋ねると、口を揃えて「(ポートフォリオの)準備ができたら」と言います。ちょっと待って下さい。先に述べた様に「ポートフォリオ=エントリーシート」だとすると、OB•OG訪問はその前に行くべきだと分かるはずです。なんなら、OB訪問で書きかけのエントリーシートを添削してもらえるチャンスもあるかも知れない。

一般大生は、書きかけのエントリーシートをOB訪問で見せたりしますが、それと同じで、ポートフォリオも作りかけで良いんです。ポートフォリオの完成は、作品面接の前日、あるいは当日の朝でも良い。

OB•OG訪問は「企業研究」を最も効率よく深める機会です。今まで作った作品さえあれば話はできるので、力み過ぎないで。

一つ注意すべき事は、「内定した先輩」ではOB•OG訪問にならないという事です。結局「オレのポートフォリオ講座」になってしまいがちで、企業研究にはなりません。「内定した先輩」と仲良くして就活した気になってる学生は本当に多いです。

誤解を畏れずに言わせて頂くと、この様な憧れの企業に内定した先輩は、論理立てて就活の対策をしていません。やりたい様にやって、それが運良くホームランになった人です。それを、世間は才能と言いますが、これは他人が再現できるものではありません。なので「オレのポートフォリオ講座」になってしまうのです。何度も繰り返しになりますが、他人のエントリーシートを真似しても、意味ないですよね。


第一志望をぶっつけ本番して落ちる就活生

自分に合う会社かどうか在学中に確かめる機会が「就活」で、そのための「自己分析」と「企業研究」です。

美大生は特別な魅力がある一方で、一般大生が当たり前にやれている事が出来なかったりします。それを肌で感じるために、とにかく就活が始まっている企業を受けてみる事をオススメします。

あなたの第一志望になる様な会社は、面接の時期が早い可能性が高いです。(人気企業は得てして早めに就活を開始します。)

なので、多くの美大生は、第一志望をぶっつけ本番にしてしまいがち。こんなにもったいない事はありません。

なので、少しでも気になる企業があれば、たとえ総合職(クリエイティブ以外の採用)でも練習のつもりで受けてみて下さい。卒業制作などで、忙しい時期でしょうが、絶対に試してみた方がいい。試しに、一回落ちてきてください。


いざポートフォリオ制作

ポートフォリオを作り始める事には、総合職などの早い段階の選考を経験し、第一希望群のOB•OG訪問を何度か経験している事がベストです。

美大受験のデッサンと同じで、何も考えずに描き始めたら負け。構図や狙いを明確にするために時間をかけていれば、自信を持って描き始められます。

よくデッサンでも「手を動かして安心するな」って言われませんでしたか。とりあえずポートフォリオを作り始めて安心してはいけません。

理想的なポートフォリオを作るためには、どの作品を残し、どの作品を捨てればいいかを考える必要があり、OB•OG訪問は、それを見極める材料となります。OB•OG訪問で作品の手応えを確かめましょう。作品の反応を確かめて、悪いものを手直しするより、良い作品を強化し、柱になる作品を育てて下さい。

バランスが良い、何でもこなせる人と、何もできない人は似ています。とにかく、これだけは負けない!という強みを見極めましょう。


美大生こそ、面接の練習が必要

面接は、いつも通りが出せればOKです。いつも以上の魅力は、絶対に出せませんから。ただ準備不足や緊張で、ほとんどの人がいつも通りに出来ません。

美大生は面接をほとんど予習しません。面接じゃない、作品だって思っている人が多過ぎる。そのくせ「○○の面接で一芸やって受かった人が居る」など、的外れな都市伝説は好きな様です。

一冊くらいは面接マニュアル的な本を、立ち読みで良いので読んで下さい。(おすすめの本は「面接の達人」です。)

また、面接の服装を悩む人がいますが、悩んだらリクルートスーツで行って下さい。悩む時間がもったいないので、無難で良いと思います。

最後に、緊張しないコツですが「面接官」という職種は居ないと理解する事です。面接官は、内定後は先輩になり、上司になります。先輩となら、いつも普通に話しているでしょうし、上司も教授と話すのと大差ありません。当たり前の事ですが、これを改めて理解すると、大分いつも通りに近づきます。


最後に

具体的に就活が進んでくると、他にも疑問が湧いてくると思います。ツイッター(@nora_ito)などでいつでも質問してください。

それでは、人生で一度の新卒採用。楽しんで下さい!

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