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子が巣立つ時-元インター職員のつぶやき⑫


春が近づくと12年生(高校3年生)の家族から、' empty nest' とか'undivided attention'という言葉がよく聞かれる。

Empty nest は「子どもたちが進学等で家を出たあと,親だけになった生活」という意味。'Undivided attention'は通常「仕事等に専心する」という意味で使われるけど、「上の子供たちが巣立ってしまい、親元に残っている末っ子に親の関心がいってしまう。末っ子にあれこれ口出しすることが多くなる。」という意味でも使われる。ユーモアを交えながら言う時もあれば、淋しそうに言ったり愚痴っぽく言う時もある。すぐ上の兄弟が大学進学する末っ子の生徒に、'Are you ready for undivided attention by your parents ?’ (今まで以上に親御さんから口出しされちゃうけど、心の準備は出来てるの?)と冗談半分で言うと、「そうなんだよね」とため息交じりで返事がきたり、「もうわかっているから、言わないで!」の返事のあとに、愚痴が始まったりと反応を見ていて面白かった。

インターに通う子は、英語圏の大学に進学することが多い。そして大学進学時に、親元を離れて寮生活を送ることが一般的だ。子供の高校卒業時に企業や大使館駐在員である保護者の日本での任期が残っている場合は、我が子の安否を今まで以上に心配するとよく聞く。その理由のひとつとして、日本という治安が良い国に慣れてしまっていると、本国では色んなトラブルや犯罪に巻き込まれるのが多いことを忘れがち、と聞いた時にすごく納得した。

駐在員の保護者からしたら、若い女の子が夜遅くにひとりで歩いていても安全で、小学生が登下校時に一人で歩いているのが普通という、これだけ治安が良い国というのは考えられないからだ。そういう話を聞いていた時、わたしはまだ独身だったし息子もいなかったから、なんとなく彼らの不安は伝わった。けれども親となった今、日本で生まれ育った息子を海外で育てる、もしくは留学させるとなったら、治安の違いが大きな懸念材料となる。悲しいけれど事実としてアジア人へのヘイトクライムもあるから、日本にいる時以上に心身共に自分を守ることが必要になってくる。

子が巣立つ時、親の心配はつきない。子は巣立ってから衣食住を与えてくれた親の存在に感謝し、親は子供の安否や健康・栄養状態が気にかかって仕方ない。肌の色が違っても、文化が違っても、言葉が違っても、共通の気持ちだと思う。小さい時から子供を一人の個人として育て、親離れ子離れにはドライかなと思うネイティブスピーカーや外国人の保護者もそう。Empty nestという子離れの時は確実にやってくる。人種や言語、文化が違う親同士が人生の共通点を分かち合うことは、ある種インターの特権かもしれない。




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