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大人に話を聞いてもらいたい高校生

採用面接で「なぜこのポジションで働きたいか?」と当時の学長から質問された時に、「思春期真っ只中の学生たちは、父兄でもなく教員でもない、第三者に話を聞いてもらいたい時があると思います。ボランティアで英語圏の10代の子たちと関わってきた経験もあるので、学生たちともコミュニケーションを取ることに不安はないし、英語も生かせるので応募しました。」と答えた。翌日採用の連絡をもらったことを、今でもよく覚えている。

高校時代のわたしは「親でもなく、教員でもない、大人に話を聞いてもらいたい時」が、たくさんあった。残念ながら、当時の私にはそういう存在がいなかったので、鬱々とした気持ちを抱えていたことが多かった。自己承認欲が強い10代だったと思う。自分のそういう経験から、インターナショナルスクールで働いていた時は、毎朝のように同じ電車に乗り合わせる学生たちと他愛ない話をしていたことが多かった。

インターナショナルスクールで働いていた時、教員でもなく部活の顧問でもなく、そして全校の教職員で年齢が若かったわたしを、当時の在学生たちは慕ってくれていた。

オフィスによく顔を出す学生と話をしていると、ちょっとした言動で「友達とうまくいっていないのかな」「家庭で何かあったのかな」というサインを感じるようになった。毎日のように、彼らとコミュニケーションを取っていると、大学を選択する時期に疲れているのがよくわかった。

「なんか疲れているみたいだけど、大丈夫?」と声をかけると、大抵「あー、ちょっと話を聞いてくださいよー」という声が返ってくる。アメリカ、カナダといった英語圏の大学入試には、小論文が必須なのだ。入学の志望動機、自己分析、高校でどんなことを頑張ってきたか、入学出来たらどんなことに挑戦したいか等を書かなくてはいけない。5校志望している大学があれば、5校分提出しないとダメ。各大学の特色やプログラムをきちんと調べて、小論文に「貴学に入学出来ましたら、〇〇のプログラムで△△の勉強に励みたいです。その理由として〜」と書かないと熱意が伝わらない。学生の話を聞いていると、彼らの大変さが伝わる。

12年生(日本でいう高3)が始まれば、本格的に志望校を絞らないといけない。今後の人生がかかっているから、当然みんな、一生懸命に取り組んでいた。学生たちに「ご両親はあなたの進路に関して、どう思っているの?」という聞き、その答え方で彼らの親子関係が垣間見えた。

進路に関わらず普段から親とコミュニケーションがうまく取れている学生は、穏やかに答えてくれる。反抗期ということもあり、あまり親とのコミュニケーションがうまくいっていない学生は「イラっとした」表情になる。そして「なんでそんなこと聞くの?」という言葉が彼らの口から出てくる。

「あなたの大学の学費を払うのは、親でしょ」ひるむことなくそう答えると、ハッとした顔になり「True, that is true」と納得し、少しずつ彼らの状況を話してくれる。大抵が「自分が行きたい大学を、学費を含めた点で親との意見が合わない」というものだった。「普段からコミュニケーションがうまくいっていない」学生からは「誰かに話を聞いてほしい、わかってほしい」という気持ちが、何となく感じられた。

一度自分の状況をわたしに話してくれた学生は、その後もわたしのオフィスに立ち寄って「今こういう状況なんだけど、どう思います?」と意見を聞かれることがあった。「わたしはこう思う。でもガイダンス・カウンセラーではないから、専門的なことは言えない。きちんと担当のガイダンス・カウンセラーに話してみなさい。」と伝えると「オッケー。話を聞いてくれてありがとう。」と何となくスッキリした顔で、わたしのオフィスを後にしていた。

「小学生から意見を言うことを教えられてきたインターナショナルスクールの高校生だから、進路を決めることに迷いはないでしょ」なんて思ったことは一度もなかった。人種や国籍は関係ない。彼らも思春期真っ只中の、生身の人間だから、沢山迷うことも、話し相手が欲しい事も十分伝わってきた。「後悔がないようにしなさいね」と有形無形で、当時の高校生たちにわたしは伝えていた。

ありがたいことに30代となった彼らと、まだSNSを通して繋がっている。みなの状況はさまざまだけど、一生懸命に考え決断した高校時代の進路結果を自分なりに受けとめているように思える。



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