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人生の冒険RPG、共に旅する勇者は誰

人生は冒険の旅というが、俺の冒険RPGには頼れる勇者が3人いた。今は……

3人は40年前、大学のサークルで知り合った同い歳のフジ、ヤマ、タカだ。そこは漫画やアニメ、SF小説が好きな学生が集う場だった。俺は、ガンダムをピークにイデオンやマクロスといったアニメブームだったので、ただ乗っかって入ってしまった。また当時は広告ブームの頃で、糸井重里さんを筆頭にコピーライター、映像クリエイターが人気職業だった。将来を決める時期を共に過ごしたせいか、4人とも広告もしくは周辺の仕事に進んだ。製造業の多いA県では珍しいと思う。東京に出なくては漫画やアニメ業界の就職先はなかったせいだろう。

俺、えーたは商学部。(酒:今もたまに呑む、タバコ:当時吸っていた、麻雀:当時はよくした)アニメへの興味のなさに気付き、3年のときから平日はほとんど広告代理店でアルバイトをしていた。大学に行かず出勤。新聞社や放送局を行き来する仕事をしてから、夕方大学に行き、部室を覗いてダべっていた。出席が単位を左右すると聞いていた講義だけはバイトの休みをもらい必ず出席。要領よくぴったり4年で卒業する。
バイト先の代理店からウチへ入ればと勧められたが、中にはやめとけと言う人もいたのでその会社は受けず、2社ほど東京都内の制作会社と出版社を受けてみた。落ちた。N市内の零細代理店に新卒入社した。

ヤマは法学部。(酒:あまり呑まない、タバコ:吸わない、麻雀:しない)M県から通っていた。4人の中で大学まで一番遠かっただろう。早い時期からサークルの幽霊部員になっていた。当時は携帯電話のない頃なので、年賀状だけでつながっていた縁だった。同じ業界に内定していたと知り、驚いたほど。仲間内で関係が切れていたヤマを俺が召喚した。ヤマ、お礼に1万ptポイントをくれたまえ。
ヤマを親友、勇者と思えるようになったのは、タカと3人で某企業の採用広報メディアの仕事をすることになる数年先の話になる。

タカは唯一理系。(酒:呑む、タバコ:当時吸っていた、麻雀:よく打った)G県から通っていたが、俺らと一緒に遊ぶあまり大学を中退。まだ日本語処理もままならないAppleのパソコンMacintoshPlusをいち早く買い、俺にITの世界を見せてくれた。刺激を受け、俺もMacを買った。30万pt払ったが、攻撃力は100倍になった。
そんなタカはN市内のゲーム会社に就職する。パチンコ台のプログラムやCG制作をする会社と聞いたので、あるCD-ROMメディアの制作を依頼した。ヤマとタカを何年ぶりかで再会させ、フジを除いた3人だがプロジェクトを組んで仕事をした。経験値1000万ptを得た。

フジは経済学部。(酒:たまに呑む、タバコ:吸わない、麻雀:よく打った)実家は県内H市だが電車の便が悪く、大学近くで下宿を始めた。ところが地元の仲間と遊ぶことが多く、下宿にいない日が多かった。下宿に戻っても俺らと麻雀だ。タバコは全く吸わなかったが、そんなことは単位に関係ない。留年して俺の1年後に交通広告代理店の営業職になる。
またもブームの話だがDCブランドも流行った。仲間内でお洒落に一番敏感だったフジの影響を受け、俺は服に散財するようになった。装備代200万ptを払った。払ったが、装備を活かしきれず、全く女性を攻略できなかった。
時期同じくして、俺は代理店の営業職を辞め、制作会社に転職した。世はまさにバブル。イベント隆盛だったので、これだ! と思って会社を代わった。フジの会社に近い職場となって、週末呑むことも増えた。互いに仕事のやりがいを語り、クダをまいた。どのブランドのセールがあるから行こうとか、野球好き、クイズ好きなところもウマが合って、Nドームへ行ったり、クイズ番組にいっしょに出たりもした。経験値1億ptを得た。財力5000万ptを払ったが。

◇ ◇ ◇

生まれた所も学部も違う4人。それぞれの事情で一度離れたものの、広告やメディアという縁で俺が必要とした勇者だ。仕事の話もするがもともとは遊び仲間。公私ともにいろんなことを話した。恋愛の話もした。俺の結婚を祝ってもらった。俺目線の人生だが4人の冒険パーティを組めた、とても幸せな20代後半から30代初頭だった。

そんなとき俺に本社異動の内示が出た。3人に相談した。フジは大賛成、タカはお前が行きたいなら行けばいいと応援しつつも中立。ヤマは東京へ行くのも応援するが、N市に残りたいなら知り合いの会社を紹介すると言ってくれた。
俺の冒険パーティが崩れることをまだリアルに感じてはいなかった。東京で次のステージが始まれば、新たな勇者が出てくるはずだ。逆に勇者がもっと増えると期待を抱き東京へ引っ越した。事実、東京でも頼れる同僚や制作スタッフ、語り合える仲間に恵まれた。しかしフジ、ヤマ、タカと比べ勇者感が足りなかった。

戻れない本社行きだったが、訳あって5年ぶりにA県に戻ることにした。
フジとタカはとは折に触れ、また会うようになったが、ヤマとは縁がなくなった。大阪に行ってしまい、仕事を一緒にすることもなくなったからだ。
タカはゲーム会社を辞め、G市で飲食店を独立開業したので、よく会うのはフジだけになった。

そのフジに突然の病が襲った。毎年会社で人間ドックを受けているにも関わらず、あろうことか肺がんだという。タバコを全く吸わない、フジが!

フジと会うのは病室になってしまった。よく覚えているのは雪が積もった次の日だ。5階の病室からまだ雪が舞うN市の街がよく見えた。ベッドの脇に立ち、遠くの高架を走っていく小さな新幹線を目で追いながら、「そういやお前とどっか行ったのはスキーのバスくらいだよな。退院できたらスキーもいいけど、電車で旅行しようぜ」と言った。
「おう。行こう行こう」

その数週間後、フジは亡くなった。

◇ ◇ ◇

いま、俺の人生の旅を共にする勇者は年に一、二度酌み交わすタカだけになった。ヤマはN市に戻っているようだが、いったん距離が離れたこと、プロジェクトを組むような関係性ではなくなってしまったことで、どうしても呼び寄せたい友ではなくなった。
フジはこの世にもういない。召喚したくてもできない、永遠に会えない距離の人となってしまった。

広告、IT、ファッション……今の俺が俺である3大要素。3人から大いに影響を受け、好きなこと打ち込めることが見つかった。東京の5年間とA県に戻ってから知り合った人たちは、仕事以外の要素で関係性がなかったから、勇者感がないように思う。

数年前から、誰に影響されるわけでもなくお城に興味を持ち始めた。城情報サイトのオフ会に参加してできた城友しろともが何人かいる。中でもノボルは、一方的に親友だと思っている。彼には自分をさらけ出し、城以外の話もした。ずいぶん年下なのだが、なぜだか話しやすい。城の話をするだけならもっと詳しい人もいるが、ノボルが真っ先に浮かぶ。城を共に攻める勇者だ。よし、どの城を攻めようか。

《2023.4.10天狼院書店ライティング・ゼミ8本目》

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