【第1回カロク・リーディング・クラブ】@東京会場 を振り返って
2022年11月19日、第1回カロク・リーディング・クラブを開催しました。ご参加くださった皆さま、ありがとうございました!
この記事では、東京会場(アーツ千代田3331)の様子をレポートします。
集まって記録を見る・語る
カロク・リーディング・クラブとは、過去の災禍の記録やそれに関わる表現(映画、絵画、戯曲、手記、小説など)をさまざまな人と一緒に集まって鑑賞し、それぞれが考えたこと・感じたことを話してみる対話の場です。
災禍の記録を1人で受けとめるのは、結構しんどい時もあると思います。いわゆる「当たってしまう」こともあるし、「私が触れていいのかな?」と躊躇したり、「どう扱ったらいいかわからない」というふうに、なかなかアクセスできなかったり。
ならば、みんなで記録を囲む場をつくり、一緒に話すことで、いろんな視点で記録を受けとめられるのではないか、というのがこの企画です。
今回は、東京と岡山の2会場をオンラインでつなぎ、対話の成果を交換します。東京はアーツ千代田3331、岡山はラウンジ・カド。各会場それぞれ9人ほどの参加者が集まりました。
NOOKメンバーも、東京は中村大地・八木まどか、岡山は小森はるか・瀬尾夏美が分担して運営。
東京は全員が初対面のメンバーでしたが、岡山はちょこちょこ知り合いが集まっている模様。さて、東京と岡山で、どのような対話が繰り広げられるのか。
今回扱ったのは、小森はるか+瀬尾夏美の映像『波のした、土のうえ』(陸前高田、2014)。岩手県陸前高田市は、3.11の津波による死者・行方不明者が当時の人口の約7%にのぼります。2014年は、津波で流されたまちの上に、高さ10mもの土を盛って新しいまちを作る「かさ上げ工事」が始まった頃。思い出の場所がことごとく失われた後で、人々はかつて住んでいた場所へ通ったり、花をたむけたりと、それぞれの方法で死者を弔って過ごしていました。そこへ、大きなベルトコンベアがやって来て、山から運んできた土を盛り、かすかに残っていた震災前のまちの風景すら、信じられないスピードで変えていく。
『波のした、土のうえ』は、小森さんと瀬尾さんが陸前高田に住む3人の方に話を聞き、聞いた話を瀬尾さんがテキストとして書き起こし、語った人の声で読み直してもらう、という制作過程を経ています(3部構成のうち第3部は瀬尾さんの声による収録)。映像は、話を聞いた3人の思い出の場所を辿っていきます。
この日は、第1部「置き忘れた声を聞きに行く」を鑑賞しました。
*「置き忘れた声を聞きに行く」テキストはこちら
声に出して読むことで、記録が近づく
まずは「波のした、土のうえ」の映像を鑑賞。
その後、2つのグループに分かれてテキストを輪読しました。
輪読の後は休憩を挟みましたが、自然とグループごとにおしゃべりが始りました。「映像で観た時と声に出して読んだ時で、記録の印象が違った」「親しい人を亡くしたことを思い出してしまった」などなど。
自分の言葉で語ってみる
次に、「てつがくカフェ」という形式で対話を行いました。
「てつがくカフェ」とは「哲学対話」などと呼ばれる対話の手法で、普段当たり前だと思い込んでいる物事に対し、“そもそもこれってどういうことだろう?“と立ち止まって考え、対等な関係にある他者との対話を通して、自分たちの言葉で語り直していきます。
さまざまな進行方法があるものの、NOOKメンバーが陸前高田や仙台で実践してきた「思ったことを自由に話す」→「キーワードを探す」→「問いの形にする」という流れで話しました。
まず、思ったことを自由に話す中で、以下のような話題がありました。
記録を自分の身体に通す
・声に出して読むと、映像で触れた時と違う風景が目に浮かぶ。
・テキストで読むと、津波の後の風景よりも、津波が来る前の、昔の風景のほうが自分に近づいてくる。
自分の経験に近づけてしまう?
・自分には肉親を失うなどの、近しい経験がないので”わかる”と言うのはおこがましい。だけど、読むことで当事者的な意識が得られてしまう気がする。
・自分の職場の同僚が、今は立ち入れない福島の墓地の様子をGoogle Earthで見せてくれたことを思い出した。
・震災当日に職場の同僚を助けようとした経験、3.11より数日前のニュージーランド地震、阪神淡路大震災、祖母を亡くしたこと、(記録の中で「娘」の話がよく出たので)自分の娘にどう伝えるかということ…いろんなことを断片的に考えた。
物語にするとよい?
・子どもたちと今夏の電力ひっ迫について話す中で、大人が「3.11後の計画停電みたいだね」と言ったら「何それ?」と質問された。震災を体験していない世代に伝える時、詩や表現に置き換えることは重要。
・関東大震災を経験した親戚の手記を読んだことがある。
・戦争を体験した祖母から「終戦の日は晴れていた」など話を聞くことで戦争を身近に感じられた。
※ちなみに3.11では仙台は雪だったね、と私と中村くんも思い出す。
色んな話題が出てきたところで、この場のみんなが気になっている「キーワード」を探していきます。
キーワード
・当事者感覚
・テキストと自分との隔たり
・世代的な体験の差から生まれる隔たり
・今後どう生きる?どう育てる?
・解像度
・隔たりを埋める(あるいは、隔たりに気付く)ツールとしての物語?
・被災の程度の違いではない
・グラデーション
これらのキーワードをヒントに、問いの形にしてみます。ここにいる私たち自身へ、どんな問いかけをしたら、より深く記録に向き合えるのか。抽象度が少しずつ上がります。みんなで唸りながら、問いの言葉を考えます。
問いの形にしてみよう
・”隔たり”と、単純に(立場や属性を)分けることは出来ないのではないか。
・被災者とは何か?誰か?
・当事者感覚とは何か?
・「わたしとあなた」の個人レベルから、どのように「わたしたち」の問題にし、次の世代に引き継ぐのか?
・物語という劇薬をどう扱うか?どう向き合うか?
てつがくカフェでは、みんなで作った「問い」をお土産代わりにして、問いへの答えを自分自身で考え続けるようにします。うまく言葉にできないモヤモヤを抱えつつ、しかし前半で語られた内容と比べて、後半では意外な問いの形も生まれたところで、対話は一旦終了。
岡山と再会!
ここで再び岡山会場とZoomでつなぎ、それぞれの会場で語られた内容をシェア。
「物語」「表現」などの話題は岡山から出なかったように、同じ記録に触れているにもかかわらず、関心が違うところがありました。
「”当事者感覚”という難しい言葉を使ってはるなあ~」「東京会場の人が、この記録を”物語”だと受け取っているのは、方言と標準語どちらを話すかというのと影響があるのかな?」など岡山から質問がありました。
それに対し「自分は東京生まれ東京育ちなので、身近な人であってもどんな生活をしているか知らないし、人の話は基本的に”物語”ととらえる感覚がある」など応答。
最後に「次はリアルで会いましょう!」とお互い手を振って終了。4時間超の長丁場、お疲れさまでした!
補足と感想
「物語という劇薬をどう扱うか?どう向き合うか?」という問いが生まれた背景を少し補足します。キーワードを出すところまでは「災禍のことを自分が受けとめたり、体験していない世代に伝えるためには、表現や物語が重要」という意見がいくつか聞かれました。
しかし、問いを作る途中で「物語は受け取りやすいがために、わかったつもりにさせてしまう劇薬ではないか」という投げかけがあって、「物語と現実の隔たり」「物語を受け取る側のリテラシー」など視点が広がっていきました。
私は『波のした、土のうえ』を久しぶりに鑑賞しましたが、ベルトコンベアがものすごい音を立てながら動く様子は、”震災後”というよりむしろ”震災の真っ只中”のように見えました。「あの書類に判子を押すって言うのは、こういうことだったんだ」という語り手の言葉も、歯がゆさを増して響きます。比べてよいかわからないけれど、東京のまちも、コロナ禍を経てお店が次々と閉店し、あっという間に取り壊され、気が付くと新しいマンションが建てられていく。私が住む家も、誰かの思い出をコンクリートで埋め立てた場所かもしれない。今回の『波のした、土のうえ』は、現在を確かめる存在として前よりもヒリヒリと自分に迫ってきました。
では以前は、現実の記録としてヒリヒリ受け取れていなかったのか?その受け取り方は正しくなかったのか?わからないけれど、心の奥にこの記録が引っかかり、誰かと話したいと思い続けたのは確か。
受けとる自分側も常に揺れ動くからこそ、災禍の記録や表現との向き合い方は、しなやかで柔軟でありたいと感じました。
カロク・リーディング・クラブは来年も、扱う記録やつながる土地を変えながら続けていきます!次回の開催が決まり次第、NOOKのTwitter、Facebookなどで告知していきますので、ぜひご参加いただけると嬉しいです!
余談
休憩中に「自分が普段何をやってる人間か、名乗るのを求められないのがいいですね」と仰った方がいました。確かに、学校や会社など、これからも関係性が続く者同士ではなく、自己開示しなくて済む一時的なコミュニティだからこそ、話せる内容もある気がします。
そういえば私も、会社で震災の話はほとんどしないなあと思いました。仕事で議題に上がらない限り聞かれないし。「みんな忙しいのに、わざわざ聞きたくないよね」とか「被災者ではないのに自分から話題にすべきじゃない」とか思い込んでいるかもしれない。でも自分の心の、結構重要な部分でずっとモヤモヤしている。東京だと、どこで災禍を語れるのだろう。みんなどこで話しているのだろう?
レポート:八木まどか
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