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湯ぐすり

箱根に日帰り温泉に行ってきた。行くのはだいたい、疲れているとき。電車に乗って揺られて、仕事や今日の夕飯のことは忘れて、ただ湯に浸かりたい。いわば6時間の逃避行を求むとき。

小田原駅で乗り換える。JRの改札で、いつものでっかい小田原ちょうちんが出迎えてくれる。今日はちょいと旅へ来たのかい、ようこそようこそ、て感じで、県内移動なのに違う国へ来た感覚にニヤッとする。箱根登山線に乗り換えて湯本へ。車内は、ここはヨーロッパの登山鉄道か!と思うほど外国人観光客でいっぱいだった。今は世界のみんなのHAKONEなのね。

たんたんと湯に浸かりながら思う。娘であっても妻であっても、わたしはひとり。四十代の背中の傷、三十代の胸の手術痕、八歳の左腕の火傷あと。細胞に傷がついても私の身体はひとり、その都度蘇ってきた。
誰かが言っていた時間薬という言葉に重ね、湯ぐすり、というのもあるかもしれない。


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