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創作大賞2024 ホワイトトラッシュ #1

▪️あらすじ
後悔はしていない。

真っ当に生きたら出会うことのない眩しい景色を見ることが出来た。

同時に多くの何の罪もない人間から奪った。中には絶望から自ら死を選んでしまった者もいる。許されない事であることは理解している。

俺だって感謝されたかった。人の役に立つ仕事をして社会に貢献し、両親の喜ぶ顔が見たかった。

だがどうしても出来なかった。生来か、生い立ちか表世界に俺の席は無かった。

俺は徒党を組んで脇の甘い資産家に片っ端から電話をかけ、指定した銀行口座に現金を振り込ませて大金を稼いだ。

これをお仕事と呼ぶのはお叱りを受けるかもしれないが今回備忘録として筆を執ることにした。

▪️出演者
白石悟 :20歳。MARCH文系。医学部受験失敗。
ミチ  :20歳。キャバ嬢。
高瀬誠一:26歳。特殊詐欺首謀者。半グレ。
土橋徹 :39歳。配達員。ミチの痛客。

▪️鼠
天井裏の鼠は階下の人間が去った後姿を現す。人間たちが仕掛けた毒餌や粘着トラップで多くの同胞を殺害されて尚、生きる為必死に餌場をあさり、慎重に徘徊し腹を満たす。

鼠は害獣として忌み嫌われるが俺は彼らに敬意を払う。明日の糧も無い厳しい環境の中で、誰の庇護も受けず、自分の脚で立ち生活を成立させている。

誰に愛情を注がれることもないが死ぬまで精一杯生きているんだよな、そんなことを真っ暗な監獄で考えた。

▪️不合格
期待した数字は今年も見当たらなかった。四畳半の自室、スマホから目を離した。満身創痍の中全身全霊のチャレンジだったから、悔しいというよりも自分の実力の無さに呆れた。

どうしようもない人間だな、と思った。

コンビニで買った缶チューハイを飲みながら、あてもなく歩いた。ネガティブなイメージを消し去るために飲み続けていたら、気分が悪くなり嘔吐した。 

陽も沈み、吐く息も白くなってきたが自宅にはどうしても足が向かない。

これ以上出来ないくらい努力したことは胸を張れると思いを巡らした。一年間一度も休まずに早朝鈍行の電車に乗って電車内で参考書を広げ問題を解き、予備校が開く9時に自習室に入り夜9時まで勉強に打ち込んだ。

予備校で友人は出来なかったから、一人ぼっちで自分を追い込んだ。

誰とも会話出来ない孤独と将来の不安も重なって暗澹とした気持ちになり、電車内で突然涙が溢れたこともあった。

自分は暗い海で溺れこんなにももがき苦しんでいるのに、何故気づかぬふりをするのかと涙を拭いてくれない周囲の人間を自分勝手に恨んだりした。

目標とする医学部合格は高校の進学実績と比較しても妥当であり自分なら突破できると信じていたが大きな間違いだった。

模試の結果が振るわずとも膨大な時間を投下して受験対策に打ち込むことで奇跡は起こる、自分で起こすと強く信じたが結果は出なかった。

今年は滑り止めとして薬学部歯学部を受験したがこちらも不合格。結局、唯一合格出来た私大経済学部に入学手続きし、東京で一人暮らしをスタートした。

全部が辛かった。道端に散った桜は美しかった。

▪️キャンパスライフ
「杯を!乾かす!と書いて乾杯と読みます!乾杯!」

茶髪の長髪の陽気な男が音頭を取って飲み会は始まった。

「え、白石君2浪なの?タメじゃん!」

目の前の男は同い年の自分から見ても幼稚に見えたが、後輩として振舞わなければならないのが苦しかった。

「そ、そうなんですよ。浪人中勉強に身が入らなくてだらだら過ごしていたら時間たってました。」

「俺もほとんど勉強しなかったから、ここしか受からなかったんだわ。まあ今日は飲もう。」

「そうですね…」

同級生も先輩も年下で神経を使った。医学部に合格していたらと想像して惨めな気持ちになった。 

自分から発する亡霊みたいな暗いオーラのせいか次第に会話も弾まなくなってトイレに行くふりをして店を出た。何人かに見られていたが誰からも声はかけられなかった。

2限終了後のカフェテリアでは履修登録が済みお目当てのサークルに入った大半の1年生達が笑顔で語り合い幸福な時間を過ごしていた。

居場所を未だに見つけられない俺はそそくさと昼食を注文して壁を目の前にしたテーブルに着席し、イヤホンのボリュームを上げてなるべく周囲の会話が聞こえないようにした。

栄養補給を済ませると図書館に入り机に突っ伏して仮眠を取った。眠りから覚めると建物の外へ移動し、人気が少ないベンチに腰掛け煙草に火をつけた。有害な物質を吸い込んで自分を傷つけている感覚に浸った。

余りにもすることがないので缶チューハイを片手に大学を後にしあてもなく歩いた。

故郷とは違って東京は所狭しとビルが立ち並びどこも賑やかで退屈しなかった。

3杯目のチューハイが空になった時いつの間にか辿り着いた歓楽街は人で溢れどこも繁盛していた。

酔いが回った俺の視線は道行く美しい女に集中し、彼女達と縁がない自分の人生に落胆した。

徘徊を続けると店舗に沿って立っている黒服の男たちに目が留まり、彼らが日々女性と関わる生活をなんとなく想像した。

#創作大賞2024 #お仕事小説部門


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