創作大賞2024 ホワイトトラッシュ #4
▪️初仕事
今日も公園でひたすら待った。二日前にディスカウントストアで購入したスーツも皺が目立ち出している。
手元の煙草も気づけば空になり、日も沈みだした頃。
「ティロリ…ティロリ…ティロリ…」
突然に着信音が公園に鳴り響いた。音量が最大になっていて慌ててストップした。
「今から住所言うんですぐに向かってもらえますか。●●区●●です。」
鼓動が高まる。
「はい。分かりました。」
検索したら公園から歩いていける距離だった。
「あと電話絶対切らないで、通話状態にしたまま鞄に入れといてください。着いたら教えてください。」
ためらいはあったが、もうなるようになれだと自分に言い聞かせる。
「着きました。今から入ります。」
「お願いします。指示出すので従ってもらえれば絶対大丈夫です。タカハシという名前で訪問してください。」
インターホンの目の前に立ち、ボタンを押した。ピンポーン、と音が鳴る。
「タカハシです~。」
出てきたのは80歳位の老婆であることに土橋は安堵した。
「ご苦労さまです。これキャッシュカードです。どうぞ。」
「ありがとうございます。封筒の糊付けで押印をその場でしてもらう必要があるんで糊と印鑑を持ってきてもらえますか?あとこのカードは危険にさられているので少し急いでもらえるとありがたいです。」
「ん?そんなこと言われたかしら」
老婆の表情が少し曇った。
(何も喋らず沈黙に耐えてください。)
インカムの指示に従い土橋は口を噤んだ。
「キャッシュカードはいつ帰ってくるんですかね?」
(目安一週間後と答えてください。)
「大体一週間後にはお返しできると思います。」
「……」
(やばそうなんで、一回こいつに問題ないと今から電話します。土橋さんはいつでも逃げられるように準備しといてください。)
じりりりり!
固定電話の音がした。
「ちょっと電話取ってもいいですかね。失礼します。」
老婆は奥の部屋に消えていった。
ー5分後ー
戻ってきた彼女は深刻そうな表情でお詫びした。
「タカハシさん信用していないような態度を悪かったです。お詫びいたしますわ。あ、忘れてました。糊と印鑑をすぐに持ってきますのでお待ちくださいね。」
よぼよぼと奥に消えていく老婆を見送りながら土橋は渡されたカードをポケットにいれ、ポイントカードを封筒に入れた。
「お待たせしてしまってすいません。」
「いえいえ、それでは糊付けして押印をお願いします。」
「はいはい、いますぐに。」
老婆は息があがり額に汗をかいている。
「ありがとうございました。それでは後日連絡しますので大事に保管をお願いします。」
「本当に助かりました。財産を守ってくださりありがとうございます。」
「とんでもないです。それでは失礼します。」
玄関の扉を閉め、門を出ると小走りで駅へ向かった。無事完了し土橋は不思議な高揚感に包まれていた。次回の返済もできそうだ。
「今家出ました!上手くいきました!」
「やりましたね!ただまだ終わってないです。今度は近場のATMへ直行してください。帽子とマスクを必ず付けて50万円づつ三回引き出してください。」
年季の入った商業施設の中のATMへ向かい計150万円を引き出した。怖いほど順調に事が進み、土橋は楽しめる余裕すらあった。
「引き出しお疲れ様です。ラストスパートですね。X駅まで行ってトイレの個室に入ったら場所教えてください。あと15万は報酬なので抜いといてください。」
「了解です。」
巨大なターミナル駅のトイレで鍵を閉めた。
「つきあたり向かって右側、奥から2番目の個室にいます」
「了解です。あと五分くらい待ってください。」
トントントン、
隣の個室からノックされ、目をやるとパーティションと天井の隙間から黒い手袋をした手が伸びている。
「渡してください。危険なんでこちらから指示があるまで中にいてください。」
電話口の指示に従い現金を渡し、待った。
「はい。完了です。今日はありがとうございました!また明日12時に同じ要領で150万円引き出しをお願いします。カードが止められてなければまたき出金額10%が報酬です。明日も頑張りましょうね!」
土橋は妙な連帯感と達成感に自分でも驚いていた。ほんの数時間で大金を得られたこと、失敗無くやれたことが不思議に誇らしかった。
▪️大型新人
「お前すげえな!大型新人だ!」
高瀬は目を真ん丸にして白石を褒めちぎった。
お前犯罪の天才だな!と何度も肩を叩かれ賞賛された。
「ありがとうございます」
白石は素直に嬉しかった。失敗続きの人生で初めて他人から認められた瞬間で、もっと期待に答えたいと思ったし、自分ならやれると確信した。
俺は犯罪者だが別に人殺しをした訳じゃない。騙される方も悪い。俺は成功するために努力した。努力した人間がそうでない人間から奪うのは当然じゃないか。
#創作大賞2024 #お仕事小説部門
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?