見出し画像

創作大賞2024 ホワイトトラッシュ #7


▪️同窓会
「今年もやります同窓会!場所は●●!●●!で予約してます!」

会場は大衆酒屋だった。最近こういった場所から足が遠のいていたせいか逆に新鮮に感じた。

階段を下りると見慣れた顔が勢ぞろいしていた。一部髪を染めていた者もいるが大半は高校時代から全く変わっておらず懐かしくおかしい気持ちになった。

「え!?白石!?超レアキャラ登場やん!」

場がどっと盛り上がった。

「お前死んだ説流れたけど生存確認出来て嬉しいわ!」

不安な気持ちがあったが、暖かく迎えられて和んだ。
「いや、生きてるわ」

「今何してるの?つか大学行ってんの?」

「あんま行ってないな。結構いそがしくてな。」

「大学生ではあるんだな。サークルとか?」

「バイトしかしてない。進級出来るかも微妙だわ」

「、、てかお前この時計いくらすんの?」

200万円くらいかなと答えると、瀬下は目を丸くした。

「やばすぎる笑 もらったの?」

バイトで稼いだ金で買ったんだと答えると、

「バイト?どんだけバイトしてんだよ笑ホスト?笑」

「ホストじゃねえよ。勉強は出来なかったけど、俺金稼ぐ天才なんだよね。」

また追々ね、とあしらって全員の支払いを済ませ、その場を後にした。大学受験に失敗し内心自分を見下している者たちに一矢報いた気がして来て良かったと思った。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

▪️実行
歌舞伎町のドン・キホーテで包丁を買った。奴の家まではここから徒歩で15分程度だろうか。歩きながら何と伝えようか考えた。

もういくら使ったか正確に覚えていないがひとまず今抱えている借金は自分がまともに働いて返せる金額じゃない。全てあいつが悪い。

考えれば今までずっと女に裏切られてきた。どう考えても自分は待遇以上の対価を払い過ぎている。

あいつと出会って瞬く間に金はなくなった。愛車を売った金と預金で工面した1,000万円をあいつに渡したら何か変わると思ったがものすごく違った。

ありがとうという言葉一言でその後すぐに席からいなくなって他の客と談笑していた光景が思い出す。結局未だに手も繋いでもらっていない。

何でそんな事が許されるのか。土橋はこの社会が間違っていると思った。真面目に働いてお金を払って何故手に入らないのか不思議に思う。

到着した西新宿のタワーマンションは美しく手入れされた植栽に囲まれており、その中のベンチに腰を下ろした。

日が沈むころには奴が出勤の為にエントランスから姿を現すことは調査済みだ。

「おい!金返せよ!」

「は?キモ。だからお前から金借りてねえって」

「貸しただろ!1,000万円今すぐ返せ!」

「あの金はあたしにくれたんだよな?LINEの文章記録してるからな。失せろよクソストーカー。叫ぶぞ。」

「俺は!ストーカーじゃ!ない!」

「きやああああああ!誰か!助けてえええええええええええええ!」

「黙れ!ストーカー!じゃ!ない!」

「金!返せよ!」

「痛い!痛ああああああああああい!!!!ああああああああああ!」

「返せって!」

「……」

「ストーカー!じゃ!ねえから!」

「…………」

女は着衣を真っ赤に染めてぐったり地面に倒れていた。呼吸は停止しているように見える。助からなくていいよ。

かけつけた警官2名に俺は現行犯逮捕された。

▪️終わり
「西新宿で女性刺され重体。その場にいた男を逮捕。」

特に珍しくも無いニュースだが嫌な予感がしたので電話をかけてみた。

「はい。あ、私新宿警察署のものです。」 

「警察?何で?」

「実はこの携帯の持ち主の方が刺されて病院に運ばれています」

「え?何で??誰に?」

「これから事情を捜査しますが現場にいた中年男性から事情を聞いています。」

「え?病院てどこの病院?そいつ誰?」

「今調べております。失礼ですが女性とのご関係はどのような?」

「友人」

「お名前を伺っても宜しいでしょうか。折り返しの番号はこちらで宜しいでしょうか。」

「白石です。番号はこれで大丈夫です。」

「ではまた改めてご連絡いたします。失礼いたします。」

集中治療室から出てきた医師は力及ばず申し訳ございませんでした、と告げ去っていた。

ミチは綺麗だった。発作みたいに涙が流れて止まらなくなった。

涙が枯れた帰り道、報道で犯人が消費者金融、振込詐欺等あらゆる手段で調達した金をミチに貢いだこと、その後店を出入り禁止になったことで強い恨みを持ち犯行に及んだことを知った。

白石はこの時土橋が自分が指示した受け子であることは知らなかった。土橋は取調べで殺人の他受け子を行ったことについても洗いざらい白状していた。

良く晴れた日。前日飲み過ぎたせいかよく眠れずぼうっとした状態でベランダのチェアに腰掛け煙草をふかしていた。

インターホンが鳴り画面に配達員を確認すると開錠して到着を待った。再びインターホンが鳴った。

「白石悟だな。詐欺罪で逮捕する。」

制服を着た警官は無表情で手錠を掛けた。あまりにも突然の出来事で動揺する暇も無かった。

▪️回想
身体検査が完了し留置場の畳の上に白石は腰を下ろした。罪悪感は正直感じなかった。

監獄の中で考えたのは、どうすれば捕まらなかったか、で被害者の感情をイメージするのは少々面倒だと感じた。

▪️15年後
墓地でミチに祈った。

返却された携帯電話に残された情報を頼りにあの家の電話番号を調べ、コールした。

「…はい?」

「あ、突然すみません。私日本年金機構の黒石と申しますが、お電話口は土橋義男様で宜しかったでしょうか。」

THE END

#創作大賞2024 #お仕事小説部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?