「魔法のキャンディ」の効力は何十年先も続くのだ
先日、年長の息子の幼稚園でマジックショーがあった。
マジシャンの方がきて、色々なイリュージョンを見せてくれたそうだ。
そして最後にはイリュージョンで出した「魔法のキャンディ」をくれたそうなのだ。
事前に幼稚園からキャンディを持ち帰る旨のアナウンスもありそのことは知っていた。
その日、息子は、幼稚園で先生にさようならをするやいなや、幼稚園バックをあさりだした。
「ママぁみてぇーー!!魔法のキャンディだよぉーーーー」
キラキラした瞳で私を見つめながら、伸ばした小さな手の平には、オレンジの絵が書いてある小さい袋飴が乗っていた。
魔法のキャンディとは、至って普通の袋飴だった。
私は「魔法のキャンディ」というからには、
鮮やかな色のパッケージの、絵本の世界で見かけるような、両端をきゅっと縛ってあるキャンディを想像していた。(ミルキーみたいな形状のものだ→ 🍬)
ちがった。
普通の飴だ。
わかりやすくいうと、飲食店のレジの横の「ご自由にお取りください」と書いてあるカゴでよくみかける飴だ。
息子にとっては魔法のキャンディ、私にとってはフルーツキャンディアソート業務用の飴だった。
それでも息子にとっては魔法のキャンディなのだ。
夢を壊すようなことを言いはしない。
そんな息子は、自宅までの道中も愛おしそうにその至って普通の飴を眺めていた。
「ママぁこのキャンディね、目を閉じて食べると大きくなれるんだって〜」
息子は、魔法のキャンディに夢中だ。キャンディへの想いが溢れている。
そして、息子は、家に着くやいなや、ソファに腰掛け、魔法のキャンディと向き合う。(手は洗いました)
いよいよ、魔法のキャンディを食べる時がきたのだ。
そして、慎重に魔法のキャンディの包装をピリッと破る。
顔を出した丸いオレンジのキャンディをそーっと摘むと、それはそれは大事そうに口の中に入れた。
目を閉じて、その丸いキャンディを口の中で転がしつつ、うっとりしながら味わっている。
キャンディを舐めるだけで、こんなに幸せそうなんて、
なんだか羨ましくなるほどだ。
しかし、そんな幸せそうな表情も束の間。
閉じていた目をぱちっと開く息子。
そして叫んだ。
「大きくなっちゃう!!!!」
「目を閉じてなめたら大きくなっちゃう魔法なんだよ!!僕大きくなっちゃうよ!!」
いいじゃないか。
大きく大きく成長したら。
「僕、こんなに沢山目を閉じてたら、すごく大きくなって、街を壊しちゃう!!!!」
キュンと心の中で音がなるのがわかった。
「大丈夫だよ!たーくさん大きくなっていいんだよー息子は大きくなっても街を壊すことなんてしないでしょ?」
「違うよ。脚がムキムキっておおきくなって知らないうちに街を壊しちゃうんだよ」
ゴジラ的なことを心配しているのだろうか。
あの目を閉じてうっとりしながらなめている間に、きっと自分が大きくなる姿を想像していたのだろう。
至って普通の飴なのに、魔法のキャンディと信じているだけに止まらず、こんなにも真剣に自分が大きくなった影響まで想像して心配している息子が愛おしくて可愛い。
「僕目を開けて食べる。」
そういうと、息子はまぁるい目を大きく開け、
そして、キャンディを噛み始めた。
魔法のキャンディがゴリゴリと音を立てている。
「ふぅ。食べ終わった。」
もう大きくならないよね?大丈夫だよね?と確認するかのように、私にからっぽの口の中を見せてくれた。
ゴジラみたいに大きな口を開けた息子。
街を壊しはしないゴジラがここにもういるではないか。
私は、あまりに愛おしくそのまま息子を抱きしめた。
その瞬間に思った。
たしかに、これは、魔法のキャンディだと。
たった一つのキャンディが、こんなにも私を楽しませてくれたのだから。
そして、今後飲食店のレジの横の「ご自由にお取りください」の飴を見るたびに、私は今日のことを思い出すだろうから。
それは、息子が本当に大きく大きく成長したあとも、きっと思い出すだろうから。
この魔法のキャンディの効力は、何十年先も続くのだ。
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