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不登校娘が「出席」した日


2学期から不登校だった小3娘が、
朝登校班で皆と一緒に登校した。

「いってらっしゃい」

ランドセル姿の娘の背中を見送る。

「いってきまーす」


自分に気合を入れるようにふぅと小さく息を吐いて出発した娘。

娘の顔に涙はない。
不思議と、不安な様子もない。(ように見える)


こうして娘の背中を玄関で見送るのは何ヶ月ぶりなんだろ??

まだ暑い2学期の初日。
同じこの場所で、泣いて泣いて、汗と涙でぐしゃぐしゃだったあの時と今の娘の顔は別人だ。


不思議と私にも不安はなく、
ただただ「いってらっしゃい」という気持ちで、
なんだか昨日まで車で送っていったんだっけ?と思えるほど普通の朝だった。


それでも、娘がいつでも戻ってこれるように、
しばらく玄関の扉の鍵はかけずにいた。


その扉は開くことはなく、約束通り給食が終わる頃にお迎えにいった。

娘は、
一番廊下側の後ろの角の席に座って、給食を食べていた。

廊下から、小さく娘の名前を呼ぶ。

娘は、給食を食べながら私に顔を向け言った。

「最後まで授業受けてみんなと帰るね。」

この日は、娘が早退でも遅刻でもない。

6ヶ月以上ぶりの「出席」の日になった。


なんだろ。

嬉しいは嬉しいけど。

なんというか。

娘が普通で。

給食食べれるようになったのが数日前、その時はすごく嬉しくて興奮したのだけど。

今回の娘は、
すごく頑張っているでもなく、不安そうにしているでもなく。

とにかく普通。

帰っていいよーと言われてからも、
担任の先生と廊下で話をしつつ、
給食を食べている様子を覗き見していると、
私のことなど見向きもせず、給食のゼリーをニコニコしながら食べていた。


そのまま自宅に戻り娘の帰宅までひとりの時間となった。

私の1学期までの日常だ。

「ただいまー」

娘が帰ってきた。

「おかえりー」

ランドセルを下ろして、手を洗い、そして冷凍庫からアイスを取り出す娘。

ソファに腰をかけ、アイスを頬張る。

「はぁつかれたー!漢字テストは沢山間違ってたけど、なんとか合格だった」
「あとね、アルファベットは全然わからなくて、私だけできなくてね、でも先生が教えてくれた。先生やさーしく教えてくれてたんだけど、それでも怖かった」

興奮した様子もなく。
淡々と、今日あったことを教えてくれる。
つらかったとも楽しかったとも言わない。

普通だ。
今日は何ヶ月ぶりかの「出席」の特別な日なはずなのに。

とにかく娘が普通。

「頑張ったんだね」
「わからないって言えたことがすごーい」

私も、頭でこう言った方がいいだろうという変換がなく、気遣うことなく話せた。

「あ、そうそう!給食のゼリーは3個食べちゃった」

「えぇーーあははははは〜」

私は、大笑いした。

なんで3個も食べれたかを笑いながら説明する娘の姿もまたおもしろくて。

手を挙げて、欲しいですって言ったそうなのだが、
それを二回?!想像すると、可愛くて。

泣いて泣いて給食食べれなかったのに、
最近やっと食べれるようになった給食だったのに、

手を上げてゼリーをおかわりしてることが、嬉しくて、でもなんだか数ヶ月前とのギャップがすごくてズッコケそうにもなる感じで。

笑いがとまらなくなった。

朝から帰りまで登校をやり遂げ「出席」した娘を、
私はもっと自分が感動して興奮して、
”すごいすごい”と褒めると思っていた。

だけど、違って。

娘は普通だけど、すごくすごく頑張ってるのも、怖い思いしてるのもわかってる。

頑張ってきたんだよね。
これまで頑張ってきたんだよね。
それは不登校になるずっと前から、
ずっとずっと頑張ってきたんだよね。

「そのままで良い。」「あなたはもうそのままで充分なんだよ。」「あなたはここにいるだけで価値があるんだよ」って気持ちが溢れ出て。

褒めるとは違う気がして。

大笑いしたあと「うん、そうかそうか。」って
ハグしてハグして、ハグして。

ハグすると、娘は照れくさそうに笑ってた。

もういいよーという感じで娘が私にたずねる。

「ママは?今日お仕事何してたの?お昼は何食べたの?」

ずっと一緒にいたからね。
昨日まではママの日常は、あなたの日常でもあったけど。
今日からは、私とあなたのそれぞれの日常なんだね。

あぁこの子は自分の殻を破って、
私の巣の中からも飛び立つんだな。

いや、飛び立ったんだなと思った。

巣立ちを見守った私が、次にしてやれることは何なんだろう。

次に私が親としてやれること。

それは、

娘がいつでも帰ってこれる場所であるってことなのかもしれない。


いつでも帰っておいで。

大丈夫だよ。

あなたの帰る場所はあるから。

安心して外の世界に飛び込んでおいで。

君がいつでも安心して帰ってこれるように、
扉の鍵はかけないでおくからね。

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