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野蹴同エレ【超短編小説】

「野球って長いよ。何時間やってんの」
「サッカーは点が入らなすぎて退屈。ちんたらしてるし」
「ちんたらなんかしてない。めっちゃ走るし、激しいスポーツだ。野球選手は太ってるやつ多すぎ。格好悪い」
「サッカー選手は細すぎる。恰幅あった方がいいに決まってる」

 犬猿の仲の二人。都内の同じタワーマンションに住むサッカーファンの中村と野球ファンの鈴木はエレベーターの乗り合わせるたびに口論になっていた。
 
「世界ではサッカーの方が圧倒的に人気」
「海外なんて関係ない。日本での集客力は比較にならないほどプロ野球が上だ」

 お互い譲らない。降りるフロアは同じ階。エレベーターの扉が開くと競うように飛び出し、それぞれ自宅へ帰っていった。

 サッカーファンの中村は自室に戻ると、タブレットでスポーツサブスクアプリを開き、ヤクルトスワローズの試合を視聴し始めた。鈴木と口論する内に野球の魅力に気づき今ではヤクルトのナイター中継を見るのがもはや習慣になっていた。初めは野球の欠点を探すのためだったが、中継を見ているうち自然とファンになってた。期待している若手選手がヒットを打つと我がことのように嬉しかった。鈴木との口論をやめたい気持ちがあるが自分から折れることができずにいた。

 その頃、野球ファンの鈴木もソファに座りサポーツサブスクアプリを起動した。そして、ビリヤードの国際大会の見逃し配信を視聴し始めた。

 

 


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