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『タイタス・アンドロニカス』を読んだ

 『タイタス・アンドロニカス』を読む。シェイクスピアは学生時代に少しだけ触れた。本当に少しだけ。シェイクスピア作品のなかでもっとも残酷な悲劇とも言われるタイタス・アンドロニカス。ちくま文庫から刊行されてい文庫版裏表紙にも「血で血を洗う復讐の凄惨な応酬」とVシネマ作品の謳い文句のようだ。内容もまるで任侠作品のような謀略と暴力が渦巻いていて、読んでいる最中も脳内で映画『アウトレイジ』のあの陰鬱な音楽が流れていた。

溜め息で心臓を傷つけ、うめき声で殺してやれ、でなければナイフでも口にくわえ、心臓めがけて胸に穴を開けてやれ、そうすればお前の哀れな目からこぼれる涙は一滴残らずその穴に流れ込み、吸い込まれ、そこにいる馬鹿な泣き虫を塩辛い海で溺れさせるだろう。

タイタス・アンドロニカス 松岡和子訳

聞け、悪党ども、俺は貴様らの骨を挽いて粉にし、貴様らの血でこねあげて生地を作る、その生地でパイの皮をこしらえ、貴様らの恥知らずな生首を中味にして二つのパイを焼き上げ、あの淫乱女に、貴様らのうすぎたないおふくろに食わせてやる

タイタス・アンドロニカス 松岡和子訳

 復讐に燃え狂うタイタスの言葉は驚くほど飲み込みやすい。獣じみた暴力的な言葉の数々には壮麗さえ感じる。

 僕は普段から何者かや何かに対して憤り、憎悪しているのだが、彼の怒りは全編を通して見ても美しい。惨めさや卑屈さは皆無で、目的に対して一直線に走る。頑張っている人間は格好いい、それが道徳に反していても。
 これを書いている途中で『ガン×ソード』と『巌窟王』を思い出した。いずれも復讐がテーマになっている作品なのだけど僕は復讐劇が大好きなのだな……。

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