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お礼は一杯の珈琲と。

「おしごと」や「はたらく」
についての勉強を始めてから、
嬉しいことがありました。

いろいろな人にその話を
していたところ、突然友人から、

「転職をすることにしたから、
 応募書類を見てくれない?」

というメールが届いたのです。

添付ファイルにはWord文書が
添えられてあり、自己PRが丁寧に
綴られていました。

友人は新卒で就職してから15年、
専門職としてのキャリアを積んできた
人です。

履歴書と職務経歴書は書けたけれど、
自己PRについては自信がない、
変えた方がいいと思うところを教えて、
というメッセージがありました。

わたし自身が高校を中退していて、
高校や大学で就活について学ぶ機会が
ありませんでした。

社会に出るのもゆっくりだったので、
応募書類の書き方や面接対策などの
知識をひとつひとつ手探りで身に
つけた経験から、いつか同じように、

「さあ、がんばろう!」

と勇気を出して一歩を踏み出そうとする
人の応援が出来たらと考えていました。

自分のためにはもちろん、いつか
そのときが来たら誰かの役に立つかも
しれないと、応募書類について書かれた
本を何冊も読み、ノートにまとめ、
過去に応募した書類は採用・不採用を
問わずコピーを取ってあります。
(30社を超える。きっとまだ増える。
 ちっとも自慢にならない)

それがまさか、こんな形で叶うとは。

わたしは、他の誰でもない自分を選んで
頼ってくれたことを光栄に思い、
緊張で胸いっぱいになりながら、
その文書に目を通しました。

専門職としてのキャリアを重ねてきた
友人の文章には、専門用語が並んでいて、
素人のわたしには分からないことが
たくさんありました。

でも、分かることがありました。

友人がその仕事に誇りを持っていて、
これまでにどんな思いで働いてきたか、
そしてその力を最大限活かせるように
今、ステップアップを考えていること。

その文章に込められたこの熱意が
もっと採用担当者に伝わるには
どうしたら良いか。

知り合いの採用担当さんは、以前、
こんなことを教えてくれました。

「字がきれいとか汚いとか、
 文章がうまいとか下手とか
 そんなんはどうでもええねん。

 ただ、一生懸命書くこと。

 一生懸命書いたかどうか、
 それだけは相手に必ず伝わる」

友人の文章からも確かにその
一生懸命な気持ちが伝わってきます。

むかしハロワで親しくなった窓口の
おっちゃんはこんなことを
言ってくれました。

「ええか、アホでも分かる文章を書け。

 長い文章は飽きる。疲れるねん。
 ええことが書いてあっても、
 採用担当者には最後まで
 読んでもらえん。

 誰が読んでもひとめで分かるように、
 シンプルで、伝わる言葉を書け」

そして、こう付け加えました。

「応募書類はおまえから企業への
 ラブレターやぞ。

 愛を込めて書け!」

その言葉を思い出せたとき、
わたしが出来ることはひとつでした。

友人がいちばん伝えたいことを
文章の中からすくいあげ、
その言葉がより際立つように
文章の構成を考えます。

「甘くて美味しいし簡単に作れるから
 ホットケーキが大好き!」よりも、

「ホットケーキが大好き!甘くて
 美味しくて簡単に作れるから」

の方が、ホットケーキが好きな
気持ちがまっすぐ読み手に
飛び込んできます。

志望動機や自己PRでよく言われる、
「結論から書け。そこで引き付ける」
という書き方です。

友人が思いを込めて書き上げた
「ラブレター」に「わたしの言葉」
を付け加えることは出来ません。

同じことが何度も書かれていないか、
省略できる言葉はないか、段落や
句読点でもっと読みやすく出来ないか。

そうこうしていると、友人の文書が
すこし表情を変えていきました。

おしゃれは引き算と言います。
応募書類にも言えるかもしれません。

シンプルになった分、もとの素材
(友人の思い)が持つ魅力が
際立ったような気がしました。

何度も見返し、おそるおそる
メールの送信ボタンを押すと、
しばらくして返信がありました。

「うん。この方がずっと読みやすい。
 ほとんど同じ文章なのに、
 ぜんぜん違う文章みたい。

 ありがとう。頼んでみて良かった!」

わたしはホッとして、そして
自分の夢の最初の一歩を叶えて
もらったことを改めて有り難く感じました。

数週間後、友人から連絡がありました。

書類審査を経て、面接に挑み、
採用が決まったのです。

そして、お茶に誘われました。

「お礼に今度、珈琲をおごらせてね」

わたしは大好きな珈琲の前に、
とても大きなプレゼントを
もらったことを伝えに、
待ち合わせ場所に向かいました。

わたしの、最近の「初仕事」
の思い出です。
 






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