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「新しい公」の理想と、Googleやツイッターやネットフリックスという現実。

 まちづくりなんかに関わっているとしばしば聞かれる文句で、「公共サービスは行政の独占物ではない」というのがある。こういう文句があるということは、翻ってかつては行政の独占物であったという認識がまずあって、それに対するアンチテーゼとして掲げているということだ。

 で、「公共サービスを独占しない」ってことは「公共サービスは行政だけでなく、色んな人と分担して提供しましょうね」っていうことで。この考え方は「新しい公」と呼ばれたりする。

 つまり公共サービスの供給体制について大きな転換があった、いわゆる「パラダイムシフトがあった。日本においては、内閣府がその「新しい公」のアップデートの沿革を時系列でまとめていたりする。

出だしは鳩山内閣みたいなんだね。

第174回国会における鳩山内閣総理大臣施政方針演説>(抜粋)(平成22年1月29日)
二 目指すべき日本のあり方
(「新しい公共」によって支えられる日本)
人の幸福や地域の豊かさは、企業による社会的な貢献や政治の力だけで実現できるものではありません。
今、市民やNPOが、教育や子育て、街づくり、介護や福祉など身近な課題を解決するために活躍しています。昨年の所信表明演説でご紹介したチョーク工場の事例が多くの方々の共感を呼んだように、人を支えること、人の役に立つことは、それ自体が歓びとなり、生きがいともなります。こうした人々の力を、私たちは「新しい公共」と呼び、この力を支援することによって、自立と共生を基本とする人間らしい社会を築き、地域の絆を再生するとともに、肥大化した「官」をスリムにすることにつなげていきたいと考えます。

 ここでは、公共への貢献、つまり人を支えること、人に役に立つことはそもそも歓びである、と意味づけて、だからこそ公共サービスの提供車となる機会を独占しないんだ、という趣旨になっている。

 一方で、この時は、当時の民主党の公約であった肥大化した国家行政のスリム化が前面に掲げられている。しかしこれでは、あたかも「本来行政がすべきところまで民間にパージして小さな政府にしますよ」と言っているように聞こえかねない。そのためか、続く菅直人政権ではこう記される。

第174回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説>(抜粋)(平成22年6月11日)
鳩山前総理が、最も力を入れられた「新しい公共」の取組も、こうした活動の可能性を支援するものです。公共的な活動を行う機能は、従来の行政機関、公務員だけが担う訳ではありません。地域の住民が、教育や子育て、まちづくり、防犯・防災、医療・福祉、消費者保護などに共助の精神で参加する活動を応援します。
<新成長戦略>(抜粋)(平成22年6月18日閣議決定)
官だけでなく、市民、NPO、企業などが積極的に公共的な財・サービスの提供主体となり、教育や子育て、まちづくり、介護や福祉などの身近な分野において、共助の精神で活動する「新しい公共」を支援する。

 公共サービスをパージしてスリムにするんだ、というニュアンスは薄れ、公共サービスの提供者を増やすというニュアンスに変えられているのがわかる。

 さて、公共サービスっていうのを、経済学的に説明すると、公共財の提供活動であると言い換えられる。公共財っていうのは、非排除性もしくは非競合性のいずれか一方を備える財であると説明される。

 非排除性があるということは、フリーライダーが発生する。そのため市場に任せると供給が過少になる。これが、「新しくない公」において公共サービスの行政独占が起きていた技術的な理由である。

 言い換えれば、非排除性のコントロールさえできれば、公共サービスの供給はアルシュの公共財に置いては難しいことではない。例えばキンドルアンリミテッドやネットフリックスのようなサブスクサービスで提供される本や映像といったコンテンツは、非競合性を帯びるために、いくらでもコピーが出回ってしまえうる。そのため、旧来的な市場では供給が困難であったはずだ。

 ところが、情報端末や決済サービスの普及によって、提供者がユーザーに対して「課金」するのに掛かるコストが激減した。その結果、技術的に公共財を民間企業でも供給できるようになってきたわけだ。

 キンドルアンリミテッドとかネットフリックスとかは、コンテンツをいくら消費してもタダだ。要するにフリーライドなんだけど、フリーライダーが増えれば増えるほど、儲かる仕組みになっている。そういう仕組を作る技術が発達してきたわけである。

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