「官僚制のユートピア」を読んだ感想。

 デヴィッド・クレーバーさんが亡くなったことにちなみ、『官僚制のユートピア』を読んだ。

 本書の主な訴えは、大雑把に言えば、自由主義をどんなに徹底しても、官僚制はなくならない、いやそれどころか、自由主義を徹底しようとすればするほど、官僚機構は肥大化していくだろう、っていうもので。その根拠は、人の暴力がなくなるわけではないからだ。人は自由になればなにがしかの暴力を発揮してしまう。そしてその暴力の被害に合うことを人が望まない限り、人の自由を取り締まる仕組みは絶対なくならないだろう、というわけである。

 本書によれば、近代的な官僚制の原型は、戦争中の郵便サービスにあったという。近代郵便は、もともと軍隊内の情報流通システムとして始まったものである。それを、軍隊に関係ない、一般の国民にもそのシステムへの参加を強いていくことで私達がよく知る郵便サービスは拡大していった。実は保険や医療などの公的サービスも、多くが近代の軍隊に少なからず由来がある。今こうして私達が便利に使っているインターネットだってそうだ。

 言うまでもなく、軍隊というのは官僚制組織の最たるものである。その軍隊の内部の仕組みを国民のふるまいにも当てはめていくという意味では、実はここで行われたのは、「官僚制の一般化」というよりは「国民の官僚化」であろう。それを「一億総官僚」というような言い方を本書ではしていた。

ここから先は

3,446字
まちづくり絡みの記事をまとめたマガジン「読むまちづくり」。 月額課金ではなく、買い切りです。なので、一度購入すると、過去アップされたものも、これからアップされる未来のものも、全部読めるのでお得です。

まちづくり絡みの話をまとめています。随時更新。

サポートされると小躍りするくらい嬉しいです。