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晴れの日も雨の日も

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そのとき感じたことを感じたままに綴るエッセイ集。晴れの日のように澄みきった気分のときも、雨の日のように翳りに覆われるときも、その気持ちを、透明な言葉で伝えたい。
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#ノスタルジー

ハレの日の美術館

よく晴れた5月のある日、私たちは美術館で結婚式を挙げた。 結婚式といっても、参加者は私と…

如月桃子
1年前
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雨上がりの夜に教えてもらった、優雅な朝

挽き立ての豆で淹れたコーヒーと、焼き立てのパン、じっくり煮込んだスープに、サニーサイドア…

如月桃子
2年前
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だれかの過去が、わたしの記憶として香るとき

ときどき、春の匂い、とか、夏の香り、というよりも、もっと濃密な空気を感じることがある。 …

如月桃子
2年前
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潮音

一度だけ、祖父の操縦する船に乗ったことがある。 祖父は、漁師だった。 操縦すると言っても…

如月桃子
2年前
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気づけば、「あのころ」ができていた

あのころ、ぼくらは。 というような語り出しの歌詞や物語を、どこか白々しく思っていた。 ま…

如月桃子
3年前
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青色に魅せられた日々

高校生の頃、憧れの先輩がいた。 その人は、一つ学年が上の、美術部の先輩だった。 彼女は、…

如月桃子
3年前
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えんぴつを走らせる音がきれいだった

私は、一度だけ面と向かい合って、似顔絵を描いてもらったことがある。 学芸員として働き始めたころ、個展をしていた画家ご本人が来場されて、そのときに描いてもらった。 ある昼下がり、会場へふらっとその方はいらっしゃった。 その方からは、優しさと頼もしさがにじみ出ていた。 長年、高校の美術教師を務めていたそうだ。 私は、出会ってすぐに、その方を「先生」と呼びたくなった。 政治家や偉い人を「先生」と呼ぶようにではなく、親しい恩師に話しかけるような気持ちで。 先生は、画材道具を持ち