えんぴつを走らせる音がきれいだった
私は、一度だけ面と向かい合って、似顔絵を描いてもらったことがある。
学芸員として働き始めたころ、個展をしていた画家ご本人が来場されて、そのときに描いてもらった。
ある昼下がり、会場へふらっとその方はいらっしゃった。
その方からは、優しさと頼もしさがにじみ出ていた。
長年、高校の美術教師を務めていたそうだ。
私は、出会ってすぐに、その方を「先生」と呼びたくなった。
政治家や偉い人を「先生」と呼ぶようにではなく、親しい恩師に話しかけるような気持ちで。
先生は、画材道具を持ち