シロの再飲酒 ~甘かった私の判断~
シロが断酒をしてから一年ちょっと経ち、再就職先も見つかったので、油断していた私。
シロの新しい仕事先が、シロの実家から離れたところだったため、急遽引っ越しすることにもなった。でも、このシロの再就職の話も、シロが私と話し合って出した結果ではなく、シロが私に黙って勝手に就職活動をしていて、合格の通知が来て色んな段取りが進んだ後の事後報告だった。
その時点で私も「少しおかしい」と疑えばよかったのかもしれないが、シロがやる気に満ちた表情で人生の再出発の話をしているのを見ると、応援せざるを得なくなってしまった。
ただ、引っ越しが急だったため、シロが先に引っ越し先に行って仕事を始めている間、私はシロの実家にあるものの片付けなどをしなければならなかったため、数か月の別居の期間ができてしまった。
あまかった・・・私の判断は完全にあまかった・・・
「もう1年も断酒をしているし、本人も絶対に飲酒をしない」と話してくれていたから、信じ切っていたが、シロの実家の片づけも済み、数か月後シロとの新しい新居に到着した私は愕然とした。
新居に着くとすぐ、台所にある大量のチューハイの缶が目に入った。薄暗く、少し湿った部屋の奥からシロの声がした。
「久しぶり。ちょっと調子が悪いみたいなんだ・・・」
シロの元へ行くと、顔色が悪かった。それだけじゃなく、目も開きききっていて異様な顔つきだった。一番衝撃だったのが、シロが自分の力で立てなくなっていた事。
これは、酔っぱらっているから立てないとかの話ではなく、下半身が完全にダメになっていたのだ。だから、トイレに行く時も、地面を這いつくばりながらトイレまで行き、時間をかけて便座に座る感じ。
私が新居に移るまでは、テレビ電話でほとんど毎日会話をしていたのだが、ちょっと様子がおかしいと思ったものの、テレビ電話ではずーと座って会話をしていたので、シロが歩けなくなっているなんて思いもせず、シロの衝撃的な姿を見たとき、本当に言葉がなかった。
新居に到着したのは、真夜中だったし、本人もとりあえず寝たいと言っていたので、次の朝にどうするか判断しようと思い、その日はとりあえず私も寝る事にした。
次の朝目が覚めると、やっぱりシロは死にそうになっていた。
お酒が原因なのはわかっていたけど、足に力が入らず歩けなくなるなんてことは初めてだったから、とりあえず病院に行くことにした。
私が来る前、シロが救急車に運ばれて病院に行っていたことが分かったので、同じ病院に連れていくことにした。
とりあえず歩けなくなっていたので、車に乗せるのさえ一苦労だった。
病院についてから看護師さんに声をかけると、テキパキと車椅子を持ってきてくれた。
最初の手続きをしてからどれくらい待ったかわからないけど、とりあえず診察が始まった。前回シロがこの病院に来た時、シロはお酒の事を話していなかったため、病院の先生も何が原因で体調が悪くなっていたのかわからなかったと話してくれたため、今回はすぐにシロがお酒の依存症だということを伝えた。すると先生は、「それなら・・・」と、病気の目途が付いた様子で、その後色んな検査が始まった。
これまでにないぐらい色んな検査があり、その結果先生から「シロさんはウェルニッケ脳症という脳の病気にかかっています」と言われた。
シロの場合は、お酒を飲むとすぐに吐いてしまっていたため、食事もろくに取れなくなっていたようで、それと重なって栄養失調の状態だったんだろうということだった。
それから、先生曰く、普通の食事と生活をしていればビタミンBというのはそんなにすぐになくなるわけではないらしく、シロの場合は長年の飲酒のせいで少しずつビタミンBがなくなっていき、シロの体の中にあるビタミンBの入れ物は空っぽになっていたらしい。
また、アルコールを摂取した場合、それを分解するために、ビタミンB1が必要になるからということだった。
引っ越し前にも、食事だけでは必要なビタミンが摂取しきれていないと言うことは承知だったから、ビタミン剤も飲ませようとしていたけど、ある時から本人に任せていたけれど、結局飲んでいなかった事が発覚し、これはもう自己管理の範疇を超えているなと感じた。
この件は奥が深いため、別の時に書きたいと思う・・・
まぁ、とにかくシロの体はもう色んな意味でヤバかった。
脳がやられていたため、会話もままならず、痴呆症に近い感じだった。
そのため、病院の先生からは緊急入院を勧められた。
一人でまたシロを連れて帰ってとか色々考えるともう私も限界だったため、病院から言われるがままに入院の手続きを進めた。
色んな書類があって、大量の文字を読み続けていると、自分の頭がどんどんおかしくなっているのではないかと感じた。
それから、ふとその日1日何も食べていなかった事に気づいた。
シロの実家は遠くなったのだが、運よく私の実家が近かったため、シロの入院が決まってから連絡していた両親が病院に到着した。
両親にはシロのアルコール依存症の話をしていたため、シロの入院には驚いていたものの、私の置かれている状況を理解してくれ、何も言わずに入院の準備の手伝いをしてくれた。
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