今週の一冊『夜明けのすべて』
”夜明けの直前が一番暗いんだよ”
自分が暗闇の渦中にいると、そこはいったいどの地点なのか、果たして終わりがあるのか、わからなくなる。いっぱいいっぱいの心持ちで目の前しか見えなくなっている時に、思いもよらなかった斜め上からの視点を教えてくれる人の存在がどんなに心強いか。あなたもそんな経験がないだろうか。
瀬尾まいこさん作『夜明けのすべて』は本屋大賞受賞後初の書下ろし作品である。20代の男女がそれぞれパニック障害とPMS(月経前症候群)を抱えながら、恋でもなく愛でもなく、平たい名前はつかない感情で”相手のためなら自分に何かできるんじゃないか”と奮闘する物語である。
下手をするとしんどくなりすぎてしまう題材を丁寧に扱いながらも、くすっと笑えるほほえましいやり取りがたくさん散りばめられており、脱帽する。
症状の当事者も、関係者も、まったく触れてこなかった人も、そう大きな心配をすることなく手に取ってほしい。
さて、この先はただ感じたことを放出する場なだけであり、話の展開のネタバレの心配がなければ、一方で読破と同様の知見が得られるわけでもないと先に述べておく。ある意味安心してスクロールしていっていただけると嬉しい。
人生での不運や脅威は突然やってくる。
「なんで自分にだけこんなことが起きるんだ」と一瞬たりとも思ったことがない人なんて、いないんではなかろうか。
色鮮やかに十人十色の幸福があれば、その逆も然りだと思う。
災害や病気、人間関係、生死にかかわること。
人生って結構厳しいんだと気が付く。
けど、暗闇があったからこそ見えた光って絶対あると思う。
暗闇に慣れた目にはめちゃめちゃ眩しいかもしれない。そもそも暗くなかったら気づいていないかもしれない。
知らなかった感情や知らなかった自分に気が付く。
こうあるべき!!って思いが強いと、突然やってきて「あるべき姿」を壊していった不運や脅威が許せないかもしれないけれど、人生の醍醐味は不確実性のなかで予想外に自分の感覚が磨かれていくことにあるんじゃないかなあ。
そして、たぶんこの本の最大のテーマは「困っている時には、必ずどうにかしてあげたいと手を差し伸べてくれる人がいるもんだよ」というものであると思う。不確実なことばかりなのに、不思議なほど普遍的に人の救いというものが存在する世界。
色んな思いにさせてくるなあこの世界は!!と感じながらも憎めないのは私だけじゃないはず。
誰かのために頑張りたくて、そして誰かが自分のために頑張ってくれた時には明るい眩しい感情が溢れちゃうのも、私だけじゃないはず!
菜々子
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