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『鎖鎌探偵 鋼』第二十一幕「巽清伸の冶かし方〝協会ちんこ漁〟」非おむろ──島昼鼎立困書館

はじめに
 
 『鎖鎌探偵 鋼』は戦後の混乱期に書かれた作品であり、現在分かっているだけでも岩水融(いわみ とおる)、原龍海苔(はら たつのり)、もう一人の岩水融(いわみ とおる)、伏射精賭(ふす だすと)、石見矢郷郎(いわみ やさとろう)ほか六十九名の人物が、特に連携も取らずに好き勝手に綴った物語であるとされています。その為、或る幕では葉茶眞(はさ まこと)が沼正恩(ぬま まさお)の実の娘であると明かされたり、或る幕では当然のように刀口(とうこう)と矢口(しこう)という二匹のウーパールーパーが名も無きメカ警視正の相棒になっていたり、或る幕では刀口は味意半(あじごころ なかば)のペットの老イグアナであったり、或る幕では飛山平(とびやま たいら)という火星人がムエタイで亜川を追い詰めたり、また或る幕では設楽建健爬(したら けんけんぱ)が鎖鎌探偵を務めていたりと、一切整合性の無い話が乱立しています。それらもまた(文学的価値は一切無いにせよ)当時の人々の思考の一資料として、我々に何かを教えてくれるでしょう。或いは、何も教えてくれないでしょう。
 幕番号も壊滅的にてんでばらばらで、抜けと被りのお祭り騒ぎ。異説だらけの『鎖鎌探偵 鋼』。原作の多くは、トイレットペーパーに綴られたものです。今宵もまた、その中の一つをテプラに入力しました。是非一読下さい。──やっぱり、一読しなくても結構です。
 
               ベテラン飲尿ソムリエ通報団ファッカー
                   原 工(はら たくみ)



※下記は島昼鼎立困書館の職員が協力して、原工氏のテプラをWord2003に入力したものです。


『鎖鎌探偵 鋼』

        第二十一幕   「巽清伸の冶かし方〝協会ちんこ漁〟」


      クサリガマタンテイ ハガネ
                タツミキヨノブノトカシカタ キョウカイチンコリョウ


                 非おむろ──島昼鼎立困書館(しまびるていりつこんしょかん)



【登場人物一覧】
 
①亜川 鉛児(アカワ エンジ)31歳 男
普段は塩ビ管を扱う工場の製造部で、原材料の梱包材の廃棄や、完成品の梱包、荷役等をしている。この秋は虹色のツナギを着ている。黒髪のモヒカン。八幡湖(はちまんこ)へは放尿や観光に来た。
 
②惰宮 呑流比(ダミヤ ノンルヒ)51歳 男
十年前から亜川と持ちつ持たれつ。警視正だが、警視庁からも岐阜県警(またおかけんけい)からも軽んじられているおじさん。威嚇射撃がしたくてたまらない困ったおじさん。この秋も警官の制服を着ているおじさん。白髪まじりのリーゼント。

③原尿 遍偏(モトバリ ペンペン)38歳 男
自分を〝データで闘う人物〟だと思っているが、眼鏡をかけておらず、データも浅いものや間違っているものがほとんど。赤いカッターシャツに黒い半ズボン、黄色い長靴。

④木野 足袋辛(キノ タビカラ)49歳 男
おじさん。 白い長靴を履いている。
 
⑤関川 具一(セキカワ グイチ)25歳 女
黒髪が美しいポニーテールの剣術家。貧乳で、凧揚げが趣味。八幡湖には凧揚げに来た。
 
⑥櫓等 蒲男(ロラ ガマオ)27歳 男
痩せた丸眼鏡の七三分けの男。恐妻家。冷や汗をかきっぱなしのひ弱そうな男性。
 
⑦櫓等 蒲女(ロラ ガマメ)29歳 女
蒲男の妻。ヌンチャクを振り回す体重110kg超えのパワー系の女性で、趣味はチェロ。顔面はトリケラトプスに酷似。自動販売機の補充員。
 
⑧西烏 衛雲(ニシガラス エイウン)26歳 男
長髪気味の暗めの茶髪の美青年で、黒いツナギを着ている。高めの声。数独が趣味だが、それもあまり早いわけではない。数独以外は特技無し、趣味無し。
 
⑨くんしゃぎょうこ(クンシャギョウコ)?歳 ?
喋ることが出来るオランウータン。

⑩粟泡淡(リッポウタン)
歳を召したように見える執事……?
 

 
 
 

 

【前幕までのあらすじ】

※前幕においては、原作のトイレットペーパーは岩村透郎(いわむら とうろう)氏によって使用済み、写本のテプラは焼失していることを御承知おき下さい。


 天高く馬肥ゆる秋。岐阜県北西部の郡上山脈(ぐじょうさんみゃく)を奥へ奥へ奥へと岪(やまみち)を往(ゆ)くと、静謐(せいひつ)なる八幡湖(はちまんこ)へ辿り着く。公共交通機関としては、バスが水土日の朝晩に一往復ずつ。週に計六往復だ。但し、バスの運転手は山賊的風貌の躁鬱なおじさんで、かなりズレがある。例えば、予告無く時刻を変更し、火曜となったばかりの深夜に六往復をしてノルマ達成とし、仕事を済ますこともある。

 十一月三十日、木曜日。

 亜川鉛児(あかわ えんじ)は放尿や観光を目的に早朝、オート三輪で八幡湖(はちまんこ)へ到着。いつもの虹色のツナギに、黒髪のモヒカンである。快晴のはずが、到着直前辺りから、信じられぬ程の濃霧であった為、駐車に苦労した。湖畔にて水切りをしていると、霧の中から巨大な女性が現れ、
「早かったな、西烏衛雲(にしがらす えいうん)! ブルーギルの稚魚達はお待ちかねだ!」
と挨拶がてら肩を殴られる。
 霧が晴れ、誤解が解けると、巨大な女性は謝罪がてら再び亜川鉛児(あかわ えんじ)の肩を殴り、去った。
 改めて眺めるとこの八幡湖、六芒星に似た形をしており、死角が多く、また、かなりの大きさだけあって最も遠い対岸が見えぬ程だ。
 亜川鉛児(あかわ えんじ)が黒髪のモヒカンで風を受けながら湖畔を散策していると、所謂〝剣道小町〟に出逢う。(しかし、彼女は〝剣道小町〟という呼称は嫌っているので要注意だ。)
 この、黒髪ポニーテールが美しい剣術家の女性は、関川具一(せきかわ ぐいち)。足腰の鍛練に走って来たらしいが、趣味の凧揚げが主たる目的のようだ。霧が晴れた空を、冷奴を食べている様が描かれている奴さんの凧が、のびのびと躍る。そこへ、長髪気味の暗めの茶髪の美青年で、黒いツナギを着ている西烏衛雲(にしがらす えいうん)が登場。声が高めの彼は、亜川鉛児の勤務先へ樹脂パレットや木製パレットを送っている会社に勤務しているが、担当範囲が逸れている為、本日まで亜川鉛児との面識は無かったことや、数独が趣味であることなどをしとやかながらも豊かに話すと、巨大な女性の方へと向かった。去り際の彼は、憂鬱な面持ちであった。
 サイレンと銃声と共にパトカーで現れたのは警視正の惰宮呑流比(だみや のんるひ)。午前だというのに既に黒ビールを結構飲みながら運転して来たようだ。惰宮は依頼者からの竹簡や拳銃を亜川と関川に見せびらかしつつ、石に枕して高鼾(たかいびき)。
 亜川と関川は竹簡を堂々と盗み見た。

《郡上山脈(ぐじょうさんみゃく)の八幡湖(はちまんこ)で品種改良したスカイフィッシュのような「空飛ぶ陰茎」の放流を行っている団体がいる。奴らはブルーギル放流協会・げんにょ~s(ズ)、長(おさ)は原尿遍偏(もとばり ぺんぺん)。彼らは毎年、秋に放流し、春に漁をする。このままでは下流、特に下呂湾の人々の鮑(あわび)漁等に悪影響を及ぼす。現場を押さえに来てくれ。八幡湖(はちまんこ)の西岸、今年は十一月三十一日だ。》


「ふむ。みょうですな。みそかがみょうだ。じゅういちがつにさんじゅういちにちはありません。」
と、突如亜川の肩に乗って来たオランウータンが人語を発した。イントネーションは独特だが、滑舌自体は惰宮警視正より遥かに上だ。
(なお、本人が相当意識しない限り、惰宮警視正の発音がこれから改善することはなさそうだ。五十一歳だもの。)
 年齢・性別・国籍・どうやってここに来たか──全てが不明のオランウータンは〝くんしゃぎょうこ〟と名乗り、
「こちらへついてこい。おいけいしせい、おきろ!」
と三人を誘導した。惰宮警視正は途中で道端で寝たので、置いて来た。

 亜川と関川とくんしゃぎょうこはこっそりと、湖畔の襤褸納屋(ぼろなや)に近づいた。そこへ不自然な通行人の老執事が登場。鞘に納めた状態で、二振(ふたふり)の刀を帯びている。──正しく言えば、一振の刀を帯び、一振の太刀(たち)を佩(は)いている。刀を左腰に帯び、太刀を右腰に佩いているこの老執事に、襤褸納屋の中から三名が登場し、非常に警戒した面持ちで問いかける。

 赤いカッターシャツに黒い半ズボン、黄色い長靴の、眼鏡をかけていない男は、
「何ですか貴方は。刀なんかを持参して、こんな山奥へ?」
 亜川の肩を殴った例の巨大な女性は、
「観光かい? あたしたちゃちょっと忙しいんだ、ここらへんの湖畔には立ち寄るんじゃないよ。向こう岸にでも行ってくれ。」
痩せた丸眼鏡の七三分けの男は、
「何ですか、警察か何かですか!? 公僕はお呼びではありませんよ……。」
と発言。老執事は、
「イエイエ、タダノサンポデスジャ。」
と回答しその場を去ろうとする。
 その瞬間──。



キュイキュイキュイキュイ……!
(タイトルが右から左へスライドしてくる、アイキャッチ用の音)




『鎖鎌探偵 鋼』

        第二十一幕   「巽清伸の冶かし方〝協会ちんこ漁〟」


      クサリガマタンテイ ハガネ
                タツミキヨノブノトカシカタ キョウカイチンコリョウ


                 非おむろ──島昼鼎立困書館(しまびるていりつこんしょかん)




【本編】

〝ズダーン!!!!!!!!!!〟

 威嚇射撃と共に、まだ酒が抜けないのか、ふらふらした状態の惰宮呑流比(だみや のんるひ)が己(おれ)と関川とくんしゃぎょうこの背後から登場した。

惰宮「おいこら! 連続銀行強盗犯・巽清伸(たつみ きよのぶ)だな? 逮捕する、逮捕するぞ、やった、久々のお手柄だ!」

〝ズダーン!!!!!!!!!!〟

 再度の威嚇射撃と共に一同の前へ現れた酩酊状態の、いや、泥酔状態の惰宮呑流比(だみや のんるひ)。

蒲女「何だ何だ、そこに隠れている連中は!?」




 ……、──。




 銃声を聞き襤褸納屋から出て来た西烏衛雲(にしがらす えいうん)を含め、場は騒然としたが、

くんしゃぎょうこ「そでふりあうもたしょうのえん、ここであったのもなにかのえん。せっかくなのでじこしょうかいをしましょう。」
老執事「ソウデスナ。」

ということで、落ち着いて自己紹介をすることになった。その時、

???「お~い!」

と、突然湖上から、カヌーでシルクハットのおじさんが現れた。最早、一名くらいの追加は問題ではない。

関川「取り敢えず、自己紹介をしますよ!」
???「えー、おじさん、男の人は好きだけど、女の人はちょっと……。」
関川「は!?」

 関川は特別な状況で無い限りは、忍者刀宜しく背にバールを常に備えている。関川がバールを抜いて闖入おじさんに凄み、一同の自己紹介が始まった。

 己は、
「亜川鉛児(あかわ えんじ)です。普段は塩ビ管を扱う工場の製造部で、原材料の梱包材の廃棄や、完成品の梱包、荷役等をしています。八幡湖(はちまんこ)へは放尿や観光に来ました。」
と述べた。

 惰宮呑流比(だみや のんるひ)は、
「本官は惰宮 呑流比(だみや のんるひ)警視正。依頼があって八幡湖(はちまんこ)へ参った。」
と述べた。それを聞いた原尿、蒲女、西烏の表情が明らかにこわばった。蒲男は顔を何故か両手で覆った為、表情不明だ。

 赤いカッターシャツに黒い半ズボン、黄色い長靴の、眼鏡をかけていない男は、
「原尿 遍偏(もとばり ぺんぺん)。データ派だ(!?)。普段は、終末の記念で働いている。あの、ヌートリアバーガー専門店であるチェーン店だよ。いつでも(ここで〝無い眼鏡〟をクイッとする)来てくれ。尤も、清掃等が担当で、なかなか会えないかもしれないがね。」
と述べた。

 カヌーで来たおじさんは、
「ボク。木野 足袋辛(きの たびから)! 熊の霊が操れるんだよボクは! 観光に来た!」
と、シルクハットを脱いで禿頭になりかけのバーコード・ヘッドを見せびらかしながら一礼した。全体的にどうしようもないおじさんのようだ。クリーム色の温かそうなもこもこのカーディガンを着ている。一方、残念ながら、登場時から一度も、下半身に白い長靴以外の衣類を纏っていない。 

 関川は、
「私は関川具一(せきかわ ぐいち)。普段は倉庫で梱包や伝票記入をしています。霊感が強いです。八幡湖(はちまんこ)には趣味の凧揚げに来ました。」
と述べた。霊感、と関川が口にした刹那、木野は苦虫を嚙み潰したような表情で、今にも泣きそうになってしまった。大方、熊の霊が操れないのだろう。

 痩せた丸眼鏡の七三分けの男は、冷や汗をかきながら、
「ぼくは、えー、あのー、そのー、櫓等蒲男(ろら がまお)と申します。……宜しくお願いします。」
と小さな声で溢した。

 亜川の肩を殴った例の巨大な女性は、
「あたしゃ櫓等 蒲女(ろら がまめ)。ぴちぴちの二十九歳よ! このもやしの妻(と言いながら、蒲男の肩を殴る)。ったく、何でこんな奴と! 特技はヌンチャク、趣味はチェロ。以上!」
と叫んだ。顔面がトリケラトプスに酷似している。
 
 長髪気味の暗めの茶髪の美青年で、黒いツナギを着ている西烏衛雲(にしがらす えいうん)は、高めの声で、
「西烏衛雲(にしがらす えいうん)。趣味は数独です。先程、関川さんや亜川さんとはお会いしましたね。ハハハ……。」
と言った。あまり元気が無い様子だ。

 オランウータンは何故か再度己(おれ)の肩に乗り、
「くんしゃぎょうこというものだ。みとせほどまえから、このみずうみのちかくにすんでいる。」
と発言。その瞬間、西烏衛雲(にしがらす えいうん)は口を抑えながら明らかに驚いている様子だった。オランウータンが喋っているのだから、無理もなかろう。

 老執事は、
「ヤツガレハエーアイ。メカデスジャ。ナハ、リッポウタン。アワノ、アワガ、アワイ、トツヅリマスル。マア、メカトイエドモ、ウヨキョクセツノノチ、シマビルノキョクジノミタマヲヤドシテオル。サンネンマエニキンムサキノガソリンスタンドガトウサンシマシテナ。クロウシマシタワ。ホッタラカシデスモン。デハ、カワロウカ? シマビルノキョクジニ。イニシエノトウショウデスジャ、カレハ。」
と言って、左手で後頭部のボタンをポチッと押した後、
「ぎゃはははははははは! 吾(あれ)こそは刀匠・島昼曲路(しまびるのきょくじ)。妖刀・濁青(だくせい)。魔太刀・鬱黄(うつおう)。遂に完成! たっめっしっぎっり! たっめっしっぎっり! キヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
と叫んだ。但し絶叫直後、左手が(おそらくは刀匠の意思とは無関係に)後頭部のボタンをポチッと押して、微笑みながら、黙った。



 沈黙(しじま)。



 惰宮呑流比(だみや のんるひ)警視正は凝りもせず左手で黒ビールを呷り乍ら、思い出したかのようにのそのそとリロードしたのち、右手の拳銃を天に掲げつつ言った。

惰宮「でええええーい! 最早竹簡依頼のブルーギル放流協会・げんにょ~s(ズ)退治なぞどうでもいい! おい、粟泡淡(りっぽうたん)! お前、巽清伸(たつみきよのぶ)だな!? 連続銀行強盗犯だな!? 我々岐阜県警(またおかけんけい)では、巽清伸(たつみきよのぶ)はロボットだという調べがついとるんじゃボケ! ああああああああ撃ちてえよお! 撃っていいな!?」
くんしゃぎょうこ「こんなあぶないおじちゃんがけいしせいとは、よもすえだな。」
蒲女「おい西烏衛雲(にしがらす えいうん)! てめえ、ポリダラズにタレコミやがったな!? 殺す!」
西烏「誤解です! わたしは……僕は、そんなことしてません!」
蒲女「だったら何だよ、竹簡依頼って!」
惰宮「でええええーい! 今、ブルーギル放流協会・げんにょ~s(ズ)のことなんぞどうでもいいだろ!」
蒲女「よくねえ!」

 110kgの櫓等蒲女(ろら がまめ)がヌンチャクで凄む。己(おれ)は懐から例の竹簡を放ってやった。

亜川「おい、これだよ、サツへ送られた竹簡ってのは。受け取れ。」
蒲女「あ!? ……何々?」

 蒲女がヌンチャクを振り回すのをやめ、竹簡を大地へ広げた。皆がそれを覗き込む。くんしゃぎょうこは、己(おれ)の肩から漸(ようや)く降りた。



《郡上山脈(ぐじょうさんみゃく)の八幡湖(はちまんこ)で品種改良したスカイフィッシュのような「空飛ぶ陰茎」の放流を行っている団体がいる。奴らはブルーギル放流協会・げんにょ~s(ズ)、長(おさ)は原尿遍偏(もとばり ぺんぺん)。彼らは毎年、秋に放流し、春に漁をする。このままでは下流、特に下呂湾の人々の鮑(あわび)漁等に悪影響を及ぼす。現場を押さえに来てくれ。八幡湖(はちまんこ)の西岸、今年は十一月三十一日だ。》



蒲女「おい、西烏衛雲(にしがらす えいうん)だろ!」
西烏「わたしじゃ……僕じゃないですって!」
原尿「これ、櫓等蒲男(ろら がまお)の字だね?」
蒲男「ちくしょう、ばれたーっ!」

 櫓等蒲男(ろら がまお)が妖刀・濁青(だくせい)を盗もうとするも、
「ナニヲスル。」
と老執事メカ・粟泡淡(りっぽうたん)が冷静にモンゴリアンチョップ。櫓等蒲男(ろら がまお)はよろめいて転倒。その時、

惰宮「でええええーい! お前ら話が長い! 撃ちたいんだよ俺は! 酒も切れちまったしよ!」

と喚いて惰宮呑流比(だみや のんるひ)警視正が黒ビールの瓶を老執事メカ・粟泡淡(りっぽうたん)の高等部へ──否、そのようなカリキュラムは無い──老執事メカ・粟泡淡(りっぽうたん)の後頭部へ投擲。
 ボタンが押され、島昼曲路(しまびるのきょくじ)となってしまった老執事メカは、古の刀匠特有の俊敏さで櫓等蒲男(ろら がまお)を支え、立たせて、妖刀・濁青(だくせい)を手渡した。

島昼「存分に斬れい! 皆殺しじゃ!」
関川「げ!」

 関川具一(せきかわ ぐいち)はバールを咄嗟に構える。皆、櫓等蒲男(ろら がまお)with妖刀・濁青(だくせい)から、間合いを取る。


蒲女「ぼけ亭主! 何考えてんだ!」

 ヌンチャクを振り回し乍ら、櫓等蒲女(ろら がまめ)が絶叫。

蒲男「五月蠅い、五月蠅い! 何が〝マホラ〟だ!」
原尿「は? 我々の崇高な思想を邪魔するとは、いくら蒲女さんの夫とて、赦さんぞ。」

 原尿遍偏(もとばり ぺんぺん)は、奇妙な臨戦態勢を取った。掌を前に突き出している。ビームが出るわけでもなかろうに。

木野「ちょっとちょっと、警視正さん。黒ビールではないですが、濁醪(どぶろく)なら良いのがありますよ。名酒・あがぺえ擬(まがい)。ほらここに。」
惰宮「お! お前、話せる奴だなあ! ズボンもパンツも穿いてないようだけど、俺、赦しちゃう! 遠慮無くこれ、貰うよ!」

 惰宮呑流比(だみや のんるひ)警視正が、おそらくは即効性のある睡眠薬入りの濁醪(どぶろく)を飲んで熟睡した瞬間、半裸のおじさん・木野足袋辛(きの たびから)は、老執事メカ・粟泡淡(りっぽうたん)──もとい、島昼曲路(しまびるのきょくじ)に駆け寄った。

木野「ボクは、この中で一番、殺意がある! 元々、カヌーに機関銃を積んでいたのに、湖に落としちゃって困っていたんだ! どうかその魔太刀・鬱黄(うつおう)をお貸し下さい! 男は犯し、女は殺すつもりマンマンなんです。」
島昼「元々は機関銃に頼ろうとしていたのか? ちょっとな~。」
木野「そこを何とか!」

 

 木野足袋辛(きの たびから)は、土下座をした。





 


「ちんこ漁なんですよ、これは!!!!!!!!!!」

   
  




「うむ。」
島昼は、魔太刀・鬱黄(うつおう)を授けた。

木野「よ~し! 先ずは関川、死ねよな~!」
関川「くっ、来い!」

バールを構える関川。木野の剣術的実力は定かでは無いが、魔太刀・鬱黄(うつおう)は抜けば玉散る冫(こおり)の刃、正に白昼の三日月、妖しく女を追い詰める。未だ両者共構えたままではあるが、木野が関川へ躙(にじ)り寄り、関川は一歩、また一歩と退(ひ)いている。此儘(このまま)では関川は斬られるだろう。木野は、女には容赦無さそうだ。

木野「何で屎女(くそあま)は〝女である〟という一点だけで、永遠に被害者ヅラが出来るんだろうね? 死ね。有り得んでしょ。散々女として優遇されておいて、ちょっとでも不都合な事が発生すると、女であるという武器を今度は〝女だから受けた被害〟に転換する。平気で。恩知らず。本当に死ね。女は醜い。非常に。だいたい、筋肉が弱い雑魚に美しさは無いでしょう。」
関川「あ、あんたのおなかこそ、贅肉でたっぽたぽでしょうが……!」
木野「決めた。四肢を斬り、止血して、生殖器をズタズタに切り裂いた後、湖上にて、カヌーの上に放置するよお前は。勿論最終的にはどう足掻いても死ぬわけだ。」
西烏「動かないで!」

 気付けば、西烏衛雲(にしがらす えいうん)が、熟睡中の惰宮呑流比(だみや のんるひ)警視正の持ち物である拳銃を構えて、木野足袋辛(きの たびから)を威嚇している。

西烏「動くと、本当に撃ちます。太刀を地面に降ろしなさい!」
木野「黙れ屎女(くそあま)! 素人の弾って本当に当たらねえんだよな。お前みたいな震えている雑魚の弾ならば、尚更。それにその角度だと、別の者にも当たっちゃうかもよ? 責任取れまちゅか? 取れねえよなあ! 女に責任を取る能力って無いもの。責任を司る器官、無し~。女は責任感皆無!」
関川「……西烏さんは男でしょ。狂っちゃったの?」
木野「何(ど)う見ても女だろうが。女って、浅墓で、決めつけが激しいんだよな。莫迦(ばか)で思慮が足りない癖に、自分が賢いと勘違いしている、最低最悪の──」




〝バガン!〟



 木野足袋辛(きの たびから)は後頭部に一撃を食らい、昏倒した。





 ……、──。




 全裸の己(おれ)の手へ、木製鎖鎌の木製銅鐸──木鐸の部分が帰って来る。

原尿「君は一体?」

 己(おれ)は股間に木製鎖鎌を巻き付けながら、言った。

「言っただろう? 亜川鉛児(あかわ えんじ)だって。歯牙無き労働者さ。尤も──鎖鎌探偵・鋼(はがね)、という渾名(あだな)もあるがね。」

 一同は、腰を抜かしてひっくり返った。

 己(おれ)の両乳首に、ミヤマクワガタが停まる。己(おれ)は叫んだ。


「解謎(げめい)やわ!!!!!!!!!!」




 ……、──。



 沈黙(しじま)。




「え、ええと、これからどうすればよい? くさりがまたんてい・はがねならば、じたいをしゅうしゅうできる?」
 空気気味になっていたくんしゃぎょうこが呟いた。喋れるオランウータンが空気気味になるのは珍しい。

 己(おれ)は虹色のツナギを着乍ら、
「お望みとあらば。」
と囁き、指を鳴らした。大量のミヤマクワガタが己(おれ)の体を取り囲み、意識のある者達は全員、再度、尻餅をついた。



 二十分後。

 木野足袋辛(きの たびから)は意識を取り戻したが、麻縄でギチギチに縛られている状態だ。

蒲女「お、おい! あんたが鎖鎌探偵・鋼だっていうんなら、何か言いなさいよ! 何をさっきから、大量のミヤマクワガタを見ながら黙りこくっちゃって……。」

 もう、昼下がりだ。

亜川「ふむ。まあ……だいたい情報も整理出来た。状況を解説しよう。その前に、西烏衛雲(にしがらす えいうん)──いや、薫煮萬子(くんしゃ よろずこ)。拳銃を惰宮呑流比(だみや のんるひ)警視正のホルダーに返してやってくれ。起床時に無いと、五月蠅いからな。」
萬子「……!」

 西烏衛雲(にしがらす えいうん)もとい薫煮萬子(くんしゃ よろずこ)は、大人しく拳銃を返した。惰宮呑流比(だみや のんるひ)は未だ高鼾(たかいびき)だ。

くんしゃぎょうこ「このこ、おばばのまご!?」
亜川「それも含めて、説明するよ。」


 己(おれ)は警視正の鼻提灯に映(は)えた秋空を眺めながら、巌(いわお)に凭(もた)れた。
 そして、言の葉を紡(つむ)いだ。


亜川「そもそもこいつらはミヤマクワガタではない。常に、大量に、岐阜県(またおかけん)の各地に仕掛けてある。県内に限らないけどな。」
島昼「は、はあ。」
亜川「こいつらは、高性能な盗聴・盗撮用ミヤマクワガタ型ドローン〝㋟靉云♨罒罘(たあいんゆもうぶ)〟。」
蒲女「は?」
くんしゃぎょうこ「たあい……何?」
亜川「岐阜県(またおかけん)の各地に、高性能な盗聴・盗撮用ミヤマクワガタ型ドローンを仕掛けたんだ己(おれ)は。〝㋟靉云♨罒罘(たあいんゆもうぶ)〟という機種名は、己(おれ)が付けた。」
原尿「その、不愉快で無意味な固有名詞をやめろ。擬音でしょそれ? それでユーモアがあると思っているのは、君だけだよ。本人の自己満足。無意味な擬音を連呼して笑いを取ろうなどと考えている連中は、世の中で一番嫌いでね。永遠に外を出歩かないでほしいし、当然だが、インターネットもやめてほしい。迷惑だ!」
惰宮「五月蠅え!」


〝ズダーン!!!!!!!!!!〟


 惰宮は寝た儘威嚇射撃をして、寝言を言った。

惰宮「……ふぅ……気持ちイイ……。」
関川「あ、あんたねえ。」
蒲男「……し、併し、あのー、えー、そのー、岐阜県(またおかけん)の各地に仕掛けたとはいえ、数に限りがあるだろう……?」
亜川「六万六千六百六十六疋(ひき)。数年前から徐々に、仕掛けていった。ま、今回の出来事に関係するであろう機体のデータを先程確認した、といった感じだ。凡百の警官にならばいざ知らず、一切の申し開きは、己(おれ)には通用しない。㋟靉云♨罒罘(たあいんゆもうぶ)が見とったもんね!」


 全員、観念したように俯いた。



 己(おれ)は、ゆっくりと全員に、語った。



 先ず、己(おれ)は、鎖鎌探偵・鋼だ。あとは自己紹介の時言った通り。本名は亜川鉛児(あかわ えんじ)。給料の殆どを㋟靉云♨罒罘(たあいんゆもうぶ)の新規購入や維持に使っている。

 惰宮呑流比(だみや のんるひ)警視正は、ただのよっぱらい警官だ。岐阜県警(またおかけんけい)からも軽んじられており、巷間を賑わす連続銀行強盗犯・巽清伸(たつみきよのぶ)の捜査にも参加させてもらえず、不貞腐れていたところだったらしい。
「巽清伸(たつみきよのぶ)は俺が撃つ! 冶(と)かす!」
と喚きつつ銃を乱射していたら、同僚が例の竹簡を渡したらしい。例の竹簡は、届いたっきり、岐阜県警(またおかけんけい)に黙殺されていた、極めて重要度の低い案件だったようだ。なお、警視正と己(おれ)は或る事件絡みで知り合って以来、幾度となく共闘して来た。

 原尿遍偏(もとばり ぺんぺん)はサイボーグで、ブルーギル放流協会・げんにょ~s(ズ)の会長。ブルーギルを沢山放流することで、〝本気の善意〟で日本の食料問題を改善しようと考えている、非常に厄介で真面目な男性。自分を〝データで闘う人物〟だと思っているが、眼鏡をかけておらず、データも浅いものや間違っているものがほとんど。普段はヌートリアバーガー専門店であるチェーン店・終末の記念で清掃などをしている。八幡湖(はちまんこ)での放流会──協会ではこれを〝マホラ〟という──を毎年計画。なお、ブルーギル放流協会・げんにょ~s(ズ)への資金集めの為に、連続銀行強盗を行った。岐阜県警(またおかけんけい)は〝ビームも撃ってるし、ロボットではないか?〟と推理し、犯人を仮に巽清伸(たつみ きよのぶ)と名付け、捜査中である。

 木野 足袋辛(きの たびから)は元は真面目な郵便局員の男性。四十九歳。郵便の竹簡を盗み見たことで原尿が連続銀行強盗犯だと看破し、金目当てとちんこ漁の一石二鳥を目論んで、機関銃をカヌーに載せて待機していたのに、湖に機関銃を落としてしまった。

 関川具一(せきかわ ぐいち)は、観光客の女性。剣術家の鍛練と、趣味の凧揚げをしに、八幡湖(はちまんこ)を訪ねたようだ。普段は倉庫で梱包や伝票記入をしているが、フォークリフトで三回事故を起こしたのでかなり減給済みであり、責任のある仕事をあまり任せてもらえなくなっている。霊感が強く、霊も斬れるが、銃刀法を気にしている為、刀ではなくバールを持ち歩いている。父の関川三告(せきかわ みつぐ)は、躁鬱なバスの運転手で、山賊的風貌。

 櫓等蒲男(ろら がまお)二十七歳は、あまりの仕事の出来無さからスーパーのレジ打ちを馘首され、何とかガソリンスタンドで働き始めたものの、三年前に倒産、それ以来無職に。ブルーギル放流協会・げんにょ~s(ズ)のメンバーではあるが、あまり活動には熱心でないようだ。この〝マホラ〟準備も乗り気ではなさそうな様子が一挙手一投足に滲み出ている。ちゃんと㋟靉云♨罒罘(たあいんゆもうぶ)が、映像も音声も捉えている。妻である蒲女(がまめ)には頭が上がらないらしい。その為、妻の怒りを買わぬよう、最低限の働きをせねば、と、冷や汗をかきっぱなし。なお、〝スカイフィッシュのような「空飛ぶ陰茎」〟という一節で思い出したが、おそらく十八禁漫画家の姉釜松巨(あねかま まっきょ)先生と同一人物だな? 代表作『全部くれー♡性欲しか頭にないにゃ! 常に観客の立場で女をお・う・え・んしようかな ~軟弱に都会でGo! Go!~』は怪物的大ヒット。〝高評価レビューお願いします事件〟で大炎上して三年前にインターネットから消えたが……。そのエロ漫画での利益絡みで、金になると見染められ、櫓等蒲女(ろら がまめ)と一緒になった、もとい、させられたのか……?

 櫓等 蒲女(ろら がまめ)はブルーギル放流協会・げんにょ~s(ズ)の副会長。蒲男の妻。ヌンチャクを振り回す体重110kg超えのパワー系の女性で、趣味はチェロ。自動販売機の補充員。彼女は自動販売機にランダムに缶や小石、ペットボトルを詰め込むので、困ったものだ。原尿遍偏(もとばり ぺんぺん)とはやや歳が離れているが、三年前に自動車学校で知り合い、ブルーギルの放流計画をほぼ二人で練り上げた。原尿遍偏(もとばり ぺんぺん)とデキている……というような感じだが、その実、巧妙な銀行強盗計画書を渡す代わりに原尿遍偏(もとばり ぺんぺん)から金銭を受け取っている。金目当て。更に、原尿遍偏(もとばり ぺんぺん)のブルーギル思想に同調するふりを見せながらも、原尿遍偏(もとばり ぺんぺん)に秘密で違法デンキヤツメウナギを養殖しボロモウケ計画を立てている。

 西烏 衛雲(にしがらす えいうん)は、借金から、ブルーギル放流協会・げんにょ~s(ズ)に櫓等蒲女に無理矢理入れられた人物。長髪気味の暗めの茶髪の高めの声の美青年、だと思いきや、短髪気味の暗めの茶髪の低めの声の美少女だったわけだ。己(おれ)の勤務先へ樹脂パレットや木製パレットを送っている会社に勤務しているが、担当範囲が逸れている為、本日まで己(おれ)との面識は無かった。数独が趣味だが、それもあまり早いわけではない。数独以外は特技無し、趣味無し。会社では女であることを隠してはいないが、西烏 衛雲(にしがらす えいうん)という偽名は通している。本名は薫煮 萬子(くんしゃ よろずこ)だろう? 会社で虐められていることは分かっている。借金の件については、蒲女よ、徳政令(チャラ)にしてやれ。でないと己(おれ)はお前を岐阜県警(またおかけんけい)へ突き出すぜ。で、萬子(よろずこ)。あと二週間したら薫煮 凝子(くんしゃ ぎょうこ)が帰って来るから、退職して五平餅屋を継ぐといい。

くんしゃぎょうこ「おばばかえってくるの!?」

 ああ。萬子(よろずこ)よ。何(ど)うやら、このオランウータンは、君の祖母・薫煮 凝子(くんしゃ ぎょうこ)の知り合いらしい。だいたい三年前に薫煮 凝子(くんしゃ ぎょうこ)はボーケーオ県へ香辛料の購入に発った。

萬子「……ボーケーオ県……?」

泣くなよ。ラオスさ。五平餅屋として、香辛料に拘(こだわり)があるのだろう。もう既に日本へは二週間前に帰国しており、今は熱海にいるらしい。あと二週間で八幡湖(はちまんこ)へ帰って来る。




 

〝ピピーッ!〟


「おーい! 何かいっぱいおるやんけ! およよよよよよ。乗るのか!?」
「あ! 父ちゃん!」



 

 
 
 

 関川三告(せきかわ みつぐ)がバスに乗って登場。既にだいぶ飲んでいるようだ。山賊的風貌で、泣いている。精神が、安定から遠い状態であるとみえる。
 粟泡淡(りっぽうたん)と島昼曲路(しまびるのきょくじ)についても語ろうと思ったが、いつの間にか一雨来そうな空模様になっている。ここらで切り上げだ。




 全員バスに乗った。




 バスが動き出す。

原尿「フン! 〝マホラ〟は実行する。だが、八幡湖(はちまんこ)は今回の一件でマークされるかもしれないからな。よそでやるよ。」
 大量の容器をバスに乗せている。ブルーギルの稚魚であろう。

木野「次からは、この魔太刀・鬱黄(うつおう)でちんこ漁をするよ。協会の男の子たちも良かったけど、鋼、アータ、覚悟しておきなさいよ今度会った時は!」
 相変わらずズボンやパンツ無しだ。狂人特有の技術で、麻縄をとっくに解いている。

関川「今日は変な感じになっちゃったけど、父ちゃんにも久し振りに会えたし、終わり良ければ全て良し、だね! 亜川君、正月は一緒に凧揚げしようね!」
 何故か、己(おれ)ではなく、萬子を睨み乍ら言った。

蒲男「バスから降りたら、また、漫画を描き始めよう! 元手のお金は、こいつで頑張って作ろう!」
 櫓等蒲男(ろら がまお)は、妖刀・濁青(だくせい)の鞘を鳴らした。すっかり、貧弱な俤(おもかげ)が消滅している。

蒲女「ケッ! ま~た金蔓探しからか。ま、こっちはこっちで違法デンキヤツメウナギの計画を進めるだけ……。ピュ~♪」
 櫓等 蒲女(ろら がまめ)はヌンチャクを弄びながら、口笛を吹き始めた。

萬子「先ずは街で食料調達だね!」
くんしゃぎょうこ「がってんだ、まご!」
萬子「亜川さん。今回は本当にありがとうございました。祖母と共にデススパイスキッスを再開店させますから、正月は是非八幡湖(はちまんこ)へ。」
 何故か、己(おれ)ではなく、関川を睨み乍ら言った。

粟泡淡「マア、ヤツガレハドウデモイイガ、シマビルハマータカタナヲウツキジャロウナア。」
 老執事はバスの窓を拭き乍らぼやいた。どこか、上機嫌な様子だ。


 惰宮呑流比(だみや のんるひ)警視正は、まだ高鼾(たかいびき)。抑(そもそも)、バスにだって、己(おれ)がぶち込んだ。


「うわああああああん! こんなにいっぱいお客様いたら、緊張するよおおおおおおおおおおお!」
「父ちゃん! ちゃんと駅まで安全運転で、宜しくね!」



 無人駅まではまだ五十五分はあるだろう。夕(ゆうべ)。鬱蒼と生い茂る郡上山脈のマイナスイオンが、己(おれ)のモヒカンを撫でる。

 扨(さて)。

 正月は、何(ど)うしたものだろう。八幡湖(はちまんこ)で凧揚げ、ってか? ──正月を何(ど)う過ごすか、という悩みと比べたら、オート三輪を八幡湖(はちまんこ)へ置きっぱなしにしてしまったことなぞ、些細な事だ。




 

  遠ざかる湖を背に岪が人生揺らしゃ完す秌

  トオザカル  ミズウミヲセニ  ヤマミチガ  ジンセイユラシャ  マットウスアキ







『鎖鎌探偵 鋼』第二十一幕「巽清伸の冶かし方〝協会ちんこ漁〟」非おむろ──島昼鼎立困書館

クサリガマタンテイハガネダイニジュウイチマクタツミキヨノブノトカシカタキョウカイチンコリョウヒオムロシマビルテイリツコンショカン




                    〈了〉


脱稿2023/11/05 脱肛2023/11/15


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