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『三体II上』(劉 慈欣)を読んで

なにせ内容が複雑だから、1から間を開けない方が良いだろうと思い、高速で読み進めた。

1と違い、全体的なワクワク感は薄れていた。最も重要でハイレベルな謎、「一体、この話は何を言っているんだ!?」が明かされてしまったから仕方ないか。本書は、1から一世代経った後が舞台。三体文明が世界的に明かされ、「さあ!どうやって、圧倒的力を持つ他文明から地球を守るんだ?」という主題に真っ向から立ち向かう人類を描く。逃げるもの、諦めるもの、抗うもの、責任を負うもの、、、今回はルオジーを主軸としながら、複数の人物の視点から連続的に進行していく。超長期的な話かと思いきや、意外と数年単位で展開するので、割と話は追いやすい。

本書が面白くなるのはp122からで、それまでは、意地の悪いよくわからない描写が延々と続く。p122の国会演説でおぼろげだった意図が一気に輪郭を持ち、小説としてのワクワクが加速している。但し、この記事のトーンで伝わってしまう通り、そのワクワクの頂点はここであり、そこからは緩やかに減速していった。ぼくの場合は。ドキドキの部分を抜き出してみることにする。

面壁計画について簡単に振り返っておく必要があるでしょう。(中略)現在、地球上のあらゆる活動は、三体人にとって開いた本のようにいつでも読める状態にあり、人類社会にはもはやどんな秘密もないこと。(中略)どんな計画も予定も配備も、その大小に関係なく、地球上で情報化された瞬間、4光年彼方の敵司令部の目にさらされます。(中略)三体人は目に見える思考によってダイレクトにコミュニケートします。このため彼らは、陰謀や偽装、欺瞞の能力が著しく低く、この点は、人類文明にとって大きなアドバンテージになります。(中略)人類には今もまだ、秘密の領域が残っています。それは、我々個人個人が持つ、心の中の世界です。

というわけで、特に世界的権威でもない大学教授のルオジーがこの作戦の代表者、面壁者として選出され、物語が展開されていくわけだが、この設定ならびに「面壁者」という存在が面白かった。自分の頭、心の中でしか作戦を考えられないため、周囲は、言動や態度を全てフェイクだと捉える。だから、ルオジーがこの立場を辞する際も、受諾はされるが、本当の意味では受諾されない=任命されたが最後、死ぬまで逃れられない運命、になる。真面目なのかふざけてるのかわからない、文明の終わりに滑稽な状況に持っていく設定が秀逸だ。面壁者としての葛藤、破壁者として「面壁者の本音」を調査する敵対組織の見事な看破など、読み応えがあった。

全く本筋と関係ない話しをする。文中の回顧の中で、「昔、国語の先生から、『長文問題を解く際は最後の設問を見てから文を読むように。潜在意識が働いてくれるから』と言われた」といった内容があった。ぼくも似たアドバイスを受けた記憶はあるし、今なら確かになと思う。ただ当時は、いきなり後ろを見る居心地の悪さや効果の疑わしさやズルしてる感じやらで、実行していなかった。でも、絶対にその方が効率的だった。そしてこれは今も変わらない。言われた通りの順序、暗黙の了解で定まった順序でやる必要なんかない。けど、例えば本を読むのも、実力をつけようとするのも、順番を考えずにやっている。今だって。

太陽系外の文明との衝突、なんてSFで大規模な小説を読んでいるからか、そもそもの状態から疑うことを覚えてきた気がする。

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