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時間自由 子連れ出勤可 9割がワーママ、それでも成長する新しい働き方の会社の作り方(1)

※2019年5月16日初出の記事をnoteに引っ越ししたものです

勤務時間も曜日も自己裁量、社員の9割以上が女性で、そのまた9割以上がワーキングマザーで、もちろん子連れ出勤可。正社員は数人なのに北は仙台から九州まで事業を展開するすべてが型破りの企業「お掃除でつくるやさしい未来」さん。

「自分が住みたいやさしい地域をつくる」ことをめざして、マンションの階段掃除という単価が安く非効率であまり人気のない仕事を、逆手をとってワーキングマザーにとって理想の仕事に変えてしまう会社がどうしてでき上がっていったのか、前田社長にその過程をじっくり聞いてみました。

 話し手:​株式会社お掃除でつくるやさしい未来 代表取締役 前田 雅史さん
 聞き手:サイボウズ 野水

独立して最初の10年はブラック企業 「社員は駒」だった

29歳の時だったんですが、一部上場の大手の建具メーカーで営業をしていて、30目の前にしてこれからの人生どうしようと考えて、結局ひとりで独立してお掃除始めようって思ったんですよ。

どこか仕事をもらえるあてがあったんですか?

​飛び込みで営業してました。けど全然ダメ。独立した最初の3か月間2万、2万、2万だったんですね。

うわー、高校生のアルバイトより安い

​転機はちょうど年末、コインパーキングで福岡の繁華街のど真ん中に広い駐車場があったんです。そこを紹介してもらって、毎朝365日、朝は大体6時ぐらいから2時間かけてやり続けたのが転機になりましたね。お金もよかったし。

でもそれ、飲んだ人とかいろいろ捨てていきそう

大変でした。上からのとか下からのとか、普通にありましたね。

辛い…

当時、酔っ払い運転する人がいっぱいいたので、バーを折って出ていく人とかいるわけですよ。
みんなでバーンと折って、続く人たちが「出ろ~」みたいな感じで。

​さすが福岡

バーが折れると僕の携帯が鳴るような仕組みになっていて、僕は何時だろうと緊急出動です。今でも覚えているのが1999年の12月24日クリスマスイブの日。
今日ぐらいは大人しくしておいてと思ったけど、案の定、僕の携帯が鳴ってバーが折られましたという通知がきて、急いで替えに行ったら、そのうち雪が降っていて、正面にスナックがあったんですけど、そこからおじさんが歌うラブマシーンが聞こえてきたんですよ。無性につらかったです。

ある意味、自分がマシーンになりきるみたいな感じですね

そうそう、でもよくよく考えてみたら、自分が働きたい理想の会社を創るという想いがあって独立したので、その時の原点にふと帰ったら強くなりました。
俺の目標はうんこ拾い屋とかそんなんじゃなくて理想の会社を創りたかったんだと、そのときに再確認できました。

そこから会社は変わったんですか?

いやいやまだまだ。やっぱり冷静に考えて、掃除があこがれの仕事ではないし、そしたら他所では受からないから働かないといけないので掃除でもいいかという人しか来ないわけですね。
でも、そんなモチベーションでいい仕事をするわけないので、教育しないといけないわけです。

教育してある程度のレベルまでいくと、それまで夢も希望もなく他所では受からなかった人間が他所でも受かるレベルまでなるわけですよ。そうすると「社長、会社を辞めたいと思います」と言って卒業していくんです。

うちは学校じゃないんだから、みたいな事思うようになりますね。

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何やってるんだろうみたいな

そう思うと心のどこかで、言葉は悪いんですけど、「教育なんかするもんか!」って思っちゃうんですよね。
教育すると辞めるんだったら教育しない方がましだって。​

だんだんそうやってブラック企業ができあがっていく図式ですね

そうです、超絶ブラックになっていきますね。
でも、たまたまある女性が「前田さん雇って!」と言ってきて、その人はもともと知っている人ですごくスキルも高かったし人柄もよくて、その方が来てくれた時にいろいろなことに気づかされましたね。

例えば?

例えば、口では教育と言いながらも、心の中では教育を放棄している自分でいて、片やその方は、当時子どもが高校生だったから、僕が駒としか扱っていないような人間に対しても正対して向き合っている姿とかを見ると。

やっぱり、お母さんは偉大ですね

そうですね。教育の大切さと、それを放棄してどんどん会社が悪くなっていったのは自分の責任だというのをすごく痛感させられました。その時に、女性のそういう感性を取り入れて、お互いに力を出し合いながら組織を変えていきたいなと思いだしたのが、本当のスタートですね。

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春日市の本社で社員と談笑する前田さん。もう社員を駒と扱う雰囲気など微塵もありません。

社長の行動が社員を動かし、社員の行動がお客様を動かす


それはいつごろの話ですか?

それは10年ちょっと前ですね。その後いい会社にしたいと思って一生懸命やって、まずは教育をもう一回し直そうと。
考えてみると、いままで教育とか考えなくて駒扱いされている方が居心地がいい人が集まっていたんですよね。

なるほど、そうすると姿勢が変わったら人が入れ変わっていったんですか

そうやって教育をすることに対して、やりがいとか働きがいを持ってくれている人がどんどん残っていくようになりますよね。
やっぱり、経営者次第だなというのは思いますね。

教育を受けたいと思っている人が来てくれる?

受けたいというか、教育したいと思っている僕に対して居心地がいい人が、残ったんだと思います。

それで女性の割合は自然と上がっていったんですか?

求人を出した時に、女性が応募しやすいような求人に変えようと思って、地元の子育て中のお母さん向けの求人に変えたんですよね。
そしたら、応募がくるんです。

応募がくるんだけど、会社の仕組みが追いついていないので、当時はいい人が来たと思うけど、面接の時に例えば「あした、朝7時ですけど来れますか?」言ったら来れるわけないという話ですよね。

そんな時に、岩手県の農業法人で3時間農業しませんか?という取り組みをしている会社の情報を仕入れて、そこの会社の勉強会が山形県であるというのを聞きつけて、そこの農業法人の取り組みを勉強しに行ったんですよね。

それがヒントになって、具体的に何をどうすればいいというのが閃くきっかけになりました。

どういうヒントが得られたんですか?

いままではお客様の要望に会社を合わせていってたんだけど、会社の強みにお客さんを合わせるという考え方に変わったところが大きいです。
お母さん方が全力で最高のパフォーマンスをできるところに絞ればいい。それは何かというと、アパートとかマンションとかの共用部分のお掃除。

共用部分のお掃除って日中だったら例えば、10時から11時の間にしなくてはならないようなこととかないわけですよね。

株式会社お掃除で作るやさしい未来の主力事業は、マンション・アパートの共用部の清掃。
従来は単価が安くて移動も多く業界ではどちらかというと不人気仕事だったが、曜日や時間に融通が効き、子供も一緒に働くことができる点に着目した前田社長が、働くお母さんむけに、直行直帰、勤務時間は自分の裁量で時給ではなくタスク方式、勤務地近所、子連れ可という働き方に変えて新しいビジネスモデルを作っている。

管理者も見てない不人気職場で嫌々働くパートと、子供が見ているから手抜きせず、待たせないように早く終わらせようと頑張る近所に住むワーキングマザーの差はぱっと見ただけで歴然とした違いがわかるレベルで違う。

自分たちの住む地域を、子どもたちが暮らしやすいやさしい場所にするという理想を持ったお母さんの掃除で、早くて丁寧でそして近所に優しい。

アパートの共用部分に目をつけたというのは、試行錯誤の末なんですか?それとも狙って?​

狙ってですね。本来、単価も低いですし、みんなやりたがらないところなんだけど、僕たちの会社の強みが昼間の日中の何時間、3時間とか4時間だけど、そこにはスキルも高いしモチベーションも高いお母さん方が集まるので、それにサービスを合わせるべきだと思って。

なるほど。当時はこの(福岡市、春日市)周辺だけだったんですよね?

会社の近辺でやっていたというのは、僕たちの中で、自分たちが子育てしている町を、子育てしたくなるような安全安心で優しい町に世代を越えて育てていく、というフレーズがあるからですね。​

自分たちの町だから自分たちで守るというところが基本になる

そうですね、でもそのうち福岡の中でも20kmとか30kmとか離れた遠方から依頼がきだして、どうしようということになるんですね。
ただ、彼女たちの頑張りが評価されてどんどん仕事が広がっていっているので、断るという選択肢はないわけです。

でも評価されるって、普通に考えたら管理会社できちっとしている、毎月曜日8時から9時の間に必ず入りますとかと言っている方が評価されそうな気がするんですけど、そうではないですか?

自分たちが暮らす町が、自分たちが暮らしたくなるような安全安心だというところを基準に持っていくと、例えばマンホールにヒビが入ってますとか、掃除とは関係ない報告とかもあがってくるようになるんですよね。 「掃除の会社なのに何でそこまで気が利くんだ」と

掃除するだけではなく、ちゃんと建物全体を見ているというのが伝わる感じですね

きっちりきっちり決まったルーティンで同じことをするんだったらロボットでもよくなるわけですよね。

ルンバでいいですよね

なので、そうではないところ、人間力みたいなものが評価されて広がっていったんだと思います。「実は遠くでも物件を持っていて、そこもお願いね」みたいな感じで。​

でも、それは私の住んでいる町ではなかった、と

だったら、そこで子育てしているお母さんがいるはずなので、そこのお母さんとつながればいいという風に考えたわけです。

次は全国規模でこのすばらしい社風を保ってゆく取り組みの中身を聞いてます。


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