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【ゲームエッセイ】クソゲーを朝まで遊んで得た最高のカタルシスについて

ボクは駆け出しゲームライターであると同時に、GPAが低空飛行を続けるクソ大学生でもある。

古来よりクソ大学生の仕事といえば、朝から晩まで遊びほうけることと決まっている。だからボクは日々ゲームについての記事を書く合間を縫って、クソ大学生仲間とゲームに耽溺しているのだ(どちらかといえばゲームの合間に記事を書いているような気もする)。

時間はあるけど金がない。それが大学生の宿命だ。でも金はなくてもゲームは遊びたい。そこでボクたちが目をつけたのは、中古ゲーム屋だった。

中古ゲームショップで300円のPSソフトをdigる

なんでもオシャレな人達の間では、レコード屋を訪れてレコードを1枚ずつチェックしながら良い音源を探すことを「dig(でぃぐ)る」と言うらしい。

でぃ…でぃぐる……。なんてオサレな響きなんだ。そういえば村上春樹もエッセイでよくレコードの話をしている。オシャレな人間になるためには「digる」ことが必要不可欠なのかもしれない。

ボクと先輩のNさんは下宿の近くにある古本屋へ足を運んだ。

その古本屋は中古ゲームも扱っていて、中古のセガサターンまで置いてあるというよくわからない在庫の充実ぶりが特徴だった。

入店後ボクらが目指したのは「特価300円!3枚同時購入で合計500円!」とデカデカと書かれた紙の貼られた棚。そこには外箱や説明書が無いPS1・PS2のディスクが山のように積まれている。

1枚で300円ですら破格なのに3枚で500円だって……この店の店員は算数が苦手なのか?と、ご機嫌になりながらボクは無双シリーズとウイレレとFIFAと謎の乙女ゲーが7割を占める特価コーナーでdigり始めるのだった(このときのボクがオシャレどころか残飯を漁るカラスぐらい惨めだったのは言うまでもない)。

レトロゲーへの熱狂

両手にゲームのぎっしり入った袋を握りしめて下宿へと帰宅したボクらは、さっそく初期型のPS3を起動してゲームを開始した。

マ●オカートと似通った点が多すぎる「クラッシュ・バンディクー レーシング」や、一撃で勝敗が決する格ゲー「ブシドーブレード」をはじめとした欠点はあれど憎めないゲームにボクらはたちまち熱狂した。

そして、その日買い込んできたゲームの中で最も時間をかけてやりこむことになったのは「THE BATTLE OF 幽★遊★白書~死闘!暗黒武術会~120%」だった。PS3にディスクを入れた時のボクらは、まだこのゲームがどんなに恐ろしいゲームか知るよしもなかった……。

「THE BATTLE OF 幽★遊★白書~死闘!暗黒武術会~120%」

このゲームは「鉄拳」や「バーチャファイター」シリーズのような3D格ゲーで、元々ゲームセンターで稼働していたアーケードゲームのPS2移植版だ。

amazonレビューを覗いてみれば「ゴミゲーム」「全然ダメ」「ゲーム人生唯一の大凶作。」など罵詈雑言の嵐。珍しく星4をつけているレビューがあると思ったら「あまり期待しなければそれなりに楽しめる」と、褒めてるんだか貶してるんだかわからない。

しかし、低評価がなんだ。面白いかつまらないかは自分で遊んで決める。それがゲーマーってもんじゃないのか。ボクは鼻息荒くストーリーモードを開始した。

「いや、これつまんねぇわ」。それが第一印象だった。攻撃ボタンが□(パンチ)と△(キック)の2つだけで、コマンド技もイマイチ派手さに欠ける。ストーリーモードのCPUが弱すぎてパンチボタンを連打するだけで余裕で勝てるのも地味さを助長していた。

霊銃を撃たずに素手だけで朱雀に勝つ幽助。剣を使わない飛影。魔界植物を出さない蔵馬。CPUもコマンド技をほとんど使ってこない。ハッキリ言ってどのキャラを使ってもやることは同じだった。ただし、戸愚呂弟と戦うまでは。

戸愚呂100%の恐怖!

ストーリーモードの最後に立ちはだかる最強の敵・戸愚呂弟(100%)。彼の強さは、それまでフィーリングでボタンを連打して勝ち続けてきたボクらに言葉を失わせた。

強すぎる。遠距離では「指弾」の連打で一方的にダメージを与えられ、近距離攻撃は1コンボでHPを6割以上削られるバカ火力。さらに一番恐ろしいのは、こちらの攻撃中に戸愚呂弟が割り込み攻撃を仕掛けてくることだった。これまで連打で勝てたのでまともなコンボを習得していないボクらにとって、戸愚呂弟の割り込み攻撃は鬼門だった。

勝てない。それどころか試合開始5~7秒でKOされる。これが戸愚呂の100%なのか。80%はそんなに強くなかったのに、おかしいだろ。なんで80%から100%で2倍以上強くなるんだよ。開発会社も算数苦手なのか。

100%戸愚呂との戦いが始まって早1時間。ボクとN先輩は交互にコントローラを持って戸愚呂に挑み続けていた。一向に突破口は見えない。とにかく戸愚呂弟が「フワッ!」と変な声を出して力を解放してくる割り込み攻撃が強すぎた。

しかもゲームオーバーになるたびにN先輩が「下手クソ!」とか「この雑魚!」とか「人生やり直せ!」とか無茶苦茶言ってくる。もうボクのメンタルは崩壊寸前だった。

もうそろそろいいかな……。ボクは「もう遅いんで、今日は帰りますね」と呟いて立ち上がろうとした。しかしN先輩が食い気味にこう言った。

「おまえもしかしてまだ自分が帰れると思ってるんじゃないかね?」

と、戸愚呂がもう一人……。だが確かにここで諦めてはゲーマーの名が廃る。幸いボクらには単位と引き換えに手にした時間がある。じっくりやってやろうじゃないの。

ボクとN先輩の立てた作戦はシンプルだった。戸愚呂弟の割り込み攻撃は強力だが、割り込み攻撃を使ってくるかどうかは運次第。だから戸愚呂弟が割り込み攻撃を使わないのを祈って、ひたすらパンチボタンを連打する。あとはただ勝つまでコンティニューし続けるだけだ。

それから…

メチャメチャ苦しい壁だって ふいに なぜか                                           ぶち壊す 勇気とPOWER 湧いてくるのは
メチャメチャきびしい人達が ふいに 見せた
やさしさの せいだったり するんだろうね
                                     『微笑みの爆弾』歌:馬場松子 作詞:リーシャウロン

午前6時前、外はもう明るくなり始めた頃。ボクらは力尽きて放心状態だった。テレビ画面にはエンドロールが流れている。

勝った。俺たちは戸愚呂弟に勝ったんだ。愚直すぎる作戦ではあったけれども、それでも戸愚呂弟のHPを削りきったんだ。とてつもない疲労感とカタルシス、まるで幽助になって本当に戸愚呂弟と戦ったかのような気分だった。


エンドロールが終わる頃、自販機に飲み物を買いに出たN先輩がコーヒーとコーラを持って部屋に帰ってきた。

「お疲れ様、どっちがいい?」

ア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ・ます!



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