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瞬間を切り取る。
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#詩

暗所

三階なのに地下室のような場所
長いベンチの上に何人かの男達
ゴーと永遠と空調の音

思えば明るさを求めてやって来たのか
それとも暗さを求めてやって来たのか

浅い海か
深い海か

溺れてしまえば
同じこと

もうすぐ幕が開く
何も考えずに
何も思わずに
ぼんやりとした意識のまま

疲れた椅子にもたれかける

空しさの理由

何かが終わったあと
何処となく空しいのは
容れ物を無くしてしまったから
溢れた想いは
飛翔し空を漂う

階段

階段

 僕は階段の最上階に佇んでいた。誰かが来ないかもわからない。登ってきたところで「おはよう」「お疲れさまでした」のような簡単な言葉を行き来するだけ。無言の時間の方がずっと長い。むしろその時間の方が心地よかった。誰にも侵害されることのない時間も必要だ。その正方形や長方形の空間でゆっくりと時間が過ぎていく。

 僕は最近空を見ていない。

戻らない風景

戻らない風景

胸高鳴った夏の日
どうしても手に入れたいものがあった
紅い太陽が天まで昇る

──何故?

と私が呟く

羞恥とは得難い体験の一つとして
記憶とは失うことのできない存在として
どこまでも付いてくる

砕けた心の一つ一つに命が宿る

見て見ぬふりできぬ光源のように
私の記憶は痺れ動けない

──いいんだ、それで
──仕方がなかったんだ、それは

また私が呟く

──バイバイ
──また明日
──それじ

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海のかほり

海のかほり

あなたが差し出した
透明な箱
蓋を開けると海が広がるそう
その時
私は開けなかった
開けられなかった

どこかで
あなたを見失った真昼時
ビルとビルの隙間から
眩しい光が差し込む

誰もいなくなった
小屋に
私と私

引き出しの中に透明な箱
いくつもの扉があって
檜の香り、ラベンダーの香り、金木犀の香り

どれもあなたの好きなもの

再び訪れない日々を
懐かしむのは悲しいから
箱を床に落とした

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お情け

いつでも予防線を張って
そして非難を
受けないように
受けないように
ヘラヘラしているどうしようにもない奴ら

見守られているのが心地よいと感じるどうしようもない馬鹿者で

生ぬるい夢を見続ける哀れな人達なんだろう

見守る側も気持ちが悪い
優しい眼差しというのは嘘っぱち
優しい眼差しを向ける己が好きなだけ

芸術の底辺を彷徨う愚か者
努力を見せようとするな
情けをかけられているに過ぎないと気付け

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呆却

悲惨な体験を語り継ぐには
あまりに悲惨すぎた
現実が虚構を超え
現実が想像を超え

その時だけ
その瞬間だけ
まじめ腐った
深刻そうな
顔をする

明日から何事も無かったかのように忘れる馬鹿のくせに

真面目な顔で
深刻な顔で
世界が変わるなら誰も苦労しない

なればこそ
隣人に
ほほえみを

狂った土曜日

行き場を無くした虫のような車たちがぐるぐる
コンクリートの上を彷徨っている
泣き喚く赤ん坊
殴り合う若者たち
転ぶ老婆
突然叫ぶおっさん

目の前は阿鼻叫喚の地獄が広がっていても
イヤフォンで耳を塞ぐ

ねぇ、どんな音楽聴いてるの?
JPOP?
KPOP?
HIPHOP?
それとも
演歌?
ロックンロール?

どのような問いにも答えず
喧騒の中をモーセの如く歩く
多分自分が刺されても
しばらく気づ

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暇人

僕はやることなく過ぎていく日々を
やることなしにただ眺めている

やることといえば
人の粗探し
違和感があれば反発し
否定したくなる
あわれな暇人

人を信じることもできず
信じようともしなかった
本当は信じたいくせに

戻る言葉に
ただ、ただ、
信じられなかった自分に
心が薄くなる

人に期待しないと言いながら
どれだけ人に寄りかかり
頼りにしているか

どうしていつも裏返しの心が
僕の心の中で

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深夜の花火

深夜の花火

深夜にきらめく楽しい思い
──私達案外上手くやっていけるんじゃない?
ぽっと照らされる未来

だが相手の顔暗くて見えない
答えを待つが、どこにも答えは無い

瞬間の光は
私の内側だけを盛大に照らした

どこにも届かない光

──きっと上手くいくよ
あなたの瞳に光は無かった

思い上がりの花火は
真っ暗な空に消えてなくなる

不安

不安という木に縛り付けられて
身動きできない

止まり木に宿る鳥達は
糞を垂らしてはどこかへ飛び去る

交差点

真昼時
赤く点滅するランプと
爽やかなブルーのシャツ
車が2台仲良く並んでいる

険しい顔をした人々が
うろうろと
誰かと誰か話している

無関心、あるいは関心のある車たちが通り過ぎる

しばらく経って同じ道を通ると
何事もなかったように
何かあったのだけれども
その痕跡は消されていた

夜になると
消された痕跡すらも
記憶の中から消されていく

行方不明者

後ろ姿は行方不明者
どこにも顔はなく
僕は似たような人をいつでも探している
遠くから声をかけても
振り向きもせず
どこかを目指してあるいているだけ
記憶は曖昧になっていき
ぼやけた
鮮度の低い面影が
流れる雲のよう

記憶からも遠ざかっていく
あなたは
行方不明

温度

季節にそぐわない暑さなのに
長袖のあなたは「寒い」という

いつからか、
夏でも寒い日があれば
冬でも暑い日がある

多分、
そんな風に
あなたを見つめていた
そんな風に
あなたを眺めていた

しばらくエアコンを使っていない

気にならなかった温度差は
耐え難い苦しみに変わり
まだ寒い春を過ごしている

長袖のあなたも不機嫌な顔をしている