海のかほり
あなたが差し出した
透明な箱
蓋を開けると海が広がるそう
その時
私は開けなかった
開けられなかった
どこかで
あなたを見失った真昼時
ビルとビルの隙間から
眩しい光が差し込む
誰もいなくなった
小屋に
私と私
引き出しの中に透明な箱
いくつもの扉があって
檜の香り、ラベンダーの香り、金木犀の香り
どれもあなたの好きなもの
再び訪れない日々を
懐かしむのは悲しいから
箱を床に落とした
キラキラと光る破片は
海の上の光
鳥がどこかへ、どこかへ
見えない景色の向こう側で
爽やかな風が吹く
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