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悪い天気なんてない、あるのは悪い服装だけ


ケベック(カナダ)出身のマークという友人がいる。クロアチアのユースホステルで出会った彼は、私と同じ「チャリ旅」好きである。

SNSが嫌いな彼とは、文通のように長文メールでやりとりをしている。


今年頭のこと。まだコロナが深刻化する前だったので、私たちは2020年の旅の予定を共有していた。

私は当時、春を待ち遠しく感じていた。「チャリ旅がしたいけど、暖かくならないと野宿できないからなあ。」そう愚痴をこぼした。

出発したいのに、気温がさせてくれない。寒い中、チャリを漕いだりテントで寝たって、不快なだけに違いない。そうやって、渋々諦めていたのだ。


ところが1週間後にマークから送られてきたメールに私は驚いた。

ケベックの-20度近い気温の中、彼は友達と3日間のハイキングに出かけていたのだ。雪の中を歩き、夜はもちろんキャンプ。添付された写真の彼らは、満面の笑顔ではしゃいでいた。

「確かに寒いけど、それ以上に楽しいよ!」
「寝袋さえしっかりしていれば雪の中でも余裕だよ〜何より、夜に作るスープが格別にうまい!」
「朝テントを開けた時の真っ新な雪景色ほど、綺麗なものはないから、ぜひ今度やってみて」

あまりに楽しそうに語るので、"好んで"暖かい家の中を選んでいながら不満をたらしている自分が、だんだんと馬鹿らしくなった。


マーク曰く、カナダにこんな言葉があるらしい。

The weather is never wrong, only your clothes are.
天気が悪いことはない。悪いのは服装だけ。


思い返してみると、私もチャリ旅をはじめた当初は雨に対して呆然と不安を抱えていた。乾燥したスペインでは「雨の日は移動しない」と決めていたほどだった。

でもフランスで雨予報が続いた時、さすがにずっと籠っているわけにはいかないと覚悟を決めた。大事なものにはビニール袋を2重にかぶせ、カッパをかぶり、スピードを落としながらも毎日走った。

すると、恐れていたわりに全然大したことはなくて、むしろ雨上がりの森の匂いや、肌寒い日に淹れるお茶の温もりなど、晴天の日とは別の楽しみに気付き始めた。


確かに、危険な天候というのは存在する。
安いテントで雪山で寝たら凍え死ぬかもしれないし、肌を守らず砂漠の炎天下にいたら火傷をしかねない。

でも世界のあらゆる天候の中で、人間は生きている。正しい服装と、天候に関する知恵さえあれば、生活はできるし、いくらでも楽しむことはできる。


スウェーデンやノルウェーにも、こんな言葉があるらしい。

There's no such thing as bad weather, only different types of good weather.
悪い天気なんて存在しない。あるのは様々な種類の良い天気だけ。


悪いのは天気ではなく、天気を良い・悪いと判断する自分のマインドセット。

真のハードルは、周りの環境や状況よりも、自分の考え方にあるのだ。どんな挑戦にしても、できない理由を探すことは簡単だが、工夫さえすればやれる方法、楽しめる方法はかならず存在する。


本当にやりたいことなら、完璧にイメージ通りじゃなくても、何かしらやれる方法を探せばいい。多少の不便さよりも、得られる経験や感動に目を向ければいい。

逆にやらないならやらないで、「○○の方が大切だから△△は今はやらない」と能動的に「やらない選択」をすればいいのだ。


不満を言いながら、なにもしないのが一番もったいない。それで後になって、「行動した人」を見た時に、惨めになるだけなのだ。


マークに倣って、今年は冬でも私はチャリを漕ぐ。


2020年12月8日 神奈川県相模原より
もえん

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